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蛍火を弾丸と共に撃て  作者: 藍谷紬
メルトの鐘
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第30話「違和感に疑惑。」

夢橋が立ち去った後も、古場はまだ薄暗い月を見つめていた。

「生きているんだから、か、、。」

確かに絶対的な正義や悪など存在しないのも真理だが、正義と悪、いや善悪が存在するのもまた真理なのではないか?

「環境次第ですぐ意見がコロコロ変わるな、、こんなんじゃ、、。」

古場はやはり金田を自らの手で殺したことを悔やんでいた。

しかし、他の誰かが殺していたら、それこそ鈴谷などが殺していたら、鈴谷の人間性を疑う様な思いで今頃見つめていたかもしれない。

そう考えればマシな展開だったのかもしれないが、そういう風にみられる行為を自らの手でしたことの違和感や、後悔や、悲しさがどうしても離れることは無く、古場の視界をどんどん滲ませていく。

「うっ、、、くっ、、うぅ、、ごめんなさい、、金田さん、、、。」

銃を握り締め、声を押し殺して泣く姿を店内から見つめていた夢橋は、既視感を覚えていた。

「何でかしら、、。」

しかし数秒後、合点がいった。

「あの時の私と同じなのね、、。」

弟が死んでしまい、止まった懐中時計を握り締めて嗚咽を漏らす姿は、彼女には幼き頃の夢橋の姿そのものに見えた。

夢橋はもう振り返らず、コンビニの奥に入った。

彼女が何を言っても彼の心の傷の深さなど完全に理解してあげることは出来ない。

理解したふりをして偽善を振りかざすことは、彼の傷に塩を塗る行為になりかねない。

「そうか、、そういうことね。」

古場の夢の中の金田が言いたかったのはこれのことか、と夢橋は悲しくため息をつく。

『自分で乗り越えろ』

「酷く厳しい言葉ね、、。」

小さく呟いてレジ裏の長いベンチのようなイスに身を横たえ、静かに目を閉じた。


翌日の朝。

古場は誰よりも早く目を覚ましていた、というより余り眠れていなかった。

店内が太陽の光に少し照らし出され、明るくなった時にあることに気づいた。

「あれ、、?下田さんは、、?」

彼女の姿が無かった。古場自身、気絶してから一回も彼女の姿を見た記憶は無く、誰もそのことを口にしていないのに、何やら不穏な空気を感じた。

「あ、ああ、、亮。もう起きてたのか?早いな?」

目をこすり、体のあちこちをポキポキ鳴らしながら、山中が古場に向かって言った。

「お、おい。下田さんは?」

その言葉にとろけていた目に光が戻り、再び消えた。

「それが、、。」

________


「何だと!?」

その声で他のメンバーも体を起こした。

「俺が寝てる間にそんなことになってたんて、、。」

「本当にすまない。俺がちゃんと確認をしなかったからだ、、。」

そういう山中の表情は古場よりよっぽど険しく、今にも泣きだしそうな顔をしていた。

その表情が古場を冷静にさせたのだろう、

「いや、俺があんなことをしたのにも原因がある。おれこそすまない、、。」

と山中を慰めるようなことも出来ていた。


____朝食を取っていたとき。

「下田さんのことなんですが。」

と珍しく野田から言葉を発した。

「ん?どうしたんだ?」

植草が聞く。

「何故か引っ掛かりを覚えるんです。何か違和感というか、、。」

少し表情を険しくしながら言うと、

「それは私も同感。」

ミルクフランスを小さな口でかじりながら夢橋も同意した。

「具体的にはどういうことか説明してもらえますか?」

古場と山中は首を傾げながら聞いた。

「いえ、勿論、感覚的なものなので正しいと確証があるわけではありません。あの状況でしたから色々なことが起こりえます。しかし、それを差し引いても、何も言わず、誰も気づかないうちにいなくなるなんてことがあり得るんでしょうか?川に水を汲みに行ってもらった時は大声で叫びましたよね?」

それを聞いて首を傾げていた二人は顔を見合わせる。

「ええ、誰かに拉致された、という可能性も無くはないでしょうけれど、誰が、一大学生をこんな状況下で拉致するか、という問題を考えれば、選択肢に入れるほど可能性は高くないと思うわ。」

「可能性としては、声も出せないほどの恐ろしさに襲われてしまったか、私たちが古場さんを追いかけて戻ったタイミングで気絶した、とかでしょうか?」

野田が頭を捻って出した答えなのであろうが、そんなことがあり得るかといことについては、なんとも言えなかった。

「下田さんって、亮や悠介と同じ大学だったわよね?どこ?」

「すぐ近くの茨城大学です。経済学部とかは偏差値高いらしいですよ?俺たちは文学部ですけど。」

「茨城大学、、。」

顎に折り曲げた人差し指を当てるいつもの仕草をやって見せ、何か考えている。

「何か心当たりがあるんですか?」

植草はツナマヨのおにぎりをなんともおいしそうに食べ、海苔をパラパラと落としている。

「あの、そこに薬関係の学部ってありませんでした?」

鈴谷が少し申し訳なさそうに古場達に聞く。

「薬学部、とかですか、、。」

古場と山中は顔を再び見合わせ、そして同時に言った。

「あるも何も、下田さん・未歩ちゃんはその学部ですよ?」

鈴谷は意味ありげな視線を夢橋に送ると夢橋は少し神妙な顔つきになった。

「夢橋さん、、。」

「ええ、、。もしかすると、、。」

「何なんですか?二人で。」

山中は隠し事をされてるような気がして不機嫌そうになる。

「下田さんは、逃げたかもしれないってことよ。」




「はい、、?」












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