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スペクターズ  作者: おーじ
6/7

故事〜出会い〜

警備部に戻る道中、朱朔は日が暮れ、街灯のネオンが瞬く夜の街々を車からじっと眺めていた。そして昔のことを思い出していた。



ー10年前ー


「今日から皆の家族になる、橘 朱朔くんです!皆、仲良くしましょうね!」

「は〜い!」


当時8歳の橘 朱朔。みどりその孤児院へ来た初日。みどりその孤児院はクラス分けはされておらず、自宅を改造したような一軒家で、その持ち主が管理をしていた。そこで朱朔は1人の少年と出会った。


「おれ、みぞのはやて!よろしく!」


一際でかい奴が、一際でかい声で、来て間もない朱朔に握手の手を差し伸べていた。鼻に絆創膏を貼り前歯がかけている、いかにも、ガキ大将のような少年だった。その少年の名は溝野(みぞの) (はやて)。朱朔と同じ8歳。初めて同年代の人と会った朱朔にとっては、このでかい奴は最初から恐怖の対象だった。


「ん!」


より一層強調する隼の手に、朱朔は握手の手だとわからずに、どうしたらいいのかまじまじと隼の手を見ていた。そんな朱朔の様子を隼は見て、


「ほれ!よろしくな!」


隼は、朱朔の手を無理やり自分の手と握手させ、満足気だった。



「お〜い!すざく!」


室内で1人、積み木で遊んでいた朱朔の耳に飛び込んできたそのでかい声が響くたび、朱朔は憂鬱の何物でもなかった。


『また、きた…』

「な、なに…」

「サッカー!しようぜ!」

「やったことないんだけど…」

「だいじょうぶ!おれがおしえる!」

「え、うわっ!」


隼は朱朔の腕を掴み強引に外へと誘った。


『…なんでこいつはこんなにおれのとこにくるんだよ…』


朱朔がみどりその孤児院へ来て2週間が経っていた。だいぶ孤児院内のこともわかってきて、友達もたくさんできた…。なんてことはなく、朱朔は人と交わることを避け、いつも1人で遊んでいた。しかし、隼という人物にことあるごとに絡まれる日々。手を引っ張られながら走らされている最中、朱朔はこれまでの事を思い返していた。


「すざく〜!ゲームしようぜ!」

「すざく!これめっちゃうめぇぞ!食べてみ!」

「す〜ざ〜く〜!!」

『今日はサッカーか…やったことないんだけどな…』


「あ、わりぃ!」

「すざく!ボールそっちいったぞ!」

「へ…?…!?」


今日までに溜まっていた疑問とイライラを考えていたら、いつの間にかサッカーは始まっていて、男の子が誤って蹴り飛ばしたボールが朱朔の顔面まできていた。


『当たる…!』


そう思った朱朔の顔面に当たる直前の瞬間、ボールが朱朔には当たらず弾かれた。


ボトッ…


弾かれたサッカーボールは、朱朔の足元を転がった。


「え…」


沈黙が続いた。朱朔はこの光景を見たことがあった。朱朔は怯え、青ざめた。


ダッ…!


「お、おい!」

『あの時と…同じだ…もう…ここにはおれない…』


朱朔は知っていた。自分には他と違う"何か"を持っていることを。また、この"何か"を知られた時、もう2度とそこには戻れないことも。しかし、それはなんなのかはわからず、また、その"何か"によって、取り返しのつかない過ちを犯していた。朱朔は、自らの手で、この他とは違う"何か"で、"実の両親を殺した"のだ。そして、朱朔は、自分が人に怯えられる存在であることが分かっていた。ならば、怯えられる存在なのならば、相手が自分の正体に気づく前に離れることが、朱朔にとっても、相手にとっても、これまで生きた8年間で、親戚の家をたらい回しにされたことから学んだ、1番の最善策であると思っていた。


『また…1人だ…また…ここから…いや、おれのせいできずつく人がいないのはいいことじゃないか…そうだ、おれは1人で生きなきゃ…』


朱朔はみどりその孤児院を走って抜け出した。外はもう夕方で、人も少なかった。走って、走って、走って…誰もいない公園の、中が空洞の貝の形をした遊具の中で1人、小粒の涙で頬を濡らしていた。


「はぁ…はぁ…やっとみつけた…!なにしてんだよ、早く帰ろうぜ」

「え…」


額に汗を滲ませながら、たぶん、走ってきたのだろう、ゼーゼー言いながら座っている朱朔の顔を覗き込み、ニッと笑う少年がいた。隼だった。隼は、泣いている朱朔の事を触れずに、その朱朔が入っている貝の中へ入ってきた。突然来た隼に対して涙も止まり、頭がついていかない。


