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蛍火を弾丸と共に撃て  作者: 藍谷紬
生命のプロトコル
24/30

第24話「焦燥の雨。」

あめは雨でも普通の雨じゃございませんよ。

木で前がよく見えない状況のまま古場達は息を切らせながら全力疾走していた。

食料や飲み物を入れてあるカバンのせいで肩が悲鳴を上げているが止まらない。

目の前は真っ暗のようなものだが頭の中は真っ白である。


どれくらい走っただろうか、森林の切れ間、日の光が差し込むところで古場は足を止めた。

そこには金田と山中が既にいて木に体を預け呼吸を整えていた。

古場もカバンから飲み物を取り出し一気にあおった。

喉を鳴らし、汗をぬぐったところで夢橋たちが到着した。

「はぁ、、はぁ、、。」

山中は立ち上がり夢橋に飲み物を渡す。

「あ、ありがとう、、はぁ、、はぁ、、。」

「あんま運動してないのに走るとさすがにきついよな。」

山中もあまり余裕が無いように見えるのは走ったせいだけではないだろう。

植草と野田、鈴谷と引っ張られていた下田も到着する。

しばらくは息を整える合間があり全員が無言だったが、

「いったいどうなってんだよ、、。」

と山中がつぶやいたことで沈黙が破られた。

しかしその視線は植草たちに向けられていたことに植草は気づく。

「俺たちにも分かんねぇよ。」

その言葉にはどこかとげとげしい気持ちが込められてるようにも思え、

「お前が乗ってきたヘリが動かなかったのが原因じゃないのか!?」

と山中は声を荒げる。

「俺たちのせいだっていうのか!?」

植草も声を荒げ山中に近づき、山中もまた植草に近づいたとき、

「待ちなさい。」

と夢橋が二人を手で制する。

「ここで揉めてる場合ではないわ。悠介、頭を冷やしなさい。今の状況がなぜ起こったかより、今の状況からどうするか、それを考えなさい。植草さんも、落ち着いて。」

交互に顔を覗き込みそう諭す。

「っ、、。そうだな、、。すまん、翔太。」

ぶっきらぼうに山中は言って木陰に戻る。

植草も納得がいかない表情をしていたが、野田のところへ戻った。

「はぁ、、。」

ため息をついた夢橋が近くに座ったので古場は声をかける。

「皆イライラしてるんでしょうか?」

夢橋は古場を見ることなく地面を見つめ、汗をぬぐう。

「急激な状況変化に対応できずパニックになってる方が近い。悠介だってあれを本心で行ってるとは思えない。それに加えてこの暑さ。日本特有の蒸し暑さはサバイバルには不向きね。」

冷静な声の中にも焦燥感がうかがえる。

古場は何か言おうとするがその声を聞いて言葉を飲み込む。

「今は午後1時。ここから2時間は動かないほうがいいわね。」

気温が最も上がるのは地表温度が上がってから1,2時間、午後2時が気温は最も高くなる。

それがジャングルさながらの森に適用されるかは定かではないが、最も確率の高いことだ。

「誰か、気分の悪い人とかいる?」

古場はメンバーを見渡しながら言った。

答える余裕のあるものはいないが顔が青白いような緊急を要する状態の者はいるようには見えない。

ゆっくりと立ち上がり古場は金田の所へ近づいた。

「金田さんはどうです?」

「いや、まだ問題はない。水が不足すると危ないから結構飲んではいるしな。ただ早い段階でこの暑さをどうにかするか、ここから脱出しないと危ないな。もしかしたらこの近くにも感染者がいる可能性はある。」

それを聞いて古場ははっとする。

余りにの疲労感に忘れていたがこの森の中にも感染者がいることは十分にありうる。そうなればここで悠長にしてる暇はないのではないか。そう思い夢橋のところへ行くと、

「まず問題ないわ。」

と言われた。

「感染してからの行動パターンとして考えられるのは人へと感染させること。つまり病原体の拡散が目的なのよ。つまり匂いや音に反応して感染させようとする。この場合この森に入る感染者がいる可能性は高いとは思えないわ。空気感染ならまだ分からなくもない、動物にも感染する場合も分かるけれどそんなことは確認できていない。早めに行動すること自体は必要だけれどそんなに心配はいらないと、思うわよ?もし既に森林にいたとしても私たちを見つけるのは私たちが見つけるのよりはるかに難しいのよ。」

