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どうかもう一度 夢の中の君と  作者: ヒカリ ルン
3/4

その子の名は

第二話 「その人の名は」


 夢だと思っていた。

確信はできていない。でも分かる。

あの「夢」に出てきたあの子が。

あの時、夢のような記憶の中で、再開することを誓ったあの少女が。

今、この目の前にたたずんでいる一人の女子高生なのだということが。

そう思った途端に嬉しくなった。

胸が躍った、弾んだ。この世にこんな嬉しいことがあるのかというくらいに嬉しかった。

だって、今までただの独りよがりだと思っていたあの記憶が。

「夢」が。

今、こうして現実になって現れているのだから。

嬉しくなった。……でもその反面、怖くもなった。

なぜなら、確信が持てていない。

あの女子高生が本当に、あの「夢」の中の少女なのか。

勘ではわかっていても確信が持てなければ、この不安を拭い去ることはできないだろう。

確信を持たせたいのなら、その本人に確認をとるのが一番早い。

……でも、どうやって?

素直に、

「あなたは僕の「夢」にでてきたあの女の子ですか?」

と、聞けばいいのか?

それとも

「あなたは僕と昔、ここでまた再開することを誓いました。覚えていますか?」

とでも聞けばいいのか?

そんなの、急に身も知らないのに話しかけてきた頭のおかしな人か、

体狙いの不審者として見られるにきまってるじゃないか。

……僕は、彼女の名前も知らない。顔も。声も。

ただ持っているのは。

確信の得られない、勘だけ。

そう思うと怖くなった。

「また」僕はそうして同じ過ちを繰り返すのか?

中学時代と同じ、あの暗く、残酷な過ちを。

そうするわけにはいかなかった。

新学期。その華々しい門出を、自ら汚すわけにはいかない。

でも……でも……!

選択肢は二つ。

知らん顔をして、見て見ぬふりをして、この場を立ち去るのか。

それとも、

自分の運命を変えるために。過去と同じ過ちを繰り返すことになったとしても、自ら行動し、確信を得るのか。

僕は……。

思い切っていた。彼女の前に出て、言う言葉を考えて。

僕は選んだ。

そう、後者を選んだ。弱い自分を、過去を変えるためにも、

そして、あの「夢」に縛られないためにも。

こうどうしようとした。

……のに。

彼女がこっちに気付いた。目線が合っているのがわかった。

勇気を出せ!ただ一言、今考えた言葉を言うだけだ……!

心ではわかっていた。

でも、動けなかった。

彼女の前に立ち尽くし、うつむいたまま僕は、何も言うことなく流れる時間をそのままに。

彼女を置いて、話しかけることなく走り、駆け出した。

みっともなかった。惨めだと思った。悔しかった。腹が立った。

いままで覚悟を決めてきたのに、彼女の前に立つだけでこんな苦しくなるなんて。

自分の弱さに、涙がにじみさえした。

彼女の視線が、こっちに向いているのが、背中越しにも痛いほど刺さった。

でも振り返ることなく僕はそのまま……。

学路へと、着いた。


 ・        2                ・


 学校の校門前。見慣れた顔の人が数人いる中に、見たこともない、

新しいピカピカの制服に身を包んだ新入生。

学校正面の掲示板には、新しいクラスが貼り出されていた。

二年一組、春野蓮。

どうやら僕は、今年は一組らしい。

ちなみに去年は二組。

新しクラスが書き記されたその中に、見慣れた名前が一つあった。

それは……。

「お~い!蓮~!久しぶりだな!春休み始まって以来だなあこうして顔合わせるのは。まあ言うてもいっつもオンラインゲームしながら通話してたわけだし、そんな新鮮感はねえけどな」

