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蛍火を弾丸と共に撃て  作者: 藍谷紬
生命のプロトコル
8/30

第8話「4人目の浮浪者。」

今回は活動報告に時間軸を追加しておきました。

8月7日。あの長身の不審者が現れたと報道されてから4日が経った。

古場は午前二時頃。眠れずに目を覚ました。

「、、、。 はぁ、、。」

小さくため息をついて立ち上がりキッチンの方へと向かい、まだ水の出る蛇口に手をかけた。

勢いよく出る水が透明なガラスのコップに注がれるのを古場は見つめ微かに安堵した。

そのうちこの水も出なくなるのだと思うと頭の中に黒い靄のようなものが掛かる。

分かってはいても「日常」が失われ、それが返ってこないというのは古場にとっても、恐らく山中にとっても耐えがたい事実のはずだった。

目をそむけたくなる気持ちを必死に抑え現実を向き合う。

これほど厳しいことはないだろうと思いながら古場は蛇口を閉める。

二つあるうちの蛇口の水はホースにつながれており、少し先の風呂場に向かっていた。

水を飲みながら風呂場に行ってみると既にかなり満杯に近い水量の入った湯舟が月あかりに照らされている。

「なにやってんだろ、、俺って。」

古場自信がいくらか山中と言葉を交わし覚悟を決めたつもりではあったが隙を見せると漠然とした不安が体中からあふれ出しそうであった。

そうしてどこを見ているかもわからないほどにぼーっとしていた古場の耳に奇怪な音が聞こえた。

「今のは、なんだ?電子音?」

何かボタンを押したような操作音。

それは道路側に面した風呂場の窓の外からの音であった。

「仕方ない、、、。見に行ってみるか。」

中学時代に野球をやっていた山中の家の玄関には金属バットが都合よく置いてあった。

それを音を立てず持ち上げ、肩に乗せる。

玄関付近に影が無いことを確認し静かにドアを開ける。

「はぁっ、、はぁっ、、」

古場としては放っておきたいものではあったが不審なものは確認しないわけにもいかない。

「(つーか今更だけどどう考えても夜の見張り番を考えるべきだったな。)」

内心そう思い古場は舌打ちをする。

玄関から体を出し、足を踏み出した瞬間に塀の後ろ側に隠れる。

目標と思われるものの反対側の道路に何もないことを確認し、その目標をじっと見つめる。

「(あれは、、人か?)」

背を向けている人影は小さく体格からすると女性に思われた。

辺りをきょろきょろと見まわしゆっくり歩いていく。

一度古場は塀に身を隠すために体を反転させたときにバットが塀にあたってしまった。

辺りに小さい金属音が響いてしまった。

その音に古場自身も驚き少し経ってからハッとした。

「(あれがもし感染者だったらこっちに来てるかもしれない、、。やばいどうする?殴るか?いや駄目だ。この状況で更に音を立てるのはまずい。くそ、、どうにかして家に戻らないと______)」

「、、、、あの、だ、誰かいるんですか、、?」

小さくも甲高い震えた声が聞こえた。

「(女?いや待て。どこかで聞いたことのあるような、、?)」

恐る恐る古場は塀から再び道路の様子を見たとき。人影がこちらを向いてるのが確認できた。

「誰ですか、、?」

再びその声は古場に聞いてきた。

古場はそこで腹を決めた。

「き。君は、誰だ?」

「ひっ、、、!」

小さい悲鳴が聞こえ、古場は先を見つめた。

そこで女がいると思われる場所の更に奥に街灯に照らされている人影をとらえた。

何回か見ているともう判別できる。明らかにそこの女とは様子が違うようで古場は舌打ちをした。

「くそ、、」

よりによってこんな時に、、。古場は女が一体何者なのかを会話から判別するために会話をしたというのに感染者が来てしまったら完全無駄だ。それどころか会話ができるこの女が襲われ叫び声でもあげられようものならこの近辺に他の感染者がいた場合集めてしまうことになりかねない。

