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蛍火を弾丸と共に撃て  作者: 藍谷紬
異変と偽善者
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第4話「停止。思考。観測。計画。」

「な⁉そんなまさか、、。社会システムの崩壊って。大げさじゃないですか。大体、ちょっと危ない伝染病ってくらいでしょう?ほら大昔に流行ったペストとか天然痘とか。歴史でやったあんな病気だって無かったくらい対処できるじゃありませんか。だったら今度も、、。」

「確かに、そんな病気もあったな。それらが空気感染であったこともない。が今回はその可能性もある上に感染者が凶暴性を持ち急激な増加をしている。これの意味が分かるか?」

そう言われて古場はうつむいて考えるが無言のままだった。

「いいか?例えば天然痘やエボラ出血熱とか昔に流行ったものっていうのは感染経路は基本的には接触感染だ。そしてなにより入院させて治療対策を練ることがまぁ、容易とはいわないが可能だった。そして致死率が2割から5割、広がりやすい感染症で致死率が5割を超えるものはほぼ無いんだ。今この段階であの病気の正体や致死率を探ることはできないが、あの様子じゃワクチン開発はかなり遅れる上に感染者へのダメージが大きすぎるように見える。今までの疾病との大きな違いはそこにある。社会システムの崩壊は今日明日の話ではないかもしれないが、あの病気の進行速度、感染速度及び致死率によっては日本は崩壊する可能性は大いにある。」

金田は静かに落ち着いてそう言う。

「・・・。」

「ま、普通そうだよな。普通の人間なら脳の許容量を超えるような話だもんな。」

そういって金田は煙草を取り出す。

火をつけて煙を吹きだしたときに古場が口を開いた。

「どうして、どうして金田さんはそんなに落ち着いていられるんですか?俺よりもこの状況が最悪で深刻なのはわかっているんですよね?」

「まぁ、そうだな。仕事柄って言っていいかは知らんがパニックには慣れた、、というか麻痺、したな。それにこういう状況でパニックになったりしても良い事は何一つない。それに命が絡んでくるなら尚更な。お前はサバイバルの『STOP』って聞いたことあるか?」

「ストップ?止まれって、何がです?」

「これは所謂あいうえお作文でな、『Stop,Think,Observe,Planning』だ。止まって自分の置かれた状況について考え周りを観察しこれからどうするか考える。仕事や狩猟ではしょっちゅうやばい目に遭うからな。これを何回かやると落ち着いて考えることが出来るようになる。決して『油断』では無いがな。」

金田は古場をちらりと見るが古場は金田ではなく床を見つめまだ混乱している様だった。

「今すぐに考えをまとめろとは言わない。一般人がこんな状況に置かれたら泡を食うのが普通だ。だが、落ち着け。決して慌てて行動を起こすな。今すぐにどうにかしたいとか思うかもしれないが、動くな。こういう状況での軽率な行動は死に直結する。多分ニュースを見る限りだとあの感染した奴に襲われるとそいつも感染するかもしれないということは分かる。だから見つけたら逃げる。離れる。これがベストだ。」

金田はコンビニから持ってきた弁当をレンジで温め始めた。

「よく食べられますね。」

古場は半笑いをしながら金田にそう言う。

「言ったろ?慣れてんだよ。」

数分後、金田は弁当を持ってきてテーブルにおいて食べ始めた。

「まぁ、あれだ。不安だろうが、俺といる限り簡単には死なないから安心しろや。」

古場はその言葉を聞き顔を上げる。

「金田さん、あんたは一体、、?」

「仕事の方は説明がめんどくせえな。狩猟の知識はサバイバルの知識にも繋がっている。俺の同僚には山で2か月生きていける様に訓練されている奴もいたしな。」

あっという間に弁当を平らげると金田は手を合わせた。

「2ヶ月って、、、。一体どうやるんですか全く、、。」

古場はその場に仰向けで寝転がり、天井を見つめながら漠然とした不安に駆られる。

金田はそんな古場を見てこう言った。

「どうして俺がわざわざお前をあんなことを言ったかわかるか?」

「え?」

「俺がなぜおまえを不安やパニックになる可能性のあることを言ったかわかるか?」

古場はそう言われて考える。

「(確かに、、。金田さんはテレビのニュースで見た以上の情報を俺に与え、事実を突きつけた。今俺が怖いだ何だの言うのは面倒くさいだろうに。だからといって気づいたことを見せびらかすために言うような人じゃない。つまり、、。)」

