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蛍火を弾丸と共に撃て  作者: 藍谷紬
生命のプロトコル
12/30

第12話「2つの疑念。」

車内は再び異様な空気で満たされていた。

しかしそれは嫌悪感ではなく、違和感、不信感から来ているものだった。

「おい、なんで誰もいないんだよ。」

窓に張り付いた山中の言葉は誰かに言ったというよりはただ呟きだったんだろう、誰が答える訳でもない。

答えないのではなく、答えることが出来ないからかもしれない。

何故ならこの異様な状況を誰も説明できないからだった。

山中家から出発した一行はまっすぐ茨城空港を目指していたが、出発して1時間以上経過しているのにもかかわらず、一人たりとも感染者に出会っていない。

数日前まで町中に闊歩していたというのに急に消え失せた。確かに死体は転がっている。焦げ跡が見受けられるような死体も、殴って殺されたような死体も、もとがなんなのか判別できないほどになってしまった死体さえもある。しかし、いまだ生きている感染者がいないのは古場達にはひどく奇妙に思えた。

「それはそれで助かるのは確かだが、なんか嵐の前の静けさ、な感じがするな、、。」

前方を見ながら金田が言った。

そうこうしているうちに「新しくなっていた」茨城空港の看板が金田の目に入る。

「あと10分もない。準備しておけ。」

その金田の準備、という言葉に古場と山中は顔を見合わせて頷いた。

リュックサックを背負いなおし、足元に置いてあるバットを持ち上げた。

金田も運転しながら腰の銃と弾の確認をした。


______茨城空港、駐車場。


「なんだよ、、、あれ?」

開口一番そういったのは山中だ。

古場もそう言おうとしただろう、滑走路の光景に息を呑む。

「なんでここに、、。」

滑走路にはかなりの数の感染者が集まっていた。

その数は500人程度だろうか、滑走路の中心で何やらごそごそと蠢いている。

駐車場にも所々血しぶきが滲み、倒れているものもいる。

「何がどうなってんだよ、、。」

金田が舌打ちをして車を隅の方に止める。

「お前らここで10分待ってろ。」

「え、ちょ、どうするつもりですか?」

「様子を見てくる。危険な場合でも翔太とやらはここに来るし、最低限情報を集める必要がある。」

「だったら俺も、、」

金田に食いついた古場だったが金田は鼻で笑う。

「あほか、お前たちがいるとかばわなくちゃいけないから面倒なんだよ。いいか?10分だ。それ以上経って戻ってこなかったら悠介が運転して一時的にここを離れて逃げておけ。」

そう言い残して金田はドアを開け、周りをうかがいながら走って行った。


「大丈夫なのかよ、、。」

山中は不安げに金田の背中を見ていた。

「まぁ、あの人はしぶといからな、何とかなるだろう、、。」

「ですけど、感染したらさすがに、、。」

下田の言葉は車の中で静かに響く。

「ご、ごめんなさい、、。」

そう言った彼女の体は小刻みに震えている。

「(当たり前か、見慣れていない風景でしかもこの状況だ、、。)」

古場は特段声をかける訳でもなく窓から様子をうかがう。

「どうして、、こんなことに、、。」

古場は下田のその消え入りそうな言葉に何故だか違和感を覚えた。

と、その時、銃声が響いた。

「なっ!なんだ、金田さんか!?」

「それしかないだろ!日用品の中に銃があるの金田さんくらいだぞ!おい悠介!」

古場はドアを開けて車の上に乗り確認しようとするが、金田の姿は見えない。

「もう、建物の中だと思うか?」

山中は古場を見上げて尋ねる。

「いや、建物の中に入ったならここまで鮮明に銃声は聞こえない。俺たちは車の中にいたんだぞ?」

「それもそうか、、。」

そんな会話をしていると金田が息を切らせて戻ってきた。

「金田さん!」

「まだ無事だな。はぁ、、」

「いったいどうしたんです?」

「いや、見える範囲の駐車場にどれくらい感染者がいるかを把握しようと思ったんだが思ってたより多くてな。誘導しただけだ。」

そう言って金田は近くの車に上った。

「ほら、見てみろ。集まってきたぞ。」

金田に続いて古場もその車に上り金田がさす方へ視線を向ける。

「そうか、、音におびき寄せられるんだっけ、、。」

10人か、20人か、とある一台の車の周りに集まり始めた。

「結構ガバガバだが、車がある駐車場ではこれは使える。最悪あそこに一発撃てば引火する。ガソリンを垂れ流しておいた。」

「あんたを敵に回したくないもんだね、、。」

山中はあきれ顔で金田を見上げた。

「それで?これからどうするんです?中にどれくらいいるのか分かったもんじゃない。あと明後日までどうやって乗り切るつもりですか?」

古場は視線を移さず尋ねる。

「そうだな、分からないから、調べるんだよ。」

「は?」

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