5城下町と金髪ドリルさん
「わぁ…!凄いですね、魔人が沢山います!あ、でも魔人だけじゃ無いですね、獣人や竜人、エルフも居ますね!凄いです!」
セシルは今、魔王国の城下町に来ていた。城下町は活気にあふれ、屋台などがが沢山並んでいる。
メンバーはセシル、公務を部下に押し付けたエドワード、同じく部下に公務を押し付けてきたエリオットだ。護衛はこの二人がいる限り要らない!ということでお兄様が転移魔法を使いまくってまいた。
エドワードはエリオットをまきたかったのだが、セシルは気付いていない、エリオットは手強くて今回は諦めた。(次は絶対セシルと二人きりでデートすると企んでいる。)
そして今、真ん中にセシルとし右にエリオット左にエドワードだ。
三人の周りは不思議と人がいず、自然と人が避けていく。この国では竜王と魔王が街にいることは珍しくなく夜の居酒屋によく出没することで有名なのだが。ただいまの時刻は午前十一時、今はその間にまだ少し幼さの残る愛らしく美しい少女が二人に優しい眼差しで見守られているのだ。そう、美形が美形に見守られている。
つまり、女性はセシルに嫉妬などの眼差しを向け男性はセシルに憧れの眼差しを浮かべる。
そんな目を向けられる三人には近づく者はいない。隣に並び比べられたく無いからだ。
「ふんふん、何だか美味しそうな匂いがしますね。」
「串焼だな。食べるか?」
「いいんですか?」
「あ、エリオット僕の分も買ってきてよ。」
エリオットの申し出にセシルは上目遣いと首を傾げて聞く。
あ、人垣の中の数人が倒れた。
そんな事は気にせず、エリオットは串焼きの屋台に買いに行った。エリオットは買い慣れており、日頃から街に出ていくことが伺える。そんな事にセシルは良いなぁ、私も買い慣れたいなぁ、なんて考えている。
平和である。
エリオットが買ってきた串焼きをハフハフ言いながら食べたら、何か飲みたいなと思っていたらいつのまにかエドワードが果実水を三人分買って来てくれていた。
その他にも大道芸を見たり小物を見たり通いつけの鍛冶屋を覗いたり、回っているうちに時間は過ぎ、だいたい今二時くらい。
三人でお洒落なカフェに入った時だった。
「まぁ!エドワード様とエリオット様ではございまさんか!こんな所で会うだなんて、なんて運命的なのかしら!」
こう高い声で声をかけられる。
縦一列に入ったからか背が小さいセシルは見えていないようで、セシルの名前は呼ばれなかった。
この声のかけ主が現れた瞬間二人の待とう空気が変わった。少しピリピリしている。
「そう言えばエドワード様、この間の妹さん召喚の儀、私は参加できませんでしたけれど成功いたしましたの?父がグッタリして帰って来ましたが。妹さんとは久しぶりに顔を合わせると仰っていらしていたけれども実際に見てどうでした?久しぶりに見たら対して可愛らしくなかったのではなくて?そろそろ私達結婚致致しませんこと、エドワード様。」
二人の纏う空気が完全に冷たくなった。魔力が漏れているのか実際に冷気が溢れている。
「エドワード様もご存知の通り、私社交界では“金薔薇の高山令嬢”と呼ばれていますのよ!金薔薇の様に美しく高山の様に高嶺の存在という意味だと思いますわ!さぁ、こんなに美しい私が求婚しているのです。そろそろ折れてはいかが?」
プチンッ……何かが切れる音がした。
後ろでエリオット様が「高山令嬢は間違いなく褒め言葉じゃ無いだろ…嫌味だろ。」と呟いていた。
と言うかどうしよう、この空気。チラッと振り返りエリオットを見ると、口角は上がっているのに目が笑っていなかった。セシルが服の裾を引くとハッとした様にセシルと目が合い、フニャッと表情を崩した。その目は愛しさで満ちている。
エリオットは不安そうにしているセシルの頭を撫でそのまま髪を1束救いキスを落とした。その行動にセシルは頰を薔薇色に染めて視線をあちこちに彷徨わせる。
その行動に、エリオットが可愛いなぁ愛しいなぁと思い見つめていたら、その甘い雰囲気を本能で察した(令嬢を完全無視したまま)エドワードが振り返りセシルの手を引いた。
「エリオット!気安く手を出すな!私のセシルが汚れる。セシルを汚して良いのはこの兄たる俺だけなんだ!!」
なっ!お兄様はなにを言っているの!と赤い頰を更に赤くして手を引くエドワードを見上げるもエリオットと目線で火花を散らしまくる。
「…まぁ、今日は妹さんも一緒だったのね。ぜひ挨拶したいわ。お顔を見せてくださらない?」
(訳:ちょっと面貸せや)
そんな事を言っているが、エドワードもエリオットも無視だ。セシルが振り返り顔を見せようとするもエドワードが同じ方向に動き顔を合わせようとしない。騒いでいたからか、カフェにいたお客さんの視線を感じる。
所々、「あの子可哀想ねぇ…雲泥の差なのに知らないのね」と聞こえた。
そ…そんなに凄い人なのか…!!(凄いのはセシルの方である。)
エリオットが退いてくれないので、エリオットを見つめて少し悲しげな表情でセシルは見つめた。
「お兄様…」
ウルウル…無意識のあざとさである。
その表情にエドワードはグッ…と言い顔に手を当て「しょ、しょうがないなぁ」と言い避けてくれた。
目の前にはハニーブロンドの髪をきつく縦巻きロール(凄い尖ってますドリルみたい。きっと対戦用の武器の一つなんだわ)にしたにつり目の青い瞳のセシルからしたら長身の少女がいた。
少女は目をあんぐりと見開き口を金魚みたいにパクパクしてプルプル震えている。
そんな少女をセシルはどうしたのかな、体調でも悪いのかしら?なんて思いながら心配げに声をかけた。
「はじめまして。エドワード・ジェスレーニアが妹のセシル・ジェスレーニアと申します。お加減がよろしく無い様ですが、大丈夫ですか?」
「き、規格外過ぎますわぁぁぁぁあああ!!」
騒ぎ過ぎて、カフェを追い出されてしまいました。
残念です、ここの看板メニューという“天空の支配者パフェ様”を食べてみたかったです。