二股女の好物は苺
『私の好きな食べ物はイチゴです』
小学校のクラス替えの日、一人一人自己紹介をすることに。
教師の思いつきで、好きな食べ物も一言添えなくてはいけなかったので私はそう答えた。
別にイチゴなんて好きじゃないのに。
だってすっぱいじゃん。勿論甘いものもあるが、甘過ぎてもどこか物足りない。少し青臭さも気になるところ。
和食のお店なんかでデザートとして小さいお皿にお上品に乗っていたら食べてあげないこともない。
つまり嫌いでもなければ好きでもないのだ。
それでも前の席の女子もそのまた前の席の女子もみんながみんな、好物にイチゴと答える。
なんかイチゴって答えると可愛いと思っているらしい女子達。
野菜でいうなら私の好物は枝豆なのに。
でも優柔不断な私は空気を読んで無難に好物はイチゴだと答えた。
右ならえ右。
それが私の生き方だ。
胸を張るなって? だって仕方ないじゃん、ヘタレなんだもん。
「私の憧れの人は滝君です」
本日は所属しているサークルの女子会。
女子は恋バナが一番盛り上がる。
先輩の提案で付き合っている人や好きな人(ただし芸能人不可)を一人ずつ発表させられたので、私は滝君の名前を出した。
好きな人は居ません、なんて空気読めないことは流石に言えない。
「楓のタイプって滝君だったんだぁ?」
自分の無難な発表を終え、やれやれと一口ワインを口に含んだ。
そんな時、興味深々とばかりに詰め寄るのは同じサークルの知人。
普段から甘ったるいアニメ声だが、心なしかいつもより更に耳につく甲高さだ。
『楓』と呼び捨てにされたけれど、あまり親しくはない……というか名前を思い出せない、どうしよう。
可愛らしい容姿とブリブリな仕草とあまりにアグレッシブな肉食系女子さに、サークル内の評判はあまり良くないというのは覚えてるんだけど。
「うーん……まぁそうかなぁ」
曖昧に頷きながら、目の前の彼女が滝君派だっただろうかと思案した。
「素敵! ユカも応援してあげる!」
両手を組んで嬉しそうに目を輝かせる彼女の名がユカと判明。
まぁそんなことはどうでも良くて……
「それは遠慮します」
やめて。そういうの本当にやめて。
「えー? なんでぇ?」
そんなの別に滝君が好きじゃないからに決まっている。
「ほら、他にも滝君好きな子いっぱい居るからさ。抜け駆けしちゃ悪いよ」
そう、学内で一二を争うイケメンである滝君を好きな女子は沢山いる。
だからこその滝君だ。
座右の銘は右ならえ右の私だよ。
誰が彼のハートを射止めるかと牽制し合う女子多数の中で、抜け駆けしてモテモテ男に玉砕するとか私の信念に反する。
それに滝君のことは顔が綺麗ということしか知らないのだから、応援されても困るよ。
「二人絶対お似合いなのにぃ」
彼女がどうしてここまで平凡な自分を買い被るのか分からないが、無難に笑ってごまかした。
翌日、飲み放題だからと調子に乗ったツケが回り授業中ずっとグッタリ。
長い90分を過ごし切りようやく昼になったが、とても食堂に向かう気になれずに机に突っ伏したままだ。
「大丈夫?」
情けない背中にかけられた優しい声。
はて? さっきの授業にツレは居なかったはず。
男子の声だが誰だろうかとそろりと顔を上げ、そのまま固まった。
「体調悪そうだね。午後も授業あるの?」
「た、滝君?」
「うん?」
目の前に昨日の話題の人が居る。
さらりと流れる茶髪に通った鼻筋に知性を感じさせる目元。
口元にはいつも笑みを浮かべて王子様然としている。
相変わらずのイケメンっぷりに怯むと同時に普通に話しかけられて困惑する。
え? 私って滝君と友達だったっけ?
いや、違う。違うからこそ、迷うことなく『憧れの人は滝君です』と発表出来たのだ。
「どうしてここに?」
「お昼誘いに来たんだけど、良かったら家まで送ろうか? 俺今日車で来てるから」
車いいなぁ、電車で一時間かけて実家から通ってる身としては羨ましい。
滝君はFXや株で荒稼ぎして、目玉が飛び出るほどの高級車に乗ってるっていう噂は本当なんだろうか。それとも家が桁違いの金持ちって話が真実かな?
