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蛍火を弾丸と共に撃て  作者: 藍谷紬
生命のプロトコル
15/30

第15話「後悔と、決意。」

「お前、俺の仕事について知らなかったよな?」

金田の声はいつもより低く感じられる。

「え、ええ、、。何も、、。」

「俺は元自衛隊、正確にはとある部隊の予備役なんだよ。」

その言葉を古場は理解できなかった。

「自衛隊は確かにR.S.と並列的存在だが、R.S.が余りにもまともな行動をとらないことを理由に実質的な軍事活動は結局自衛隊が補う形になってたんだ。そして俺は暴力団とかの案件を処理するチームに入ってた。」

「暴力団、ですか、、。」

古場はその言葉を聞いてなんとなく今までの金田の行動が理解できた。

不定期な出勤に、大怪我。そしてサバイバル知識の充実。考えてみれば予備役の軍人であるということで説明がつくと、言われて初めて気づいた。

「それでなんでこの話を今するか、というのは戦争の時に、お前は知らないだろうが、暴力団が警察と一緒になって麻薬を流してた時期があった。社会不安が増大してたからな、そういうモノに手を出す民間人が後を絶たなかった。取り締まるべき警察が癒着して逮捕もままならない。そんな時に自衛隊の暴力団の対策部隊が結成され、そこに俺も入った。その時の命令が、『殺せ』だったんだよ。」

「なっ、、そんなことって、、。」

金田の言ってることは恐らく本当であったろうがそれを古場はすんなりと受け入れることが出来なかった。確かにそういう癒着は以前からあると噂にはなっていた。しかし麻薬などの検挙というのはそれこそ警察が取り締まってたのではないのか?自衛隊に根絶させるとばかりに殺害を許可する国の状態も古場には到底信じられなかったのだ。

「まぁ、チームの中には反対する奴らも多かったよ。仲間思いで、国を愛していて、必死に働く奴らだった。だからいけなかったんだろうな。チームを抜けることは許されず、無理にでも実行せざるを得なかった。戦場ならともかく、人々の暮らしのそばにいる人間を殺すのはさすがに全員堪えた。」

金田は時計をちらりと見て、話を続ける。

「日本て国は戦争に結局参加しない年月が長すぎた。いくら軍人といえど、殺す方法を知っていても実際やるとなれば一般人とそう変わらない。いや、少しは違うか。でもさすがに辛くて、軍を止めざるを得なくなった奴が大半だった。そしてそういう奴らは俺と同じように緊急時に援護、という名目で呼ばれ、そこで殺しをさせられる。」

古場は金田の目を見て言いたいことをなんとなく悟った。

「だから確かに殺すのは気が引ける。それはよくわかる。だが、俺は先輩に教わった。

"自分だけが生き残る目的の為なら殺せなくても構わない、でも誰かを守る為なら迷わず殺せるようになれ、それが国を守る俺たち軍人の役目だ"ってな。

お前は軍人じゃないが、それは今理由にはならない。それはわかるよな?」

金田の視線が古場に移動する。

その視線がまっすぐで古場はそらすことさえも出来ず、小さく頷く。

「お前はこれから生きていくんだ。いつか有事の時に『俺は怖いから殺せない』、そんな理由で大事な人が死んでいくのを黙って只見るのをお前は耐えられるのか?」

古場は答えない、答えることが出来なかった。

「後悔ってのは死んでからはしない。生き続けてるからこそ、後悔するんだ。誰かが自分のせいで死んだら、そいつは死ぬまでそのことを後悔し続ける。」

そこで言葉を区切って金田は静かに立ち上がる。

「俺は『これ以上』そんなのまっぴらごめんだ。」

その言葉にいくつの意味が込められているのだろう。

古場は金田を見つめながらそんなことを考える。

「だからな亮。少なくとも俺が死ぬまではお前を、皆を死なせない、守ってやる。だがな、俺が死んだとき、自分の大事な人を守ることが出来るのは、お前自身だけだ。覚えておけ。」

しばらくの沈黙があり古場が絞り出したのは

「は、はい、、。」

という短い返事だけであった。

金田がフードコートに行こうとしたとき、古場は声をかけた。

「あ、あの」

「ん?」

「俺は今、何を手伝えますか?」

その言葉を聞いて金田は小さく笑う。

「そうだな、油と、大きい鍋を3つ。持ってきてくれ。」

古場は金田の気持ちが全て理解できたわけではない、まだ感染者、自分を襲うものと言えど殺すのにためらいはある。しかし、今ここでそれを言っても前に進むことはできない。

友人を守るために、という名目で立ち上がった古場の目には微かな決意が浮かんでいた。

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