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蛍火を弾丸と共に撃て  作者: 藍谷紬
メルトの鐘
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第28話「森の外、意識の外。」

おひさでっさ。

「未歩ちゃんが、いない、、。」

山中は呆然とし、夢橋もまた目を丸くして固まる。

「い、いないって、いつからよ?」

「い、いや、、分からない。気づいたらもう、、。」

古場を担いだままの野田が振り返り、

「今はもう時間がありません。ここは行くしかありません。」

と静かに、しかし、はっきりと言った。

「でも!このままじゃ未歩ちゃんは、、!」

「このままじゃ、下手すりゃ俺たちまで死ぬんだぞ、悠介。」

息が上がってフラフラとしている植草は山中を見て言った。

「見捨てるのかよ!?」

「そりゃ、出来るなら俺だってそうはしたくねぇよ。」

植草は視線を外す。

「でももし、ここから下田を探しに行くとなれば、まず間違いなく、この2人以外の体力が無くなる。そんなところに感染者がやってきたらどうなる?」

「、、っ!それは、、。」

山中は拳が白くなるほど固く握りしめて立ち尽くしている。

「悠介、ここは現実的な案を取るべきよ。彼女の為に全員が危険にさらされるわけにはいかないわ。」

夢橋もまた息が上がり、寒さのせいで顔が白くなっている。

そんな様子を見て山中はさすがに強く言えなかった。

「くそ、、。もっと俺がしっかりしてれば、、。」

「悠介さんの責任ではありません、私たちもしっかり確認しておくべきでした。」

鈴谷も唇を噛むようにして言った。

「とりあえず、急ぎましょう。」

野田は古場を担ぎ直すと再び走り始めた。



それから10分ほどして、道が開けた。

「はぁっ、、はぁっ、、ようやく、出たのか?」

後ろの森を振り返りながら植草が言った。

「ええ、とりあえずは大丈夫でしょう。」

比較的綺麗に舗装されたアスファルトの道路、人の手が入っていたと思われる畑、少し遠くにはコンビニが見える。

「とにかく、雨をしのげる所に行かないと。」

山中はコンビニを指さし、寒さと疲労によって重くなった体を引きずるようにして歩き始めた。

「くっそ、思ってたより遠いな、、。」

しかし実のところコンビニが遠いのか、体が言うことを聞かないために遠く感じてるだけなのか、それを判断する力すらも山中、夢橋、植草には残されておらず、コンビニのドアを開けたときには、3人はコンビニの床に倒れこむほどであった。

「ああ、クソ。クタクタだぞ、、。」

山中は少しだけ身を起こして呟く。

電気のついていないコンビニに入り込む光に照らされた棚には荒らされた跡があった。

「強盗、、ね。」

「まぁ、こんな状況ならいくら日本でも強盗の一つや二つありますよ、他地域との関係も絶たれてしまったわけですし。もはやアメリカのスラム街の様相を成していても何ら不思議はありません。」

「だけれど、日本のそれこそ代表格ともいえるコンビニでこんな様子を見るのも中々複雑な気分ね、、。」

夢橋は伏し目がちに言った。

野田は古場をゆっくりと降ろして寝かせた時、

「ん、、。」

寝言のような、うめき声のような声を古場は出した。

「亮?起きたのか、、?」

山中は古場の顔を覗き込む。

「あれ、、ここは、、?俺は、、。」

「森を抜けたんだ。今は近くのコンビニにいるんだ。」

「そうか、、、、。」

古場は頭を押さえながら起き上がる。

「その、大丈夫か?」

山中は古場に聞く。

「あ、ああ。少し頭が痛いくらいだ。すぐ良くなる。」

古場は苦笑いをすると、山中はそれ以上聞くようなことはせずに、立ち上がってコンビニの棚を物色しに行った。

古場はゆっくりと立ち上がり辺りを見る。

古場には時間が分かっていないが、かなり遅い時間ということは理解できるほどに店内は暗かった。

棚に向かった山中以外にメンバーの多くはコンビニの奥で横たわって寝ているが、その中で何か酷く眩しいものが見え、そこに近づいてみると、植草がノートパソコンを開いてキーボードを叩いている。