って、そんなことはどうでもいい!
「なんで滝君がお昼誘いに来るの!?」
二日酔いも吹っ飛んだ間抜けな声で叫ぶ。
そんな私の様子にくすりと笑い、前の席へと腰掛けた。
仲良く並んでお喋りなんて身を滅ぼしそうな状況に青ざめ慌てて周囲を見回すが、昼休みの講義室になど誰も用はないらしく自分達以外は居ないようだ。
二人きりというのもそれはそれで不味い気もするが、今は置いておこう。
私の問いに何故か彼は恥ずかしそうに目を伏せた。
「その、楓ちゃんが、俺を好きだって、噂で聞いて……」
ああ、なるほどね。
その言葉を聞いて納得する。
しかしまぁニキビ知らずのスベスベの頬をほんのり赤く染め、長いまつ毛を震わせている様は女の子顔負けに可愛らしい。
イケメンで可愛らしいとか反則だなぁ。
「それで俺、嬉しくて、思わず馴れ馴れしく声かけちゃったけど……嫌だった?」
チロリと伺うような上目遣いにあざとさを感じないこともないが、それどころではない。
ちょっと待って、“嬉しくて”って何?
てっきり学食でご飯を食べがてら「俺に惚れたら火傷するぜ」的なお断りを入れられるものだとばかり思っていた。
「あ、いや、なんていうか、ただ驚いて……」
「俺も驚いたんだよ。てっきり楓ちゃんは芳井と付き合ってると思ってたから」
「ええ!? 芳井君と!?」
なんとまぁ頓珍漢な勘違いをするものだ。
「芳井君は小学校からの顔見知りというか、それだけですハイ」
彼とは一応幼馴染という関係になるのかもしれないが、なんだか私がそれを名乗るのはおこがましい気がする。
だって小中と会話した記憶はほんの僅か。
野球部で活躍する彼は普段から寡黙であまり喋る人ではなかったので、まぁそんなものではなかろうか。
野球の名門校からの誘いを受けていると聞いていたので、高校でも芳井君の顔があった時は驚いてしまった。
だってうちの高校、野球部は毎年地区大会突破して県大会で一回戦負けする微妙なレベルなのだ。
高校では志望大学が同じということで少しは会話も増えたが、それだって大したものではない。
せいぜい名前は憶えて貰っている程度。
最近は同じ地元なので行き帰りに時間が合えば一緒に行動することもある。
お昼もたまに一緒に食べたりするので、もしかしたら友人だと名乗っても図々しいとは思われないかもしれないな……いや、やっぱりやめておこう。
芳井君本人は気にしなくとも、彼のファンの女子は良い気はしないだろうし。
そう、芳井君は目の前の滝君と人気を二分する我が大学きってのモテモテイケメンだ。
滝君が爽やか王子様系なら芳井君はストイックな騎士系。
昨日の女子会のような状況になった時、今まで好みのタイプは芳井君だと答えていた。
しかし最近頻繁に話しをするようになった彼の存在をそのように利用するのは悪い気がしてきた。
それになんだか好みが芳井君と言っておいて、彼と親しげに喋っていれば積極的に狙っているようではないか。
そんな気まずさもあり昨日は初めて芳井君ではなく、滝君がタイプだと答えたのだ。
ああ、そういえば昨日の彼女は芳井君派だった。
だから鞍替えした私に対してライバルが減って嬉しかったのかもしれない。
いや、私みたいなのはライバルとカウントされないかもな。
「顔見知り……そっか!」
にぱっと花が咲いたような笑顔の滝君。
「前に飲み会で俺飲み過ぎて楓ちゃんに介抱して貰ったことあったでしょ?」
「ああ、うん」
あったような、ないような。
右ならえ右の私は飲み会を断れずに結構な頻度で参加する。
だから誰かを介抱するのは日常化しているし、そんな時は自分も酔ってることがほとんどだから記憶が朧げだ。
「しつこい女の先輩に狙われて、しこたま飲まされて不覚にも潰れちゃってさ。その先輩も引くほどゲーゲー吐いてたのに、楓ちゃんは吐瀉物付くのも構わず俺を横にしてくれて、水も飲ませてくれたよね」
「それは、常識では?」
「うん、でもなんでか俺のことウンコもしない生き物と思っている女の子が多くてね。吐いてる俺見て全員ドン引き。なのに楓ちゃんは慣れた手付きで当たり前みたいに介抱してくれたよね。治った後はまた色んな女の子が群がったのに、楓ちゃんはそんなの無かったみたいな顔して帰っちゃうし」
うーん、全然思い出せないや。
多い時には三人くらい介抱する時もあるし。もう介抱係りとして飲み会に呼ばれると言っても過言ではない。
「それ以来、ずっと楓ちゃんが気になってたんだ。でも芳井が居るから叶わない恋だと諦めようと思ったんだけど」
「ええええ!?」
んな馬鹿なっ!