植草は鈴谷と話をしていた。

「着陸の時はどうなっていたんだ?」

「いつも通り着陸の操縦を続けていたらメインローターの電源が落ちたんです。例えるならコンセントが抜けてしまったような感覚でしょうか、、?」

「しかも次の発進の時には全く反応が無くなったんだよな?」

「ええ、あんなことは今まで起きたことがありません。どうしてこんな時に、、。」

鈴谷は眉間にしわを寄せ首を振る。

「、、仕方ない。気にするなと素直には言えんがお前のせいではない。どうにかしよう。」

鈴谷の肩を叩いた植草は野田のところに向かう。

それと同時に鈴谷は下田に話しかけた。

「大丈夫でしたか?焦っていたのでかなり乱暴になってしまったのですが、、。」

「だ、だいじょう、、大丈夫です、、。」

そういう下田の両足はがくがくと震えている。

「ど、どこか怪我を!?」

「あ、そういう訳じゃないので、、」

下田はまだ状況が全く理解できておらずパニックが続いていたのだ。

それに加え訳の分からないまま投げられ、森の中を引きずり回されたので体力が限界に達していた。

「やだ、、。おうち帰りたい、、。」

半ば自棄になってそう呟いていた。



午後3時30分。少し気温が下がり涼しく感じられ始められたころ。

夢橋が立ち上がり鈴谷へと近づいた。

鈴谷は夢橋を見上げていたかと思えばすぐ様に立ち上がる。

「どうしましたか?」

「悪いのだけれど近くに川があったと思うのだけれど探してきてもらえないかしら?日が落ちる前に。」

茨城県には川がいくつかあるが核戦争以前から地盤の変化が起こり地形が変化していた。

そのせいで霞ヶ浦へとつながる川が分裂し細い川が数多く存在していた。

「分かりました。野田。」

鈴谷は野田に視線を向け促し、野田もすぐに立ち上がり夢橋の示す方向へと二人で探索へ向かった。

「ねぇ、植草さん?」

木の近くで船をこいでいた植草は声をかけられビクッと体を起こした。

「あ、えっと、、はい、なんでしょう?」

「敬語は結構です。つかぬことを聞きますがあなたのボディガードのお二人、何か武装はしていますか?」

そう聞く夢橋に植草は少しばかり眉をひそめるが、

「二人とも多分拳銃は持ってるはずだ。ベレッタとか言ってたかな?」

「M9ね。なら大丈夫ね。ありがとう。」

戻ってきた夢橋に古場は聞いた。

「どうしてあんなこと聞いたんです?」

「一つは単純に戦力の確認。もう一つは、、。」

そこまで言って夢橋は植草を一瞥して口をつぐんだが古場には分かった。

裏切られたときの為______

そんなことはこの場では言えない、古場もそれ以上追求しようとはしなかった。

「川を見つけるのはいいんですがそれからどうするつもりなんですか?」

「瀬戸飛行場に行くにはいくつか障害があるわ。横浜と東京の境目あたりよね?つまり大回りしたとしても

必ず市街地を通らなければいけない。これを行うにはかなりの時間がかかる。それに全権を獲得した現状が何をするか、、。」

といった時古場はラジオを取り出してスイッチを入れる。

『国の天気です。全国的に晴れの予報が出ています。西日本は例年以上に気温が上がり各地熱中症に気を付けてください。東日本は、例年に比べて気温が低い傾向が出ています。次に______』

「なんか妙に普通ですね。もっと緊急性のあるものかと______」

といった時夢橋が唇に人差し指を当てる。

『あ、ここで、速報です。R.S.は感染者の確保を行い、隔離、研究しワクチンの開発の計画を進めることを発表した模様です。現在R.S.人員の中でも感染によって失踪した隊員なども多数出てはおりますが倒れた患者や隊員の為に全力を尽くすと元城司令官が長野の記者会見で発表しました。現在感染地域は関東区域に限られ、西日本及び東北への、からのアクセスは制限されており______』

そのニュースは古場にも、それが聞こえた山中にもこれ以上ない衝撃であった。

「感染が関東に限られている⁉そんなバカな!あんなに急速に広まった、緊急事態宣言まで出されているんだぞ!?それにアクセスを制限してるって、、。」

山中が声を上げる。

「この場合、関東、つまり政治や国の運営、それに準ずる機関が機能停止に陥った状態なら宣言をしてもおかしくないわ。それより元城はやっぱりこの方法に出たのね、、。」

夢橋は唇をかみながら言った。

「どういうことです?」

「確保、というのは名目よ。恐らくE.R.S.を使って大抵の感染者を殺すつもりよ。」

「E.R.S.?」

古場はその微妙に違う単語を聞き逃さなかった。

「地球での活動をメインとしている組織のひとつ、もうひとつはM.R.S。火星での日本利権を広げる物よ。」

夢橋の話によればR.S.創設時に火星での活動を主とし、日本が国際競争で勝てるように専用の舞台を編成する話が上がり、それをM.R.S.それともうひとつE.R.S.を作ったらしい。行う活動はまるで違い、自衛隊より遥かに軍事的行動をとりやすい、とってしまいやすい部隊だという。

今回の元城の宣言は名目上は感染の拡大を防ぐものであるが夢橋の予測では元城は感染者を確保してから研究し尽くして殺すか、またはその場で殺すだろうという。

「どうしてそんなことを、、?」

「確実なことは言えないけれど感染者は健常者を襲い病原体を増やすように、まぁインプットされている。それに加えて脳の機能停止を指せないとその行動は決して止まらない。そんな感染者を片っ端から捕まえて保護するなんて非現実的すぎるわ。命がけのマスコミが関東以外にその様子を流していたらそれは無理だと判明しそうだけれどまぁ、やるでしょうね。」

途中から話を聞きに来た下田も顔が真っ青になっている。

「どうして関東だけなの、、?」

「分からない、、。対応できたのがそのタイミングからだったとか、かな?」

「え、ええ、そうですね、、。」

『また、関東各地で火事が相次いでいるようですが原因は不明です。』

「火事、、?」

その時古場は金田と見た死体を思い出した。焦げた匂いがしていた。同じ方法を向いていた。

「それが何の役に立つっていうんだよ、、。」

小さく呟いて首を振った。

鈴谷と野田が川を見つけて戻ってきたのはそれから2時間、少し日が傾き始めたころだった。


次で第二章の終幕!

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