素性
「…ん…」
朱朔は目を覚ました。しかし、朱朔が目を開けようとしても、眩しくてうまく開けることができない。
「おやおや〜?目覚めました〜?」
「こ…こは…?」
目が慣れるまでもう少しかかりそうだった。すると声が聞こえた。誰かはわからなかったが、どこにいるかわからない不安さをかき消したく、うまく開かない口で問うた。かすかに白い世界が広がっていたのはなんとなくわかった。だんだんはっきりしてきた。蛍光灯が見えたことから、どうやら天井を見ているようだ。
「いやはや!先ほどは手荒な真似をしてしまい、本当に申し訳ありませぬ☆」
「…。え…っと…」
声の主の方へ、まだ自分の体という意識が薄いが、朱朔はゆっくりと顔を向ける。そこには、謎のデザインの黒いTシャツ(Kill me!!という真っ赤のデカデカしい文字に、真っ赤のドクロが溶けている不気味なデザイン)にこれまた、謎のデザインのズボン(カラフルな毒キノコがたくさん印刷されている)を履いた女の子(?)が座りながらこちらを見てそう言った。
「いや〜まぁ、こうでもしないとあなたを拉致ることできませんのでお許しを☆そんなことより!!もうそろそろ体動きますぅ?」
「え…?ら、らちる…?」
朱朔はゆっくり体を起こした。どうやらベッドに寝ていたみたいだ。辺りを見渡してみると、白を基調としたとても広い部屋だった。女は、白い机に座っていたが、ピョンと軽々しくおりて近づいていた。服もそうだが、ここはどこだという質問には一切答えず、発言の一つ一つに星が飛び語尾を伸ばす、なんとなくテンションについていけない女だと朱朔は思った。
「おっ!動くんじゃないですかぁ!それじゃっ…!」
「へっ…!?」
変なセンスの女はそう言ったとたん、いつの間にか仕込んでいた小型ナイフを一瞬のうちに片手に3本ずつ、両手で計6本もったかと思うと、やっとのことで上体を起こした状態の朱朔に襲いかかってきた。すると、女が片手の3本のナイフを順に投げてきた。そのナイフが朱朔の顔に当たる直前に弾き飛ばされた。
「そぉこなくっちゃ!」
女はそう言いながら、もう片方の手で持っていた3本を両手に瞬時に持ちかえると朱朔に切りかかってきた。しかし、朱朔の真ん前でまたもや、次はその女ごと弾き飛ばされた。
「ぐっ…!」
女は軽く10mは飛ばされ、壁に叩きつけられた。女は壁に衝突した衝撃で片腕が折れたようだ。腕を抑えていた。
「痛っ…さすがで…す…!?」
女が言葉を言い終わる前に、一瞬の速さで女の前に朱朔が立っていた。
「てめぇ…いきなりなにしやがんだ…」
朱朔は座り込む女を睨みつけた。その目は、この世の"人"ではない、恐ろしい"悪魔"の目であった。その目で睨まれた瞬間、女は今までの余裕な表情が一変、寒気と鳥肌とを両方味わい、凍りついたように固まった。
「俺は女に手出すのは気にくわねぇ」
そういって後ろを向いてベッドの方へ向かった。すると、女は抑えていた手にナイフを持ち、後ろから朱朔へ襲いかかった。その途端、朱朔がくるっと女の方へ回り、右手を女の前に突き出した。次の瞬間、女がまたもや弾き飛ばされ、またもや壁に叩きつけられた。
「ぐあっ…!」
「おいおい、そんな見え見えの攻撃すんじゃねぇよ」
「へぇ〜派手にやっちゃってるね〜」
「…!?」
突然、後ろの方から声がした。振り返ると、さっきべっドの上ではわからなかったが、大きいドアがあって、その空いたドアにもたれかかる、およそ180cmの背の高い男性が立っていた。
「なんだぁ…もう来ちゃったんですかぁ」
「おい、お前…」
どうやら女の仲間らしいようだ。その男がそう言いながらゆっくりと歩きながら女の方へ向かった。そして、女の真ん前でピタッと止まった。
「お前…隊長の命令すっぽかしてなにやってんだ!!とっくの昔に集合時間過ぎてんだよこのドアホ!!!」
女に何度も足蹴りを食らわせながらその男は怒鳴った。
「いだっ!いだだ!!ごめんなさいってばぁ!いだいっ!」
「てめぇ、班長もどんだけ待って…」
「朱朔…!?」
「亜須加…!?」
男が言い終わる前に、またもや後ろで声がした。その人物は、西堂亜須加であった。
「な、んで…朱朔がここに…?」
「いきなりこいつに拉致られたんだよ」
「ら、拉致!?」
「君、私の命令を無視したあげく、橘くんに手を出すとは何事かね?」
「隊長!」
朱朔が拉致られたことを説明して驚く亜須加の後ろからまた声がした。朱朔以外の一同全員が驚いた、その後ろに立っていたのは、現警備部隊最高幹部隊長 堀沢 彰であった。
「すみません…」
「まぁ、これで役者が揃ったから今回の件は後日、君たちに処罰を与えることにするよ」
「はい…」
女は子猫のようにおとなしくなり、正直に謝った。
「え…!?き、君たち…!?」
「なんだね?」
「いえ!!なんでもありません!!」
男は堀沢の威圧感にやられ、返す言葉を飲み込んだ。
『あのでかいのが最高幹部…』
朱朔は心の中でそう思った。
堀沢 彰 現警備部隊のNo.1
30代でありながら、2m近い長身とガッチリした体、数多の任務をこなし何度も修羅場を乗り越えてきた強靭な精神を持ち合わせている。男気があり、仲間思いの性格から部下からの信頼度は絶大(顔も相当なイケメン)である。声が心地よく低いダンディーな男だ。
「橘くん?」
「な、なんだよ」
朱朔は自分の名字を呼ばれ一瞬驚き、また、そのなんとも言えないただならぬ威圧感から、少し怖気づいて返事をした。
「私の部下が君に大変失礼な態度をとった。本当に申し訳ない」
「え、ちょっ…!」
何を言ってくるのかわからずビクビクしていた朱朔をよそに、堀沢は朱朔の方を向いて丁寧に深々と頭を下げながら言った。その堀沢のまさかの態度に、朱朔は驚きどうしたらいいかわからず、オロオロとしていた。
「私が謝ることで許してはくれぬか?」
「いや、別にいいですよ!頭を上げてください!」
「本当にすまない」
「ていうか、なんで、俺の名前…?」
「そりゃそうさ!」
また深々と頭を下げていた堀沢が、朱朔の名は当然知っているような、また嬉しそうに言った。
「警備部隊設立以来"最強"の班長、橘 朱朔くんのことなら、この警備部隊の全員が知っているさ!」
そう。橘 朱朔は元警備部隊の一員であり、特殊部隊特別任務班という、スペクターが起こした凶悪犯罪を殲滅する、通称"鬼武隊"の設立以来、"最強の班長"と言われた男だった。
「今日君を呼んだのは、実は君に折り入って頼みがあるんだ。また、ここへ戻ってはきてくれないか?」
「…!」