この王子様が介抱係りの私に恋だと?
「だから、俺のことを想ってるって聞かされて、物凄く嬉しかった。たとえ人伝でもね」
「え、あの、ええっと」
右ならえ右。
優柔不断で自分の意思の薄い私は、こんな時に言葉が上手く出ない。
『ごめんなさい、誤解なんです』と言えばいいだけなのに。
なんだか物凄く言いにくい。
だって私から好意を暴露したことになってるんでしょ?
それを断るとか何様だ私。
『ただ、あなたの名前を利用させて貰ってただけなんです』と告げられるほどの度胸が私にはない。
つくづく自分で自分の性格が嫌になる。
「凄く凄く、大事にするから」
あたふたしている内に話が纏まってきた。
どうしようどうしよう。
「ずっと一緒に居ようね」
「…………………………………あい」
うん、もういいや。
頭の中が真っ白で何も考えられない。
滝君が右向いてるから私も右向いておこう。
この意志薄弱な判断が大きな間違いであったと気付くのはすぐだった。
******
滝君と付き合い始めて三日が経った。
彼はまめに電話やメールをくれ、大学への送り迎えをしてくれたりと甲斐甲斐しい。
今度の休みには買い物に出掛ける約束もしている。
流されに流された結果ながらも私だって普通の女だ。
こんなに恰好いい人に大事にされて嬉しくないわけがない。
なんだかよく分からない事態ではあるが、この棚ぼたに内心浮かれてもいた。
だが、それには当然代償もある。
彼に想いを寄せていた女の子から呼び出されること五回、公衆の面前でいきなり罵られること三回。
どれもこれも隣に滝君が居たのでスマートに対処してくれ事なきを得たが。
この三日、友達もどこかよそよそしくなった気がする。
この状況はやはり私の信念に反するようだ。
楽しくはあったが、やはりきちんと謝罪してこの関係を清算するのがベストであろう。きっとまだ間に合うはず。
滝君の講義が終わるのを一人ベンチで待ちながら、そんな決意をしている時であった。
「楓……」
かけられた声に顔を上げる。
「あれ? 芳井君、久しぶりだね」
滝君でなかったことに多少驚き笑顔を作る。
彼の表情は俯いて見えにくいが、なんだか元気がない気がする。
「最近教習所に通ったり車買うのにバイトばかりしていたから」
「へぇ車か。いいね」
ここ三日滝君に車で送り迎えして貰ってその便利さが身に染みた。
私も免許取ろうかな。
でも車買うお金なんて全然貯まってないからなぁ。
「それで、今度の休みにイチゴ狩りへドライブに行かないか? そこの農園は隣でイチゴ専門のスイーツの店も出していて評判らしい。イチゴ好きだったろ?」
おおっ! どうした芳井君。
なんだか今日は偉く弁舌だ。
イチゴ狩りかぁ……惹かれない。
だってイチゴしかないんでしょ?
