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蛍火を弾丸と共に撃て  作者: 藍谷紬
生命のプロトコル
26/30

第26話「別れの音。」

金田の意志は永遠なれ。

焚き火の近くに飛び散っていた血を見て古場は言葉を失っていた。

その血を遡るように写した視線の先には、横向きで目を閉じて倒れている金田の姿があった。

「金田さん!?金田さん!!」

その姿にはっとして古場は近づこうとしたが、飛び散っている黒ずんだ血を見て立ち止まってしまった。

その声に反応するように横たわっていた金田の肩がかすかに動いた。

「・・・りょ、亮、、か?」

こちらを向いてはいたが目は虚ろで焦点は定まっていない。

「い、一体どうしたんですか!?」

血が伝っている金田の口がかすかに動いたが、声は出ておらず、何を言っているか古場は理解できない。

と、その時金田は懸命に足を動かそうとしており、その足先にはカバンと拳銃にホルダーベルトがあった。

「これですか!?これ、、取ればいいんですか!?」

古場は思考がまだ追いついておらず、涙目になりながら震える手で金田の荷物を抱えた。

しかし金田は力なく、微かに首を横に振る。

「か、かね、、え、えっと、、。」

呼吸が苦しくなり、古場自身どこを見ているかも分からなくなった。

「・・はぁ・・こ・・を、も・・け・・。おれ・・もう、ダメ・・だ。こ・・せ。」

そう言ったかと思うとポケットに手を入れ、ネックレスのようなものを取り出し、古場へ投げた。

それに手を伸ばして見ると、

「銃弾のネックレス?」

金田が以前から身につけていたもので、外して弾丸として使える予備弾などと金田は以前から自慢げに言っていたが、自らの荷物と銃と共にそれを古場に渡した。

その行動の意味を微かに感じ取ったように、古場はその場にへたり込んでしまった。

「う、嘘ですよね?金田さん、、。」

その言葉が聞こえたのか、金田は目を少し細めるようにして笑った。

「すま、、ん、、。」

そう言って金田は目を閉じ、糸が切れた人形のように動かなくなった。

「そ、そんな、、。」

そこへ夢橋たちが茂みから飛び込んできた。

「亮!」

その声に気付いた古場が振り向く。

「の、のぞみさん、、。金田さんが、、。」

亮は金田の荷物を抱えたまま震えていた。

山中が驚いて古場に近づく。

「おい亮!これは一体どういうことだ!?」

「わ、わからない。俺が戻った時にはもう血を吐いて倒れてて、それで、、。」

「なんで急に、、。」

「二人とも、こっちへ来なさい。」

話の途中で夢橋は彼らに言うと、古場たちは困惑した顔で彼女を見た。

「金田さんの急激な発熱、痙攣、意識の混濁、そして多量の吐血。今の状況で最も確率の高い疾患は、」


「ウイルス感染よ。」


その言葉で場が凍りついた。

「嘘だ、ろ?金田さん!」

山中が彼を振り返るが、

「動かないで!こっちに来なさい!」

と夢橋は大声で一喝した。

古場も山中も戸惑いながら立ち上がり、金田から距離を取る。

「夢橋さん、もし本当に金田さんが感染しているならこの辺りにも他の感染者がいるってことですよね?なら早くここから動いた方がいいのでは?」

鈴谷は銃を周りに向けて構えながら、夢橋の背中側から声をかける。

「ええ、おそらくいるでしょうね。」

彼女は金田を見つめたまま答える。

「でも、今の時間から動いても危険度は増すだけ。せめて安全な場所を確保しておかないと。」

夢橋は腕時計を見てそう言う。

「それよりも、、。」

古場の言葉にその場のものが彼を見る。

「金田さんは、このままなんですか?これから感染者になって、俺たちを襲うんですか、、?」

しばらくの沈黙が訪れる。

「感染したものは今まで例外なく襲っています。そうなる可能性は、十分にあるかと、、。」

野田は決して古場と目を合わせようとはせずに、そう言った。

「なら感染者になって俺たちを襲う前に、、」

と植草が言いかけたところで夢橋が彼の胸ぐらを掴んだ。

「、、黙りなさい!」

事実であることは彼女も心の中では認めていたが、それを今発言した彼を許せなかったのだ。

「だって、本当のことじゃないか、、!実際問題金田さんのせいで俺たちの誰かが感染したら誰が責任取れるって言うんだよ!」

植草は必死になってそう言い、夢橋はそんな彼の胸ぐらを、その華奢な腕で締め上げるようにしていた。

「おい!鈴谷!」

植草はそれでもなお彼のボディガードに命令を下そうとする。

「その口を、閉じなさい!」

「離せよ!」

植草は夢橋の手をいとも簡単に振り払い、鈴谷と野田を見た。

「夢橋さん、酷ではありますが、翔太さんの言ってることは事実です。」

鈴谷は唇を噛むようにしてそう言った。

金田は彼の尊敬する先輩であった。

鈴谷がその言葉を口にするにはどれだけの覚悟が必要かは夢橋にも想像できていない。

彼にそう言われてしまい夢橋は下を向いてしまった。

鈴谷が銃を上げ、金田の方へ向けた時。


「だったら、、、。」

古場はゆっくりと金田のガンホルダーを腰につけ、銃を静かに抜いた。

それは彼の覚悟の現れだったのかもしれない。

「え?亮さん?」

構えていた銃を下ろして鈴谷は彼を振り返り、目を見開いた。

古場はシリンダーに一発だけ弾を入れ、回転させた。

ルーレットのような音があたりに静かに響き渡る。

「亮。お前まさか、、!?」

山中も彼のその仕草を見て驚きを隠せていない。

夢橋に至っては何を言えるはずもなく固まっていた。

「俺が、やります。」

その時の彼の頭の中には先ほどの息があった時の金田の姿が浮かんでいた。

「死ぬ前に金田さんが言いかけてた言葉がありました。その時は全然理解できませんでしたけど、今ならわかります。」

『俺は、もうダメだ。俺を、殺せ。』

金田は笑ってそう言っていた。

「俺がやらなきゃ、ダメなんです、、。」

そう言いながら古場が銃を金田に向けた。

その時古場は身体中に寒気が走った。

弾を入れた時には感じなかった銃が重さが急に伝わってきた。

そして、人を殺す道具を人に向けている、という状況。

この引き金を引けば、その人の人生の全てを断ち切ってしまう。

そんなことを考えては引き金が引けないことなど古場もわかっていた。

しかし、それでも古場の脳裏には金田の顔が浮かぶ。

「り、亮!もういいわ!やめて!」

古場の震えている手を見て、耐えきれず夢橋はそう言って古場へ手を伸ばそうとするが、

「夢橋さん、、。」

野田が彼女の手を横から掴み制した。

「ど、どうして、、?」

「これは、彼にとってケジメです。きっと彼はここで金田さんを撃ったことを後悔し続けるでしょう。しかし、俺たちが撃てば彼は2度と立ち上がることはできなくなる。彼自身に撃たせるのは酷ですが、今は見ることしかできません。」

野田はまっすぐ夢橋を見据えて言った。

「っ、、!」

その視線から夢橋は目を背ける。



「金田さん、、、ごめんなさい。」


古場は頬に伝わる涙を感じ取りながら震える人差し指で引き金を引いた。


遅れました。読んでいただいてる方には申し訳ない限りです。

ここで章の区切りとなります。


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