サウナ神 【セーラ・フーク】と【ソー・ローネ】
ボクたちは、サウナへ向かった。例のサウナ神に会うためだ。
『健康サウナ・キャノンボール』と、看板には描かれている。
「クク、一緒に入ろう」
「そうよ! ハダカのおつきあいしましょ!」
チサちゃんとマミちゃんにせがまれ、ククちゃんは困り顔になっていた。
「ワタクシは、ヨアンと入りますわ。お先にどうぞ」
「汗でベタベタじゃない? 昨日のキャンプでお風呂を借りれたけど、朝の汚れは落ちてないよ?」
「シャワーを浴びましたから」
ネウロータくんが、手を挙げる。
「ぼくとかダイキたち男連中の目があるからじゃないのか? だったら、露天と内湯で分けるか?」
「それがいいかもね。どっちかのチームが入りたい方に入っちゃおうか」
結局別々になるけど、裸を見られたくないならこれでいいかも。
「でも、サウナがございます。我々で」
「但し書きがあるわね! タオル着用のこと、って書いてあるわ!」
マミちゃんチームが、看板に小さく描かれた文字を見つけた。
ホントだ。
相当、熱波が強いのかな?
「でも、これでハダカは見られなくて済むかも」
「お願い。サウナだけでも、ご一緒させて。寂しい」
チサちゃんが、ククちゃんチームにサウナより熱い視線を向ける。
ククちゃん二人は、観念したようにため息をつく。
「姫様、ここは皆さんの言うとおりに」
「わかりましたわ。皆さんが入った後で、お邪魔いたします」
これで、ボクたちはようやく全員で入浴することに。
旅の汚れを落とすため、丹念に体を洗った。
女将さんがオススメする、血の色をした露天風呂で身体を温めて。
「サウナは長く入りすぎると倒れちゃうから、気をつけて。チサちゃん」
「水分補給大事」
無料で飲める水飲み場を利用して、サウナへ。
ムワっとした湯気が、室内に立ち込める。
立っているだけで汗が吹き出してきた。
「想像以上に熱い」
「頭がボーッとするわね!」
チサちゃんとマミちゃんが、熱気に当てられている。
「砂漠とはまた違った熱気です。マミ様、さすがに引き上げたほうがよいのでは?」
「いいえ。下がらないわ! 湯気くらい何よ!」
ケイスさんの心配をよそに、マミちゃんは椅子代わりに敷かれた平たい岩に腰を据えた。
チサちゃんが、隣に座る。
「お、お邪魔しますわ」
ククちゃんが入ってきた。
「し、失礼いたします」
珍しく、ヨアンさんも縮こまりながら入ってくる。
『お待たせいたしました。ただいまより、ロウリュのタイムとなります!』
三分後、店内にアナウンスが流れた。
「ダイキ、『ロウリュ』ってなに?」
「それはね……あ、見たほうが早そうだね?」
チサちゃんの質問に答えようとしたが、突然の闖入者を見て言葉を失う。
「ようこそ、『健康サウナ・キャノンボール』へ!」
学生服の上にハッピを羽織ったLOが、出迎えてくれた。
男女の二人組で、女性は白の、男性は黒の制服を着ている。
手には、お祭りで見るような巨大うちわが。両方とも、天使の羽のように白い。
「おおおお! あれがサウナ神!」
チサちゃんのテンションが、爆上がりした。
「我こそは堕天使【セーラ・フーク】なり!」
白い天使の女性は、セーラさんというらしい。
ミニスカセーラー服で、いかにも生徒会長といった風体だ。腕に【えるおぅ】とマンガ字で描かれた、赤い腕章をつけている。
八〇年代後半のセンスだなぁ。
「同じく堕天使じゃ! ワシの名は【ソー・ローネ】じゃけえ!」
黒い方は、インチキ広島弁口調でソー・ローネと名乗る。
真っ黒い学ランの巨漢男性だ。
野球漫画に出てくるような、茎の長い葉っぱを口にくわえ、ゲタを履いている。
学ランも襟や袖裾がズタズタだ。
七〇年代の不良かな?
彼の制服にも腕章がある。
「只今より、貴公らにサウナ神からロウリュのサービスをさせていただく!」
セーラさんが、大きなうちわを構えた。
「心せんかいっ!」
制服天使たちがバサバサと、ボクたちを巨大うちわで仰ぐ。応援団みたいだ。
「息苦しさが、軽減されたわ!」
マミちゃんが、ロウリュのトリコになっている。
「おお、ええじゃろええじゃろ!」
ソー・ローネも、ノリノリで仰ぐ。
「これがロウリュだよ、チサちゃん」
「微妙に違うけん。ロウリュっちゅうんは、いわばこのサウナ自体をいうけん!」
インチキ広島弁で、ソー・ローネは言う。
ロウリュとはフィンランドのサウナで、サウナストーンに水をかけて水蒸気を発するサウナのことだ、と教えてくれた。
「本場ではっ、シラカバの葉をっ、使ってっ、身体をっ、叩くらしいっ」
うんしょうんしょと、細腕でセーラさんがうちわで扇いでくれる。解説をしながら。
「それは知ってます。ドイツではタオルを、日本の場合はうちわで仰ぎ、熱波を体に当てるんですよね」
「本場ではっ、座っているだけっ。ストーンにっ、水をっ、かけるのもっ、セラフッ! いやセルフッ!」
しんどいのか、セーラさんの言葉が怪しくなってくる。
うちわの勢いも弱い。
「同志セーラよっ! 無茶をするな! 交代するぞ!」
「気遣い無用! 制服が肌にまとわりついている故! しばしの辛抱だ!」
「辛抱しとる段階でアウトじゃ! 皆の衆すまんのう! 今日のロウリュサービスはお開きじゃけん!」
二人の学生が、うちわを止めた。
「十分です。ありがとうございます」
「じゃあの!」
学生に見送られ、ボクたちはお風呂から上がる。
「まさか、ビックリよね」
着替えながら、トシコさんが語りかけてきた。
着替え中のトシコさんをばっちり見てしまうハメに。
でも、本人はまるで気にしている様子はなかった。
「何がです?」
「ククちゃんとヨアンさんよ。二人共、女の子だったわ」
えっ⁉




