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どうかもう一度 夢の中の君と  作者: ヒカリ ルン
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それはまるで夢のような話で。

第一話「それはまるで夢のような話で」


「蓮~!今日から学校でしょ~?早く起きないと、お姉ちゃん、先に行っちゃうわよ~」

と、キッチンから、僕を呼ぶ姉の声で、僕は目が覚めた。

まただ。また、あの不思議な夢をみた。

小さな女の子と、僕のような……でも僕じゃない誰かのような。

そんな人が、彼女の身長を優に超す大きさの、桜の木の下にある橋の上で、またここで再会することを誓う夢……。

「そんな約束……したはずないのにな……」

そんなことを思いながら僕は、無意識に携帯を手に取り開いた。

午前八時。携帯に映し出されていたその時間は、僕に、学校に遅刻することをさりげなく、我が物顔で知らせていた。

一瞬にして顔が青くなっていくのが、鏡を見なくても分かった。

「……やっばい!新学期早々ちこくじゃないか!」

急いで学校に行く支度を始めた僕を尻目に、お姉ちゃんは、

「行ってきま~す」

と、呑気に言い放ち、そして家を出ていた。

 

 四月。冬の、身を穿つかのような寒さはとうに薄れ、春の眠気を誘うような暖かさに変わってきていた。

今日は、僕こと、春野蓮が通っている高校、私立夕ヶ丘高校の始業式がある日だ。

朝ご飯は、昨日の夕ご飯の残りで、肉じゃが。そこに、目玉焼きと白米……のはずだったのだが、さすがに遅刻するわけには行かないのでパンに目玉焼きを乗せて、かぶりついただけの粗末な食事になってしまった。

朝ご飯の分はおやつにでも食べないと、地獄を見るよりおそろしいことになるなあ……。なんて思いながら学路についた。

姉さんが怒ると、この世の地獄を見るよりも恐ろしいことになる。

特にご飯のことについては人一倍厳しい。

春休みが終わって、新学期。久しぶりに着る制服は、少しだけ小さくなったように思えた。

春独特の、過ごしやすい、身を優しく羽衣で包み込むかのような暖かさ。僕はこの、春という季節が一番好きで、心のどこかで、一番思い入れの強い季節でもあった。

まあ春なんて季節、花粉症を持っている人にとっては、ただただ辛いだけのものなんだろけど。


 僕の通う高校へは、徒歩で通う。

ここから十五分ほど歩いたところにある、比較的平凡な、どこにでもあるような高校だ。

なぜこの学校を選んだのか。

学校に行く少し前まで寝ていられるから?

いやいや、そんなことはない。

……いや、多少はそれもあるかも。

学校へ行く少し前まで寝ていられるから、前日に夜更かしできるから?

まあそれもある。

でもそれとはまた別の理由がある。

それは、少し小さくはあるが、学路の途中に、自然の目立つ、綺麗で物静かで落ち着いた雰囲気のある公園があるからだ。

昔は、その公園は人通りが少ないこともあり、学校へ行く前の気分転換やリフレッシュのつもりで通っていた。が、今は別の理由があり、通っている。

それは、この公園が、あの「夢」に出てきた風景に酷似しているからだ。

特に僕が一番気になっているスポット。

あの小さな女の子の背は優に超すであろう、大きく、たくましく、綺麗な桜の木。

その桜の木の下で、小川を挟み、たたずむ、木造りの小さくて、でも綺麗なあの橋。

あの夢を見始めてから僕は、その橋の上に立ち、あの夢に出てきた少女をそこに思い立たせ、自分にその夢に酷似した記憶があるかどうかをそこでずっと探り続けていた。

それは今日という日も同じだった。

たとえ学校に遅刻するようなことがあったとしても、そこにもしあの少女が、大人になって、きっときれいになっているあの少女が立っていたとしたら。

僕は、それを逃すわけにはいかなかった。

だから僕は、夕ヶ丘高校を選んだし、この公園に、学校の日も休みの日も通い続けることを誓った。

無駄、だと思う。

そもそもその約束は、あくまでただの夢かもしれないわけで。

夢じゃなかったとしても、その少女と約束をしたのは僕じゃないかもしれないわけで。

夢でもなく、事実であって、約束したのが僕だったとしても。

その少女が僕との約束を覚えているかもわからないし、覚えていたとしてもまず、この街には戻ってこないと言っていたわけだし。

誰でもこんな、確率とかなんとか、そんなもの、ないに等しい賭けなどしないだろう。

でももし、今がその約束を果たす時だとしたら。

ずっと見続けてきた、「夢」がもし、運命を告げているものだとしたら。

そう思うといてもたってもいられなくなっていた。

そして今日も僕は、その公園に通い続ける。


 夢を見た。いや、これは現実であって、夢などではなかった。

僕はここ最近、休みの日も学校の日も、ずっとこの公園に通い続けていた。

それは、とある一人の、少女と出会うために。

その少女の名前も、顔も、何も知らないのに僕は、なんだかいつか会えるような気がして、待ち続けていた。

来ないだろうと思ってた。

だってこんな非現実的なこと、あり得るわけがないと心のどこかで思っていたから。

でも、じゃあ、今この目に映っている景色は何だろうか。

あの「夢」に酷似している、大きくたくましく、でも綺麗な、大きな一本の桜の木。その下にたたずむ、木造りの小さな橋。

そしてその橋の上に、髪をかき分けながら、桜舞う空を眺める、不思議な、綺麗な少女。

会ったこともない。

顔も知らない、名前も知らない。

はずなのに、どこか懐かしくて、涙があふれてくるような。

ああ、知っている、僕はあの少女と出会ったことがある。

分からない。でもわかる。

心のどこかで確信していた。

橋の上に立つあの少女はまるで……。

あの「夢」の、君だった。



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