第27話「望まぬ雨。」
短めに書きました。
いつからか森に降り始めた雨が、辺りの音をかき消していた。
雨が、引き金を引いた銃口から立ち上る細い煙をかき消そうとしていた。
雨が、引き金を引いた男の頬を濡らしていた。
ただ、その倒れた男の涙の代わりをするように。
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『おい、亮。』
なんだ、うるさいな、、。俺は眠いんだ、寝かせてくれよ、、。
なんだかやけに今日は瞼が重いな、どうしてだ?もう、眠りたい。
『そんなことも分からないのか?』
「え?」
ぼやける白い視界、そこには知らない男が立っていた。
知らないはずなのに、やけに見覚えのある風貌。
『お前はもう起きたくない、立ち上がるのはご免だって思ってるからだよ。』
「何の話だよ、、あんたは、誰なんだよ?」
ぼやける意識の中で返事をする。
『お前がここで眠ったら、他の連中はどうなるんだ?』
他の連中?何のことなんだ一体。
大学には悠介くらいしか知り合いもいない。
「あんたは、何を言ってるんだ?」
『詳しく言う訳にもいかんな。お前が自分で乗り越えるべきことだからな。』
「乗り越えるべき、、こと?」
俺の前に立つ男はゆっくりと頷く。
『お前はやるべき事をしただけだ。気に病むことは無い。』
男は、まるで俺を諭すかのように、静かにそう言った。
やるべき事?大学の課題は、まだやってなくて机の上に放置してたはずだし、、?
俺は一体何をしたんだ。
どんどん薄れていく意識の中でそんなことを考えていた。
『亮。』
その男はもう遠くにいるように見えたが声だけは俺の耳に届いた。
『これからどんな困難があろうと、最後の最後まで絶対に諦めるな。その意地は必ずお前を救うはずだ。』
「、、救、う?」
って何から?なんで?
その先を考える前に白かった視界は真っ暗になった。
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「この状況、どうするんですか?鈴谷さん。」
古場は金田の胸を撃ち抜いた直後に前のめりに倒れてしまっていた。
金田もまた前のめりに倒れ、向かい合うように動かなくなっていた。
既に夢橋は古場に駆け寄り、声をかけながら肩をゆすっていた。
「金田さんは、、、死んだん、ですか?」
山中は視線を地面に向けたまま鈴谷に尋ねる。
「ええ、恐らく。金田さんが"人"であったら、ですがね。」
「どういうことです?」
「もし、亮さんが撃った時に感染してなければ恐らく亡くなってるでしょう、しかしもし既に"患者"として感染状態にあった場合は脳幹の機能を停止させないと立ち上がる可能性はあります。」
それを聞いた山中は、ばっと視線を金田の体に向ける、が動く気配は無い。
「故人にこういうのは人として最低ですが、」
そう前置きして鈴谷は雨を降らす雲と粉塵に覆われた灰色の空を見上げた。
「金田さんは、人として死ねただけでも、マシなのかもしれません。」
山中は鈴谷の表情を見て何も言うことが出来なかった。
鈴谷は果たして涙を流しているのだろうか?
声が震えて聞こえるのは雨のせいで寒くなってきたからだろうか?
そんな疑問が浮かんでは消えていく。
野田は、夢橋に揺すられても未だ気を失っている古場を担いだ。
「皆さん、このままでは体調を崩します。雨をしのげる場所を早く探しましょう。」
森とは言え雨を防げる訳ではない。
寧ろ草などに水が張り付き、靴が酷く濡れるため余計酷く感じられた。
「森とはいえ、そんなに広くはないはずよ。恐らく地形から考えてしばらくすれば道路らしい道路には出れるはずよ。」
顔に張り付く雨粒を払い、顔を歪めながら夢橋は言った。
既に森に入って半日以上経過している。体力のない夢橋や、植草、山中もまた体力の限界に達していた。
更に雨はどんどん体力を奪っていく。時間はもうあまりなかった。
しかし、
山中はぴたりと立ち止まった。
「ど、どうしたんだよ?悠介?」
その言葉で他のメンバーも立ち止まって山中を見た。
山中は何故か後ろを見たり、周囲を見回したり、メンバーの顔を一人一人見ていた。
そしてどんどんと彼の顔が青ざめていくのが周囲の人間にも感じられた。
「ちょっと、悠介?どうしたのよ?」
「、、は、どうし、、た?」
「え?」
雨によって聞こえにくく、夢橋は聞き返す。
「未歩ちゃんは、どうした、、?」
2章完結出来ました。ありがとうございます。
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