「こっちにくるな!」

「ちょ、せまいんだからあばれんなよ…!」

「じゃぁ入ってくるな!」


小さい遊具の中で、朱朔は必死に抵抗したが、でかい図体の隼には敵わなかった。そして、隼が大きい声で言った。


「おれの話を聞けって!おまえ、スペクターなんだろ?」

「は…?なにそれ…?」

「なんだ、しらねぇのか?ほれ!」


突然不可解なことを言う隼に、朱朔は呆然として、抵抗する力が弱まった。隼はそういいながら「まぁ見てろって」と言わんばかりの顔で朱朔の隣に座り、隼の右の掌を上へ向けた途端、炎がボッと現れた。


「うわっ!」


その炎は、暗くなったこの世界を暖かなオレンジ色で照らしている。


「すげぇだろ!おれみたいな奴をスペクターって言って、おれは火と水が手からバッと出るんだ!おまえもおれと同じで、人とはちがう力をもってるんだろ?」


手から炎がでたり、スペクターという単語がでてきたり、話がいまいちついていけない朱朔であったが、自分と同じであるとそう言ってくれた隼の言葉だけでも心底嬉しく思った。


「おれと同じ…?」

「そう!おれさ、父さんが無差別殺人事件っていうのにまきこまれて死んで、母さんはおれが6才のときに、いきなりガスがばくはつして死んだんだ」

「そ、そうなんだ…」

『はやても、父さんと母さんいないんだ…』

「でも、おれには、次のたん生日で6才になる弟がいるから兄のおれががんばろうって思えた!そんで、おまえがここに来た日、おれと同じ感じがしたんだ。なにがあったかはわからないけど、おれには弟がいる、でも、すざくはずっと1人で、苦しそうな顔してた。助けたいと思った」

「…」


朱朔は言葉がでなかった。家族のことを、それもこんな言いづらいことを、出会って2週間の朱朔に言うなんて、朱朔には無理だった。また、それを話してくれたことはつまり、朱朔のことを信頼してないとできないことだから、つまり、朱朔を信用していることを指していて朱朔は嬉しかった。これまでの隼の強引な言動が鬱陶しいと思っていたが、朱朔のためにやってくれていたことであることもわかり、最初は苦手でしかなかった隼は、本当は優しくて、頼れる奴なんだと、朱朔は隼を見直した。



「おまえの話きかせてくれないか?」

「…」


初めて言われた言葉だった。話を聞いてくれることは、ここに自分がいて、自分が生きてきたことを証明してくれていることと同じだった。ここにいていい、決して1人じゃない、とかいうどんな励ましの言葉よりも朱朔にとってはとても心地よい言葉だった。でも、朱朔は、そんな優しい隼だから、傷つけたくなかった。だから、


「いまは…まだ、言えない…でも、おれのことはもうほっといて…」

「なんで?」

「なんでも」

「ほっとけねぇ」

「いいから、おれのことはほっとけよ!」

「いやだ!」


大きく怒鳴った朱朔と同じくらい大きい声で隼は言った。


「おれはおまえのかぞくだ!かぞくが苦しそうなのほっとけるわけねぇだろ!」


その言葉を言われた瞬間、朱朔の目から止まっていた大粒の涙が頬をつたった。しかし、ここで負けてはいけない、そう思った朱朔は涙ながらも朱朔の心の内を隼にぶつけた。


「う…うぅ…おれは…もうだれも…うぅっ…きずつけたくないんだっ…!だから…もう…ほっといてくれよっ…!」

「おれはきずつかねぇ!」


隼は涙を流しながら訴える朱朔の不安をかき消す声で、胸を張って言った。


「おまえがむかしどんなことがあったかしらねぇ。でも、おれはつよい!だから、きずついたりしねぇ!」


隼の言葉は、朱朔の真っ暗な心に暖かな光をくれた。そして、朱朔は気づいたのだ。自分を家族と呼んでくれる存在、自分の存在を肯定してくれる人を欲しがっていたことを。


「ほんとに…?」

「うん!」

「けが…するかもしれない…」

「ばんそうこうはればだいじょうぶ!」

「ばんそうこうどころじゃすまないかも…」

「もうわかったから!さっさとかえろうぜ!おれはらへった!」

「う、うん…!」



この一件があり朱朔は、前よりも隼の誘いを断ることはせず、距離を置くこともしなくなった。また、ここから"家族"として接するようになった。後に、みどりその孤児院はスペクターの子どものみが受け入れられているという事実、隼や朱朔と同じ"何か"を持った子どもだけの家族であることを教わる…。


そんな光景を終始見ていた1人の少女、それが、朱朔、隼と同い年の当時8歳の西堂 亜須加だった。

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