しかもイチゴ専門スイーツ店って、たらふくイチゴ食べた後にまたお金出してイチゴ食べるとか正気の沙汰とは思えない。
「うーん、それって参加メンバーは誰?」
芳井君が声をかけるってことは高校メンバーで集まるんだよね。
久々に高校時代の友人と会うのは楽しそうだ。
「もちろん、俺達二人きりだ」
「え……」
それって、楽しい? いや絶対楽しくないでしょ。
高校の時のクラスは下の名前で呼び合うほど皆仲が良くて和気あいあいとしていたが、芳井君とは特別に仲良くしていた訳でもなし。
寧ろ畏れ多くて芳井君を名前で呼べてない時点で仲良くないのはお察しだ。
寡黙な彼と二人きりで何を話せというのか。プレッシャーが半端ない。
「あー……えーっと……」
どう断ろうかと口籠っていたが、ふと思い出す。
そうだ、今度の休みは先約があったではないか。
「ゴメン芳井君! その日は滝君と買い物の約束があったんだ」
「滝……」
芳井君の声が強張ったように聴こえた。
「大事な日だから……本当にゴメンね」
滝君に本当のことを話して謝るならこの日しかないだろう。
優しい滝君のことだから怒ったりしないだろうが、やはり緊張する。
こんな優柔不断な私は寧ろお断りだと言われるだろうか。
「……最近、その滝って奴と仲良いんだな」
「んー、そうかも」
近々別れ話を切り出す身としては、付き合っていることをわざわざ広めたくはないので曖昧に濁す。
「……楓がそいつと浮気してるって噂を聞いたが、俺は信じてないから」
「浮気っ!?」
まさか滝君がそんなことを……とは言えない。
何せ三日の付き合いなのだから。
でも少なくともこの三日間はとても大切にしてくれていたので驚きだ。
しかも口振りからしてどうやら私の方が浮気相手で本命は別に居るらしい。
「デマだと分かってはいるが、あまり良い気はしない。二人きりで会うのは止めて欲しい」
「うん、そうかもね」
真剣な眼差しで言い募る芳井君。
滝君が私に何を求めて告白してきたのか分からないが、こんな関係が良くないことは分かる。
ここ三日の友人達のよそよそしさの原因が分かり力強く頷いた。
そんな私を見て芳井君は嬉しそうに微笑んだ。意外と友情に熱い人だったんだね、ありがとう。
「良かった。信じていないと言ったが内心ビクついていたんだ。俺は楓に彼氏らしいことを何も出来ていなかったから」
「…………ん? 」
聞き間違えたのだろうが、今芳井君から不思議な単語が飛び出した気がする。
え? 枯れ師らしいこと? それどんな職人? 焼き芋の時落ち葉集める名人的な?
「付き合い始めた時は互いに部活や受験で忙しかったし、今はどう距離を縮めればいいのか分からなかったんだ。俺は色恋にはとことん不器用らしい」
「付き合い……色恋……」
「楓はそんな俺を受け入れてくれているなんて慢心していたとようやく気付いた。キスどころか緊張して手も繋げない俺では、滝と浮気されても仕方ないと思ってしまった」
「ちょ、ちょっと待って」
ペラペラと熱く語るレアな芳井君に慌ててストップを入れる。
「私達っていつから付き合ってるんだっけ?」
何かの間違えだよね。
なんか勘違いして付き合ってる的なニュアンスに聞こえただけだよね。
どうか何言っているんだと笑ってくれ。
そう願う私に芳井君はふっと微笑んだ。
ああ、良かった。恥ずかしい私の勘違いですよねサーセン!
「心配しなくてもちゃんと覚えているさ。修学旅行のあの夜からだ」
ノォォォォ!!
私の聞きたかったのはそんな答えじゃなぁぁぁい!!
修学旅行のあの夜ってなんだっけ!?
なんにもなかったよ修学旅行。楽しく騒いで平穏に帰って来ただけだよ?
「小学生の頃から両想いなのは分かってたんだ。俺のことを好きな女子の中に楓の名前もあると聞いたときは凄く嬉しかった」
なんたることだ。
滝君と同じパターンではないか。
「告白の一つも出来ないヘタレな俺なのに楓はずっと俺を好きだと公言してくれてたよな」
うぉぉ本人に筒抜けですよ!
公言なんてしたことないよ!
どうなってんだ、絶対喋らないから好きな男子言いっこしようとか可愛く言ってたのに!
