01 (ガラムレッド)
この小説は書きかけの作品です。
投稿後の文章に対しても、後から修正をします。それにより、情報の配分が前後する事はありますが、大筋は変わらない予定なので、既読部分を改めて読み返す必要はありません。
途中、演出の関係上、非常に読みづらい箇所がでてきます。読者の方々には関係ないですが、書く方も非常に書きづらいです。イライラした時は、この事を思い出すと少しましになるかもしれません。
筆者は、「作品に作者という人格は必要ない」と考えていますので、申し訳ないですが、読者の方々に何かしら直接お答えするつもりはありません。
誤字脱字などのご指摘はありがたく頂戴します。反映していたら、伝わったと解釈してください。
その時に個別にコメントしませんので、はじめに書いておきます。
ご指摘ありがとうございました。
咆哮が洞窟に轟いた。
煙の中からむくりと身を起こしたのは竜。その頭は、大広間の天井近くにも達していた。つまり大人の身長の三倍近い高さだ。
竜の咆哮に応じて、どよめきが広がる。驚きと恐れだ。
竜の出現を知っていたガラムレッドには、もちろん恐れはない。だが、これほど見事な竜だと思っていなかったので、背後にいる多数のドワーフ同様、驚きは本物だった。
恐れを大きくさせるのは良くない。
ガラムレッドは、戦鎚で自分の盾を叩き鳴らすと吠えた。背後のドワーフ達には竜の気を引こうとしているように映っただろう。それとも、戦いの前に自らを鼓舞する行動と取られたかもしれない。いずれにせよ、動揺していたドワーフ達が沸き立った。
再び竜が翼を広げて咆哮する。しかし、今度はドワーフ達に動揺は生じない。むしろ、石床を踏み鳴らす音が響き始める。興奮している証だ。
竜が頭をのけぞらせた。
ガラムレッドは、まずいと思った。すかさず竜へと突進したが、間に合わなかった。
竜の鼻孔からちらりと炎が見えた一瞬後、竜は頭を下げつつ鼻息を吹く。悪名高い竜の息吹。竜の正面にいたガラムレッドの体はたちまち煙と炎に包まれた。
先ほどより大きくどよめきが広がる。誰かはギャッと小さな悲鳴すら上げていた。
ガラムレッドは苦虫を噛み潰す。やりすぎだ。だがもはやそれを指摘する事の方が危険だ。
ガラムレッドは戦鎚を高く掲げ、振り下ろす。布を裂くように炎が割れた。そのままさらに前進し、竜の真下に広がる煙の中へ潜り込むと、雄叫びと共に下ろしていた得物を振り上げる。
竜が断末魔の声を上げると、苦しそうに身を捩り、掻き消える。
ガラムレッドは炎に飲まれても熱くはなかったし、竜を叩きのめす手応えもなかった。
竜は幻だったのだ。
ガラムレッドは同族であるドワーフ達に振り返ると、武器と盾を持ったままの両手を挙げた。まやかしとわかっていても竜を退治するのは気分が良かった。その思いを叫びとして放出する。
ドワーフ達も叫び声で応えた。両足を踏み鳴らし、その音は広間が揺れていると錯覚させるほどだった。
ガラムレッドは、ここドワーフ居住区「鉄のねじれ髭」出身だ。十四年前までは、ただの一神官戦士だった。その後武者修行の旅に出て、この十年近くの実績から、新たに「鎚を担う者」としての役目を授かった。
ドワーフの若者の教育役である「鎚を担う者」の一人に指名されるのはとても名誉なことだ。そんな大役を、ドワーフの基準でいえばまだ若者とされるガラムレッドの年齢で任じられるのは異例だった。それだけガラムレッドの業績は高く評価されていた。
このガラムレッドの業績は、自分一人の力で成し遂げたものではない。むしろ、自分は一端を担っただけだ。
ガラムレッドと四人の仲間は、国内で最も実力のある探索者集団「荒野の支配者」の構成員だった。
そして今、その仲間たちもこの場に来ていた。「鎚を担う者」の就任を祝う席では、仲間たちもまた栄誉ある扱いを受けるべきだと招いたのだ。
吟遊詩人としても有名なウェイの提案で、ガラムレッドたちの冒険を再現する劇を見せることになっていた。先ほどの竜は、その最後の敵役だったのだ。
実際には、ガラムレッドたちは竜退治どころか竜に遭遇さえしていない。同族を騙すような真似はしたくなかったが、劇というのはそういうものだとウェイに諭された。観客を楽しませるための嘘は演出といって悪いことではないらしい。それに、この幻を事実を反映したものだと勘違いする者ができてしまったなら、個別に否定すれば良い。
旅立つ前は、そのような訂正は恥だと感じていた。誤解される行為も恥だった。だが経験を積み、何より大陸人たちと過ごす事でものの見方が幅広くなった今では、誤解されたことを訂正できない自分の方が恥ずかしいと思うようになっていた。
ガラムレッドは、数段高くなっている舞台の上から、同胞たちを見下ろし吠える。
同じ舞台の右隣には、仲間のアリとパースが立っていた。大陸人でありながらガラムレッドを師のように慕ってくれる戦士のパースは、舞台下にいるドワーフたちと同じようにガラムレッドを見て喜んでいた。ただし、大陸人には足を踏み鳴らす習慣はないので、手を叩いていた。アリは、大変だと言いたげに、革鎧を着た肩をすくめている。喜んでくれているはずだがそれを素直に出さないのは実にアリらしい。
ガラムレッドは首の向きの変化は最小限に抑え、目を動かして、舞台の逆を見る。
そこには、残りの仲間である、魔術師のイーギエとウェイがいた。二人は小さく口論をしていた。それ自体は珍しくない。昔から二人の反りは合わない。問題なのはその口論のせいで、周囲に注意が向いてない事だ。
ガラムレッドは細い目を素早く同胞たちの上に走らせる。こちらが高い位置にいるおかげで、多くの者が騒ぎ立てている中、押し黙っている者がいるのが見えた。
興奮が抑えきれなくなった何人かが階段を上って舞台へ駆けてくる。すぐに他の者が続き、ガラムレッドはたちまち周りを取り囲まれる。板金鎧を叩かれて祝いを述べてくる同胞に頷きつつ、ガラムレッドは先ほど見つけた若者の姿を、隙間を通して探す。
その者はガラムレッドを見ていなかった。彼は魔術師のイーギエたちを陰気な目で見ていた。良くない兆しだ。
彼はおそらく竜の息吹に悲鳴を上げた者に違いない。恥をかかされたと恨んでいるのだろう。
大陸人の考え方なら、逆恨みと言われるだろう。しかし、ドワーフの考え方なら、逆恨みという側面は確かにあるが、その恥をそそぐ為に何らかの仕返しをするのは、良しとはされないが、可であると認められている。
つまりイーギエとウェイは本人の自覚がないまま恨まれている。ドワーフは恥に敏感である。この恨みは、命に関わる事件を引き起こしかねない。
ガラムレッドは周りの期待に応えて、再び勝どきをあげる。叫びながら、祝宴中目を光らせ続けなくてはいけないと、肝に銘じた。