美しい奥さん
即興小説トレーニングで
お題:人妻の戦争 必須要素:夏目漱石 制限時間:30分
で執筆した物になります。
うちのアパートの隣の部屋には若い夫婦が住んでいるようだ。
外で会うたびに、隣の奥さんは僕とあいさつを交わす。
清楚な印象ですれ違うと柔らかな香りがする
「うん、おはよう。今日は寒いね」
なんて、そんな一言二言だけの会話からでも淑やかさが感じられる様な人だ。
冒頭で、夫婦が住んでいる「ようだ」としたのは、旦那さんの方を僕は見たことがないからだ。
とても朝早くに出社して、夜遅くに帰宅しているのか、僕には知る由もないと思っていた。
それは連休の中日の朝の事。
両親は結婚記念日で旅行に出かけて家には僕一人が残ることになった。
親に誘われなかったわけではないのだが、僕にはしたいことがあった。
購入を済ませたゲームのダウンロード開始日。それが連休の中日である今日だったのだ。
僕はいつも通りにゴミを捨てに外に出た。
ゴミを集積所に捨てて、自分の家へと向かう。
すると、若い夫婦の家の前に若い奥さんがしゃがみこんで泣いている。
しくしくとすすり泣いている彼女の姿を見て、僕は不謹慎にも美しいと思ってしまった。
「大丈夫ですか?」
僕はそんなありきたりな声しかかけられない自分に呆れながらもそう言った。
彼女はハッとした様に僕を見上げると自分の服の袖で涙をぬぐった。
「うん、大丈夫」
実際にはどうだか分からないが、それはとても強がっているように見えて、
僕の気持ちは、もう一本釣りされたマグロの様に彼女にくぎ付けになって行った。
「良ければお話聞きますよ」
「えーと、でもご両親は……」
「今日は!二人とも旅行でいないんです」
あくまで迷惑をかけまいとする彼女の言葉を遮るように言葉を発した。
その言葉は、いつもの僕とはかけ離れて大きな声だった。
そうして、僕の頭の中からはゲームの事なんて一かけらもなくなって、
この美しく儚い人妻の事で一杯になっていたんだ。
外は寒いからと僕は彼女を自分の家に通した。
僕の部屋は散らかっているのでリビングに座ってもらった。
「夏目漱石全集?」
彼女はリビングに目立つよう置かれているそれが気になったようだ。
「父親が読めって。うるさいんですよ」
なんて、言うと彼女は口元に手を当てて微笑した。
その姿のなんと可愛らしいことか。
そんな彼女が扉の前で泣いているとはどれだけのことがあったのか。
僕は温かいミルクティーを淹れて差し出した。
「ミルクティーです。口に合えばいいんですが」
彼女は「ありがとう」と受け取って冷ましながら少しづつ、飲んでいく。
僕も正面の席に座り、ミルクティーを飲んで彼女が語りだすのを待つことにした。
「実は……夫が