と笑いつつ、どがっ!と肩を組んできたうるさいこいつ。

こいつの名こそ、見慣れた名前。

青木未来だ。

青木とは、小中高と同じ学校で、しかも同じクラス。

さらにさらにご近所さんどうし、ってこともあって、かなり腐れ縁とも言える。

「おいおいどうしちゃったんだよそんな暗い顔して~。なんだあれか?女問題ってやつか?」

と言われ、今まで無視していたのも虚しく吹き出してしまった。

未来、こいつなかなかに変なところでするどいな……。あなどれない。

「別にそんなんじゃないよ。それより、暑苦しい。それに声でかすぎ。新入生ビビってんじゃん。もうちょい加減しろよな」

「あ、悪い悪い」

と未来は微笑しながら言った。

僕は、一人でいたかった。お前の言う通り女性問題で傷ついてるんだから。

それに朝は苦手なこともあり、なるべく一人でいて静かにしていたいたいのに。

なんだってこいつは、良いのか悪いのかわからないタイミングでいつも絡みにくるんだか。

でも、未来が話しかけてくれたおかげで、少しは楽になったかもな。

ちょろすぎ、まあ自分でも思う。

教室についてからはいつも通り、未来と僕とで、先生が来るまでとりとめも無い会話をしていた。

やれ新作のゲームがどうとか。駅前にできたラーメン屋がどうとか。

そんなことを話していると、気になる話題に移った。

「なあ知ってるか?蓮。どうやらこの学校に、新しい転校生がくるらしいぜ?」

「転校生?そんな話、一度も聞かなかったけど……」

「ああそっか、お前あまり人の名前覚えないもんな。前のクラスでも、覚える気さらさらなくて、学園祭の時の作業とか連携とれてなかったし」

「うるさいな、その時は悪かったよ。んで、その名前を覚えることと、転校生と、どう関係があるんだよ?」

「なんでもさ、新クラス、貼りだされてただろ?あそこに運よくほぼ学年すべての名前覚えてるリア充ちゃんがいてさ。俺と一緒に見てたわけ。

んで、そしたらそいつらの会話聞こえちゃって。なんでも、見たことも聞いたこともない名前が一つだけあったって言っててな」

ほぼすべて、なんて中途半端な。

「でも、ほぼ、なんだろ?ならただ単に覚えこぼしてたとか、見落としてたとか……そんなんじゃないのか?」

「いや俺もそう思って聞いてみたんだよ。お前の言ったその通りに。そしたら急にメモ帳開き始めてよ。

みせてもらったらなんとまあ学年全員の名前があいうえお順に書いてあるのなんのって。びっくりしたよ、そんなまめな奴がいたなんてさ」

確かに、そりゃ驚くのも無理はないし、なにより信憑性がぐっと上がった。

「それで見てみたら、その名簿にゃそいつの名前はなかったわけよ。まあその瞬間、あ、こりゃ転校生来るなって思ったわけよ」

なるほど、確かにそれなら確実と言っていいだろう。

でもまあまさか同じクラスなわけあるまいし、事実どうでもいいけど。

「それでな、そいつの名前がまた可愛い名前でよ。ありゃ確実に女だぜ。それに、噂じゃあ外国から帰ってきたばかりの帰国子女って話だ。んで、そいつの名前がな……」

とその時、始業を告げるチャイムとともに、教室の机がガラッと開いた。

「おっとやべ、戻らないと。じゃあまた後でな!」

と言い、未来が戻るとともに先生が入ってきた。

今年度の担任は若い女性の先生だった。

去年はまあかなり老人の先生だったし、まだこっちのほうが人気出そうだなと思いながら先生の話を聞いていると、

「えっと、それからもう一つ、このクラスに転校生が一人来ます。まあ気づいていた人もいるだろうけど、この時期だし仕方のないことよね」

と言った。

転校生。まさかこのクラスだったとは。

そういえば、今日みたあの、「夢」の彼女も、この学校の制服を着ていたな……いやまさかな。

そう思っていた。

でもその思い込みは、すぐに打ち消されることとなる。

入ってきて~。という先生の声とともに入ってきた一人の女の子。

見覚えがあった。いつ見ただろう?記憶が頭の中に溢れ、流れてくる。いや、今日だ。今日見たばかりの、記憶に新しい姿。

月が明るく、淡く照らす黒い空のような綺麗な黒髪。

その黒い髪は背中まですらりとまっすぐ伸びている。

百六十センチ以上はあるであろう長い背丈。

綺麗な淡いブルーの瞳。

透き通るかのような、シルクのような白さの肌。

ああ、そうだ。今朝、あの公園で見た。あの女の子だ。

桜の木の下に建つ橋の上で、髪をかき分けこちらを見つめていたあの、「夢」の女の子。

「初めまして、皆さん。葉月夜空、と言います。小学二年生の頃から、最近に至るまで、アメリカのオハイオ州というところに住んでいました。日本語は話せますが、何上久しぶりなことなので、不自由あると思いますが、どうかよろしくお願いします」


 ……葉月夜空、この一人の女の子との出会いが、これから出会う、心から友達と言える人々の。彼女の、僕の。

誰にも言えない心の叫びや、悩み。抱えている重荷、過去。

そんなものから救い出し、救われる。

そんな未来を生み出すこととなるとは、まだこの時の僕らは、知る由もなかった。




 



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