女が逃げる事をきたした古場だったがそれはどうやら不可能であることを認識した。

「完全に足が固まってる、、。」

古場が初めて感染者に出会った時と全く同じ様子だった。

これ以上時間の余裕はないと判断した古場は道路に出て女に一気に早足で近づき小さく声をかける。

「早く!こっちに!」

「え?」

「声は出すな、、!」

女の手を引っ張り素早く塀の中へと戻った。

しばらく様子を見た古場だったが感染者は反対方向へとったことを確認した段階で大きく息を吐いた。

「はぁああ、、、。マジで怖ぇんだよったく、、。」

震えていた手を振って、そこでやっと女の存在を思い出した。

「あ、えっと、、。」

「・・・・」

女は黙りこくっておりやがて全身を振るわせ始めた。

「(!!まさかこいつも⁉)」

古場はつないでいた手を放そうと力を込めた瞬間______

「ひっく、、ひっく、、」

と女の泣き声に気づいた。

夜中の二時なうえに、塀の裏側で暗がりではあったが古場が顔を覗き込むと女の顔に涙が見えた。

「あ、だ、大丈夫?怪我とか?」

そう言うと女は首を横に振る。

「かまれたり、ひっかかれたりは?」

再び女は首を横に振った。

そこまで聞いて古場は緊張が一気に解けて地面に座り込んだ。

「はぁ、、良かった、、。」

この良かったは女からすれば「助けられてよかった」に聞こえたかもしれないが古場は正直なところ「感染者じゃなくてよかった」と思っていた。

今の彼に本気で他者を思いやれるほどの余裕はない。

結果として助けたことにはなるが古場自身の利害を考えた上での実行であった。

この女からこうして聞き出すまで感染者ではない保証などどこにもなかったのだから。

「じゃあ、、。」

家に入りな、と言おうと思ったが金田に断りなしで入れるのはまずいと思い古場は女を待たせ、一度山中と金田を起こした。山中には女を見張ってもらい古場と金田で話し合った。


「はぁ、、、。お前ってやつは全く、、。」

話し終えた時点での金田の反応だった。

「危険な単独行動をしかも夜中の二時にやるやつがあるか。せめて実行前に起こせ。」

「すいません。。」

「まぁいい。今度から気を付けてくれ。で、その女の事だが。感染者ではないんだな?」

「はい、どうやら噛まれる、引っかかれるなどの傷も負ってないようです。発症の可能性がある等言うなら空気感染かと、、。」

仮に彼女が発症した場合、古場達も発症の可能性があるということではあったが今のところその様子はない。

「うーん、、出来ればかくまってやりたいが、、食料問題があるからな、、。女を差別するつもりは毛頭ないがこういう時一番に危険にさらされるのは女性である確率が高い。こういう時モノをいうのは基礎体力だ。大丈夫なのか彼女は。」

ソファに座って俯いている女を見て金田は難しい顔をする。

「でも、今追い出して後々彼女が死ぬのは胸糞悪くないですか、、?まるで、、。」

自分たちが殺したようなものではないか、そう言おうとして古場は口をつぐんだ。

金田もそれは分かっている。食料の確保が極限になった時厳しくなるのともし移動をする場合彼女をかばう必要があり全員の危険が増す危険性をはらんでいた。しかし金田はここで厳しい判断をできなかった。

金田は彼女の方に向かっていった。

「あ、ちょ、、」

彼女の前のソファに座り金田は言った。

「いいかい?出来るだけ努力はするが感染した場合、または全員の命の危機が君によってさらされた場合は置いていく。それを呑めるならかくまおう。」

古場は金田を見つめ、山中は驚いた様子だった。

「い、いいんですか?」

「言ったろ。危険が及ぶ場合は見捨てると。あくまで二の次であることは忘れないでもらいたい。可能な限りの努力は約束する。」

山中の言葉に対して答えるともう一度女に聞いた。

「それでどうだ?嫌ならいい。その時は俺たちと一緒にはいない方がいい。」

「あ、いえ、、。ありがとうございます。お願いします。」

「名前は?」

「下田です。下田、未歩、、。」

「下田さんね。じゃあこれからよろしく。」

下田はぺこりと頭を下げた。

そこで古場は既視感を覚えた。暗がりで見えなかった顔がはっきりと見えて段々と記憶が蘇ってきた。

「あ!君は!あの校門でぶつかった!」

下田は驚いてまじまじと古場の顔を見つめやがて彼女も思い出したように口を開けた。

「あ、古場さん、、でしたよね、、。その、、さっきはありがとうございました。私、びっくりしちゃって、、。」

「いや構わないよ。とりあえず無事でよかった。よろしくね。」

「つかさ、寝ない?まだ2時半だぞ?」

大きな欠伸をしながら山中が言った。

「そういやそうだな。もう一度寝るか。」

金田は伸びをして二階への階段を上っていった。

「じゃあ未歩ちゃんはこっちのソファ使ってくれ。俺はこっちで寝る。」

山中はそう言って枕を下田に投げた。

「わわっ!あ、ありがとうございます。」

「未歩ちゃんて、お前なぁ、、」

「いーじゃんこっから長くなるし仲いい方が都合いいっしょ。」

「・・・・」

そりゃそうだと古場も内心思ったが、以前怖がられている以上どうにもそう呼ぶには抵抗があった。

「まぁいいや、寝よ。」

そう呟いて古場もソファに身を横たえた。

「(そういえばなんで下田さん、こんな時間にあんな所にいたんだろうか、、。)」

そんなことを思っていたが緊張の糸が切れたように古場は眠りについてしまっていた、、、、、、。


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