オオカミ少年の冤罪
「オオカミが出たぞー! オオカミが出たぞー!」
少年が叫ぶと、皆がそれを合図に行動を起こした。
力のない者やそれを守る者は安全が確認されるまで隠れて、猟師は銃を持ちオオカミに備える。
昨今、オオカミの被害が多く近隣でも被害に遭ったという報告がなされている。
その対策として羊飼いの少年に村長が頼み、警告を発して、皆が避難するための訓練をこのようにして行うようになった。
村長が村人に対して被害が無いように、と万全の対策を取れるためには常日頃からの訓練が有効と聞いて実行に移したのだ。
初めは反対した村人も多かった。逆に賛成はほとんどいなかった。
だが、近隣に拡がり続けるオオカミ被害に、次第に村人たちにも恐怖が拡がっていった。
人数の少ない村は、皆が顔見知りだった。
相互に助け合わない事には生きていけない。
そんな中、脅えが皆に伝染すれば、藁にも縋ろうとするもの。
そして村長の提案に村人が賛同し、皆で細部を詰めていった。
羊飼いの少年は村で一番眼が良く、また、オオカミに狙われやすい羊と行動を共にしているということで警告役に抜擢されたのだった。
羊はそれぞれの家庭が飼っているもので、それのエサを山のあちこちに連れて行って皆纏めて食べさせるようにしているのが羊飼いの仕事だった。
羊飼いがいなければ、遊牧民ではなく定住しているので、広範囲に連れていかなければ近場の草が根こそぎ無くなってしまう。それぞれの家庭で山の中を連れまわすには効率が悪い。
だから、それは重要な仕事だった。
少年は険しい山を毎日往復する重労働に耐えきれなくなった父から受け継いだ大切なこの仕事を誇りに思っている。
少年一人では大変だが、牧羊犬が二匹一緒に仕事を行っている。
羊はそれぞれの家の貴重な財産だ。一匹でもいなくなったり、ケガさせたりすれば叱られてしまう。
そんな事情から、少年は真面目に責任をもって仕事に就いていた。
その少年に与えられた新たな仕事。警告役。
その仕事も少年は真面目に勤めた。
「オオカミだー! オオカミが出たぞー!」
少年の警告の合図を元に村では迅速な避難が行われるようになっていた。
訓練の成果が上がっていたのだ。
そんな時、村へ行商人が現れた。日は大分高くなってはいたがまだ昼と言うには早すぎる時間。
当然、羊飼いの少年は早朝から出かけているため、行商人とは遭遇しなかった。
行商の中身には毛皮も扱っていた。
ある婦人が何の毛皮かを尋ねるとオオカミだという。
近隣で退治されたものだそうだ。かなりの量がある。
その持ち込まれた情報は瞬く間に村中へと拡がった。
それによって、やっと皆が安心を得たのだった。
行商人が村へと来たことなど知らない羊飼いの少年が叫んでいる声を村の人が聞いた。
「オオカミだぁああああ! みんなぁーー! 逃げろぉーーー!」
皆穏やかに、今日は真に迫っているなぁ、と暢気にそれを聞いていた。
羊飼いの少年は真面目だから役作りに頑張っている、と皆微笑ましく考えていた。
その遠吠えを聞くまでは。
村にいた人たちは被害がなかった。訓練が功を奏したのだ。
次の時、行商人から得た情報によると、各地でオオカミを撃退したため、それぞれの群れが数を減らし手負いとなって、この村の近くでそれら腹を空かせたオオカミたちが合流したらしい。
村長は領主へと被害の報告しなければいけなかった。
村長はその報告書に記したのは、羊が三割以上。
そのとき腹を空かせたオオカミたちがそれらに群がっていたため、猟師がオオカミたちにも半数以上退治に成功したようだ。
そして人的被害は一人。
その人物評には、オオカミが来たと嘘を吐き人心を惑わせていた、と書かれていたという。