「何してるんだ、翔太?」

「亮?もういいのか?」

「ああ、寝ている場合じゃないからな、、。すまん。」

暗い顔になってしまったのだろう、植草は笑って首を振って再び画面に目を移した。

「とりあえず今情報を集められないかと思ったんだがな、、。」

「そういえば翔太パソコンに詳しかったな?」

古場は植草の横に座り、画面を覗き込んだ。

「まぁ、好きだけど詳しいって程じゃない。それに今電波どころか電気すら立たれている状況じゃ、やっぱり意味ないな、、。」

古場には理解できそうにない文字の羅列が並んでいるが、手詰まりらしいことだけは理解できた。

「電気が無いとやっぱりどうしようもないのか?」

「ああ、電波ってのは人間でいえば言語、いや、その場の空気とでもいえばいいか、存在しなければローカルでできる事以外は何もできない。まぁ電波の繋がってるものに接続すればなんとかできるかもしれんが、今のこの状況じゃ、そんな機会もないだろうな。」

植草はそう言って肩をすくめ、ノートパソコンを閉じた。パソコンの時刻は午前2時を示していた。

植草は一言"寝る"と言って横たわってしまった。

先ほどまで気絶していた古場も疲労しているには違いないのだが、余りにも考えることが多く、眠ることなどできそうにもなく、バットを持ってコンビニの外に出た。

灰で覆われている空では月明かりも薄暗くなる。

「そういえば、太陽の光を浴びないで部屋にずっといると鬱病になるって研究が昔あったらしいなぁ、。」

そんな以前ネットニュースで見たようなことを呟くことに何の意味もない。

今現在の状況から逃げ出したいだけなのかもしれない。

コンビニの前でたむろする青年のように古場も座り込む。ガラスに背中を預け、ぼーっと月を見ていた。

バットを置こうとしたとき、その手に古場の腰にあるものに触れた。

「これは、、。」

それは"金田"から渡された銃とホルダーベルトであった。

「、、、、。」

銃を静かに抜き、シリンダーを回す。

そしてその子気味良い回転音が止まった時、シリンダーに空薬莢が残ってるが見えた。

さっきのままであることに古場は今になって気づいた。

その視界が微かに滲みそうになった時、コンビニのドアを開ける音が聞こえて、古場は驚いてそちらに目をやった。

「なに外に出てるのよ、、、。」

少しばかり呆れた顔をした夢橋がそこにはいた。

「希さん、、。」

「この前とは逆ね。」

「え、逆、、?」

慌てて顔を背け、言葉を繰り返してしまった。

「空港の時はあなたが私がいるところに来たでしょう?今回は私が来たわ。」

「あ、ああ、そう、ですね、、。」

夢橋の弟の死を聞かされた時のことを言っているのだろう、欠伸をするふりをしてこぼれそうになった涙をぬぐった。

「・・・・・」

「・・・・・」

夢橋は座ったが何かを言おうとはしない。

古場もまた何も言わなかったが、夢橋をちらちらと見ていた。真意が掴めなかった。

「どうして、どうしてここに?」

やっと言った言葉がそれだった。

「どうしてって、あのまま森にいたら危険でしょう?感染者が多いかもしれないわ。」

「いや、そうじゃなくて、どうして希さんは今俺のところに?」

そういうと夢橋は古場を一瞥して、

「別にあなたに会いに来てはるばるここにやってきたわけじゃないわ、外に出たかったから出た。そしたらあなたがいた。それだけよ。」

とそっけなく言った。

「そうですか、、。」

「あなたは、金田さんの事は覚えているのよね?」

「・・・・・」

古場は何も言えなかったが、その沈黙こそが答えだったが、

「夢を、見たんです。不思議な、、。」






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