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蛍火を弾丸と共に撃て  作者: 藍谷紬
生命のプロトコル
25/30

第25話「最初の悲鳴、最後の静寂。」

クライマックス一歩手前。


日が沈み、辺りが暗くなる頃、焚き火に照らされている面々を見渡しながら古場と金田は話をしていた。

「俺たちこれからどうすればいいんですかね、、?」

日中のラジオに関して夢橋が言っていたことが古場の頭から離れずにいた。

「俺たちを襲う感染者たちがわんさかいるのに、それを殺そうとする奴らまで出てくるなんて、もう、、。」

しかし、その言葉を金田は遮った。

「その先は言うなよ。言っても状況は変わらん。関東地区だけに感染が広がっているってことは、その他の地域にはまだ広まってな、、い。この調子なら、おそらく海外はもってのほかだ。R.S.によって封鎖されてるのは眼に浮かぶが、、、どうにか突破する方法は、、、必ずある。そ、それに植草の土地にロケットがあるんだろ?民間用の。それを使えば、、、感染なんてまだ知らされてるかもどうかわからないところまで逃げることが、、できる。、、、そ、そうなればまず安全は確保できるさ。」

金田は軽く笑うが、古場はそれを真似する気力など無かった。

ふと金田の顔を見た時、その顔に脂汗が滲んでいるのが見え、表情も心なしか険しく見えた。

「どうしたんですか?金田さん?」

だが金田はその声さえも聞こえていないようで、古場が気付いた時には肩で息をし始めていた。

「まさか、また頭が痛むんですか?」

その異変に気付いた下田が近づいてきた。

「金田さん?頭痛ですか?」

その下田の言葉に金田は頷いたようにも、そうでないようにも見える。

下田は細く白い手を金田の額に伸ばし、そっと触れた。

「ひどい熱、、。一体いつから無理をしてたんですか、、!」

下田にしては珍しく、全身の様子を見ながら出したその声には怒りにも似た感情が混じっていた。

しかしその声さえも届いておらず、金田の手が痙攣を始めた。

「夢橋さん!金田さんが熱を出してるようなので私、水汲んできます!」

夢橋は目で山中に合図をし、バットを持った山中が立ち上がる。

「未歩ちゃん、俺も行くよ。」

「はい、お願いします!」

小走りの二人を見送った後に夢橋は金田の近くへ行き、彼の様子を見て眉をひそめた。

その表情を見て古場は夢橋の顔を覗き込んだ。

「の、希さん、、?」

「おかしい、、。」

彼女はそう呟いた。

「おかしいって何がです?」

「金田さんはおそらく慢性硬膜下血腫だったと私は思っていた。というか今までの状況ではそれが妥当だった。でも今は、急激な発熱、痙攣、意識混濁、今は鼻血も出てる。明らかに何か違う疾患が、、。」

とそこまで夢橋が言った時だった。


叫び声が響き渡った。


「な、なんだっ!?」

甲高い声、川の方、下田の金切り声のような、悲鳴のような、叫び声が聞こえた。

その声で仮眠を取っていた鈴谷、野田が目を覚まし立ち上がる。

植草を守るような形で辺りを見回している。

「下田さんっ!まさかっ_____!!」

夢橋が川の方角を振り返った時には古場は全力で駆け出していた。

目の前の真っ暗な木々をバットで無我夢中でかき分け、叫び声の聞こえた方角へ走った。

少しして森を抜け、砂利を踏む音が古場の耳に届く頃には、古場は肩で大きく息をしていた。

「下田さん!悠介!」

辺りは暗かったためどこにいるかは判然としない。

下田らを見つけ走って近づくと、彼女らは何かに追われていた。

下田らを追う影こそ遅かったが、その姿を見た時古場は背中から冷たい汗が吹き出した。

「な、なんでこのタイミングでっ!くそっ!」

と、感染者を横から叩こうとした時、恐怖が体を駆け抜け、咄嗟に手が出なくなってしまった。

「亮!止めろ!今は逃げろ!」

「古場さん!こっちにきちゃダメです!」

古場は二人の声ではっとする。

その時ちょうど夢橋達が追いついたところで野田が古場を手で制し、感染者向けて躊躇いなく発砲した。

川沿いだったせいか銃声は長く辺りに響いた。

1度の発砲で感染者は地に伏し、その間に下田と山中が古場達の元へ走ってきた。

下田は古場に抱きつくようにしがみついた。

「え、ちょ、、。」

古場は驚いて退けようとしたが、下田の肩がひどく震えているのに気づきその身体に触れるのをやめた。

野田は感染者にずんずんと近寄り、蠢いている感染者をもう一度撃ち抜いた。

その銃声に反応した下田が古場の腕の中で跳ねる。

野田の2度目の発砲で、感染者は完全に動きを停止した。

「下田さん、山中さん、怪我はしていませんか?」

植草のそばにいた鈴谷が二人に声を掛けた。

山中も下田も怪我はしておらず古場はホッとした。

「でもなんでこんな状況で、、。」

「こんな状況だったからよ。」

古場のつぶやきを遮るように夢橋が言った。

「さっきは確かに見つけられにくいという話はしたけれど、この暗さでほぼ単独行動なら遭遇してしまう可能性はあるわ。だから亮。あなたもあの時一人で行ったでしょう?あれは絶対にダメ。」

夢橋に叱られているうちに下田は古場からゆっくりと離れていた。

「す、すいません、、。つい、、。」

「結果として誰も怪我しなかったからよかったものの、一つ間違えば3人とも感染してかもしれないわ。」

その言葉で3人とも肩を落とす。

「でも、そうね。下田さんはもちろん、飛び道具がない悠介を護衛につけてしまって危険な目に合わせたのは私だわ。ごめんなさい、、。」

夢橋は唇を噛んで謝罪する。

「よしてくださいよ希さん。俺がもっと周囲に気をつけてればうまくやり過ごせたかもしれない。あんたが謝ることじゃないさ。」

山中は案外平気そうに笑って見せたが、精一杯の強がりだったろう、隠しきれずに少し声が震えていた。

感染者も退治し、一安心という空気が流れたが、古場は面々を見渡した時、酷い寒気がした。

思考が追いつかなかった。

古場、

夢橋、

山中、

下田、

植草、

鈴谷、

野田。


「亮?」

その様子に夢橋が覗き込むようにして声をかけた時。

「やばいっ!!!!」

なぜか直感でそう感じた。

気付いた時には、古場はバットも投げ出し、夢橋を半ば突き飛ばすようにして走り出した。

「ちょっ、ちょっと亮!?」

「あ、、、お、おい!!金田さんが1人だ!!」

山中の言葉に夢橋の顔は青ざめていき、古場の後を追った。


「なんでだ?なんでこんな嫌な予感がするんだよ!?」

夜とはいえ夏に全力で走っているのに全身が氷漬けされたような悪寒。

いいようもない不快感が古場の全身を駆け巡っていた。

そして、その予感は、的中していた。


「金田、、さん、、?」


金田の吐いた血が焚き火にちらちらと照らされていた。

次で多分章が終了ですね。

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