女子の“絶対内緒”は内緒に出来ないことを改めて実感した。
適当に答えていた自分が一番悪いのだが、それでも過去の歴代クラスメイトのあの子やあの子やあの子が恨めしい。
「それで高校の修学旅行のあの夜……みんなの前でようやく、誓えた」
恥ずかしそうに頬を染めながらもたどたどしく続ける説明に目眩がした。
どうやら修学旅行の夜にクラスの男女で集まった時に芳井君は私に告白したらしい。
そんな記憶は一切ございませんが。
いや、ちょっと待って。
確かあの時芳井君を修学旅行で浮かれたクラスの女子ほぼ全員で囲っていたんだ。
そして、この中ならどの女子を選ぶかとか誰かが質問していた気がする。
それで彼にご指名されたのがなんと私だった。
そんな凄いことがあったのならもう少し印象に残っていても良いはずだけど、記憶を辿るまですっかり忘れていた。
ああ、そうだ。
あの時はハーレム状態の芳井君を妬む男子の多くも注目していたから、男子の誰からも恨みを買いそうにない私が選ばれたんだと思って納得したんだ。
だって当時の女子のリーダー的存在の子がそう言って笑っていたから。
実際にその話はそれで終わったし。
え? でもそれじゃあ、芳井君の中では高校時代から私は彼と付き合ってたことになってるの?
「芳井君!あ、あのっ」
「楓ちゃん!」
困惑の渦に溺れながらもなんとかこのとんでもない誤解を解こうと勇気を振り絞り声を出した時、それを遮るように呼びかける第三者の声。
「ああ、滝君」
ごめんっ今忙しいから————と考えて、気付いてしまった。
私って今、この人達に二股かけてる状態じゃね? と。
あれ? どうしよ。ダメじゃん! 普通に二股だけでもあり得ないけど、この二人はツートップイケメン。私血祭りじゃん! 詰んでるじゃん!
「ごめんね、講義が長引いて。じゃあ帰ろう」
にっこり爽やかスマイルの滝君と、彼の登場で眉間に深い皺を刻む芳井君。
不機嫌オーラを一気に吹き出している芳井君も怖いが、隣に居る彼をガン無視で私の肩をにこやかに引き寄せる滝君も怖い。
「俺の彼女に馴れ馴れしく触れるな」
うわぁぁ! 言っちゃったよこの人!
大量の汗を吹き出す私の手を取り引っ張る芳井君。
「は? 何言ってんの? 俺の彼女だし」
流石に笑みを消した滝君は、重心が芳井君側へ傾いた私の反対の手を掴んで引っ張る。
両手にイケメン。
これアレだ。私の為に争わないでーー! とかってやつだ。
でもそれって言わば優柔不断二股女の台詞だよね、と友人と笑って語ったっけ。
そう、まさに今のアタイだよっ!
「楓ちゃんは君のことただの顔見知りって言ってたよ」
「楓はもうお前とは会いたくないと言っていたぞ」
「……楓ちゃんは、ずっと俺と一緒に居てくれるって誓った」
「……楓とは小学生の頃から惹かれあって高校の時には付き合っていた」
睨み合いを続けていた二人の視線が、間に挟まれていた私へと注がれる。
「「一体どういうこと?」」
最悪の仲だと思っていた二人の声が揃った。
うん、とりあえず手を離して頂けますかな?
じゃないとホラ、土下座出来ないからさ。
本当に、本当にすみませんー!!
悪気はなかったんですぅぅぅ!!!
流されまくった結果の思わぬ漂流地点に、私は汗と涙と鼻水を垂らしながら許しを乞う羽目になったのだった。
ただ彼らが許してくれることはなかった。
許してくれない、とは罵られ捨てられるという意味合いではない。
むしろそれなら問題解決万々歳だ。
ではどうなったのかって?
二人は共謀して共有したのだ、私を。
どういう意味かって?
だから共謀して共有してるんだよ、私を。
大丈夫大丈夫、暴力とかは振るわれてないし、それどころかかなりの高待遇だよ。
愛で溺れて死んでしまいそうなほど。
ただ……二人から一生逃げられそうにない、という事だけは伝えておこう。
多分まだ三股か四股くらいしてます。
全部無意識に(笑)
そんな彼女だから彼らの束縛もこれから凄いことになるでしょうが、書くのに疲れたので中途半端なところで終わらせてみました。