「今後の為。ですか?」

金田はにやりと笑う。

「ほう?急に聞かれた割にはほぼ正解だな。」

ペットボトルの麦茶を一口飲んで金田は続ける。

「今後の為。まさにその通りだ。俺が考えているのは最悪の事態だ。これ以上悪いことは恐らくないだろうなって事だ。もし俺がこの事をお前に黙ったままで『わぁ、大変だね』で済ましてみろ。いざその事態に直面した時、お前は恐らく今以上にパニックになる。というか予測を聞いただけでもどうしようという感情が湧いてくるのにマジな状況になったらすぐ死ぬぞ?俺はそういう意味を込めたつもりだ。」

「分かりにくいですって。怖いことに変わりありませんけど準備できるっていうのは確かに一理ありますね。」

体を起こして古場もアクエリを一口飲む。

「あ、あと、味が付いているスポーツ飲料なんかは取っておけ。ビタミンやナトリウムなんかは人間の体内であまり生成できない重要な物質だったりする。出来る限り、我慢できるうちは水とか質素にしておいた方がいい。あとで後悔はしたくないだろ?」

また金田はにやりと不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。

「こんな状況になっちまうなんて、、。」

「そういやお前親とかはどうなってんだ?あぁ、連絡は取れないか。」

「いや、母親は俺が10歳の時に死んでますし、父親は2年前に海外に行ったっきり音信不通。今連絡するべき人間なんて悠介くらいですよ。」

山中の事は金田も知ってはいた。何回か朝まで三人で飲んだこともあるほど。

「そうか。なら状況だけは一応伝えた方がいいか。」

「あいつの両親は今どっちも火星の方に行ってます。」

「あぁ、そういや議員が『放射線物質管理委員会』の会合を火星の議事堂でやるとか一ヶ月くらい前に言ってたな。両親とも議員となるとあいつも負担が凄いだろうな。」

「そうですね、ただそれに反発して金髪にして、親の金をくすねて買ったギター振り回して『ハードロックだ!!』とか叫んだ日には、母親はショックで倒れたらしいですけどね。」

古場は苦笑いしながらそう言った。

「500年以上前の表現方法を持ち出すあいつもあいつだけどな。。」

金田も同様に苦笑いをして続ける。

「ならあいつも早い段階で合流した方がいいか。幸い俺の左隣は空き部屋だし、大家に適当に話付けてこっちに来た方がいいか?」

「ああ、、でもあいつの家に行った方が安全なんじゃ?あいつの家広いしこんなとこよか頑丈ですよ?」

「むむ。そうか、、。しかし俺の荷物を運ぶのが面倒だな。最低限持って行ってちょっとずつ運び込むか。」

「完全に寄生するつもりですか。というか猟銃の置き場所どうするんです?散弾銃とライフル銃どっちも持っていくんですか?」

「いや、まだ置いといていいだろう。この状況じゃ身軽な方が危険は少ない。お前も必要最低限荷物まとめておけよ。」

そのすぐ後に古場は隣の自分の部屋へ戻り食料や飲み物を大きめのリュックサックに詰めたり、準備をした。

「明日の段取りの確認をしておこう。まず朝のニュースで情報を確認する。危険度がグリーンならまずお前がリュックを背負って俺は荷物を持たないで悠介の家へ向かう。その後俺はすぐに荷物を持ってくるからその間に戸締りの確認とこの話をしておけ。」

金田は先刻箇条書きした紙を古場へと手渡す。

「あいつをパニックにさせるなよ?」

「、、、、、善処します。」

古場が時計を確認すると既に10時を回っている。

「寝るぞ。寝れるときに寝るのは重要なことだ。」

「はい、、、。」

古場は『まるで軍人みたいだな』と薄れていく意識の中で思った。

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