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蛍火を弾丸と共に撃て  作者: 藍谷紬
生命のプロトコル
20/30

第20話「ヒビ。」

翌日______。

空港の見送りデッキに立っていたのは古場と下田であった。

「確かに希さんの言うこともわかるけどこうも交代で見張りするのも面倒くさいもんだね。」

夢橋が言うには

______「その植草さんという人がいつくるかは正確な時間までは分からないんでしょう?ここ一体の電波はつながらないのだから。ならそこのデッキに交代で見張りを置いておくべきね。物凄く注意深く見る必要まではないとは思うけれどね。」______らしい。

「そうですね、まだこの時期は外は暑いですし、もしかしたら滑走路の上にいる感染者達も熱で倒れたりs手相ですけどね。」

「例年通りの夏ならそうかもしれないけど、ほら、、。」

古場が斜め上へ、灰色に濁った空を指さす。

核戦争の遺産。太陽光の数パーセントをさえぎってしまう塵が大気圏上空に滞留し、取り除かれるまでにはまだ時間がかかるらしくそれまでは地球全体、とりわけ日本など大国に挟まれている地域は気温が例年よりも下がると言われていた。

そのため下田が言っていたような気温による感染者の衰退は簡単にはいかない様だった。

「まぁ例年より低いとは言ってもあんまり運動もしない人間にとってはしんどいことに変わりはないね。」

「私も研究室にこもってばっかりなので外に出ると眩暈がしそうです。」

「薬学の研究って具体的には何をするの?」

古場はなんとなく気になって聞いてみる。

「そうですね、本来他の学校はまだ旧体制らしくて座学をして高校生の延長観たいというらしいんですが、うちの大学は何故か違くて結構何かやりたいことがあれば好きに聞いて勉強して実験していいんです。ですから私は主に風邪について勉強しているんです。」

「風邪?あの普通に引く?」

その言葉に下田は頷く。

「風邪は特効薬が昔からありません、現在も研究がされていてもやはり何百も種類があるウイルスに対して特効薬を作るのは中々に難しいんです。随分前から言われますが風邪のそういう薬を作ったらノーベル賞が頂けるほどです。」

「そんなに難しいのか。誰でもかかるし簡単に治るからそうでも無いと思ってたけど。」

「体の免疫はとても臨機応変なものですからね。時と場合によっては医学よりも優秀なんです。」

そういって下田は近くのベンチに座り張り付いた前髪をいじる。

その額にはべたべたとした汗がうかがえる。

古場は一度中に戻り飲み物を取って戻った。

「ほら、熱中症になるよ。」

その飲み物を見た下田は一度硬直し再び表情を明るくした。

「すみません、頂きます。」

ペットボトルを一度逆さにして戻して蓋を開け飲んだ。

古場もベンチに座り空を見上げる。

一応の日陰とはいえ暑いことには変わりなく目に汗が入り込み古場もスポーツドリンクを口にした。

「なぁ、下田さん。余計なことかもしれないけど下田さんは、親とかに連絡しないで見ず知らずの俺たちについてきちゃったけど大丈夫だったの?」

「、、、。」

「下田さん?」

「あ、ごめんなさい、なんでしたっけ?」

きょとんとして下田は古場を見た。

「いや、だから親とかに連絡しないで来ちゃってたけど、大丈夫なのかと。」

「あ、ああ、そうですね。私は一人暮らしなのですぐどうとうは行かないとは思いますが、両親の事も心配ですね。」

下田はどこか寂しそうに笑って答える。

20歳そこそこの女の子、こういう状況に陥ったら普通はパニックで泣き出してもおかしくはない、なのに下田は泣くどころか力ないが笑えることに古場は驚いていた。

「ご両親はどこに住んでるの?」

「えっと、、兵庫に。」

「その割には下田さんは関西っぽい言葉じゃないね。」

「ええ、まぁ両親は標準語ですしね。友達に影響されるくらいでは私の言葉は揺るぎませんでしたよ。」

笑いながら下田は答える。

そうしてるうちに山中と金田がやってきた。

「お疲れさん。」

「暑いんで気を付けてくださいよ。」

古場はベンチから立ち上がって言う。

「ああ、分かってるさ、、______っ!!!!」

金田が答えたとき急に頭を押さえて地面に膝をついた。

「え、ちょ、金田さん⁉」

山中は驚いてしゃがみ、古場もしゃがんだ。

「あぁ、ぐあぁあ、、!!!」

頭を押さえ金田はうめき声と叫び声を出す。

「ど、どうしたんですか⁉」

少し離れていた下田がベンチから立ち上がって駆け寄る。

「だ、だいじょう、大丈夫だ、、。あぁ!」

「大丈夫な訳ないでしょう!おい亮!」

と山中が金田を運ぼうと手をかけたとき、金田は糸が切れたように倒れ、右手と右足が痙攣していた。



「なんてこった、、。」

会議室は非常電源によってエアコンをつけることが出来ていたために涼しかった。

そこに金田を運び込み寝かせていた。

「それでその時の状況は?」

夢橋は脚を組んで古場に聞いた。

「え、えと、金田さんと悠介が交代しに来て、急に頭を押さえて叫びだして、、、。」

「他に見られる症状は?」

「手足が痙攣してましたね、、。多分。」

その時山中が口を挟んだ。

「熱中症とかじゃないんですか?」

「私も最初はそうじゃないかと思った、けど余りにも症状が出るには不審点が多い。恐らく他の要因。そして金田さんが倒れる時、大丈夫、って言ったのよね?」

夢橋は山中に視線を投げ、山中は何回か頷く。

「ということは、既に何回か症状が出ていた可能性があるわ。そうね、金田さんが大怪我したり、物を落としたりしてたのを見たことあるかしら?言葉がおかしかったり、記憶が曖昧だったり。」

そう言われて古場と山中は顔を見合わせ下田にも視線を向ける。

「どうだったかな、、。少なくとも分かりやすいことは無かったような、、。あ。でも。」

そう言われ、夢橋は古場を見る。

「1か月くらい前に頭と腕に包帯巻いてアパートに帰ってきたことがあったかな?」

「そうね、、それだけでは判断できないわね。頭部外傷の後遺症が最も可能性は高そうね。今激しい運動は危険ね。出来るだけ無理はさせないよう貴方たちから言ってもらえるかしら?」

「希さんが言わないんですか?」

山中が不思議そうな顔で聞くと、

「私が言ってもきっと聞きはしないわ。加入を承諾してもらっても不信感が完全に拭えたわけではないもの。長い付き合いがあるあなたたちの方が素直になるのは当然よ。」

と少しばかり笑う。

しかしそれが寂しそうに見えたのは古場だけではなく山中もであり顔を見合わせて頷いた。

「見張りはどうします?」

「そうね、こういう言い方は悪いけれどキリのいい数になったのだから私と亮、悠介と未歩さんでしましょうか。とりあえず今は日の出ている時間だけでいいわ。」

横になっていた金田の意識が戻ったのはもう日が沈みそうな時間帯であった。

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