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夏の空の下で僕達は笑う  作者: ヨハン
『彼方』
8/15

空弥の気持ち

 あれから数日。俺は物思いに耽る日々が続いた。湊とはそれなりに話たりもしたが、やはり集中出来ない。

 少女の姿をした神によって告げられた衝撃の言葉が何度も頭の中で繰り返される。

 

『夜風澪は今……『彼方』にいる』


 彼方--この世とは別にある神々の世界。この世とは何もかも違う、俺らには想像も出来ないような世界。少女の姿をした神……リコはそう言っていた。

 そこには姉ちゃんがいる。リコが言うんだから、きっと間違いはないだろう。

 姉ちゃんが生きている。俺はそれが事実であることを信じ続けている。


「少し散歩でもしてくるか」


 あまり色々と考えすぎるのも体に毒だと思い、俺は外に出る。

 空は鉛色で、太陽の光を遮る雲が一面に広がっていた。今にもこちらへ落ちてきそうな曇天は、きっともうすぐ雫を落とすだろう。


「降られる前には帰らないとな」


 散歩のコースは決まっていない。

 俺は湿った空気の中、気まぐれに身を任せ歩いていた。

 しばらく歩くと、見慣れた姿が前方からやってきた。


「湊?」


「あ、空弥さん。お散歩ですか?」


「あぁ、まぁな。湊もか?」


「はい、この子と一緒に」


 湊はそう言って、彼女の傍でお座りをしている犬の頭を撫でた。確か名前は白夜だったか。七年前はまだ小さかったが、今はだいぶ成長している。


「久しぶりだな、白夜」


「わんっ」


 俺が頭を撫でると元気に返事をしてくれた。可愛いな。


「空弥さん、白夜のこと……」


「覚えてる……というか思い出したというか」


「そうですか……良かったね、白夜」


「くぅん」


 白夜は可愛らしく鳴いた。






 俺と湊は近くの公園に来ていた。

 ベンチに座ると、湊が口を開いた。


「空弥さんって、好きな人とかいるんですか?」


「……急な質問だな。ま、内緒だ」


「そうですかー……僕は白夜が好きです」


「……まぁ、湊がいいならそれでいいんじゃないか。種族が違ってもきっと分かり合えるかもしれないし」


「あはは、真に受けないでくださいよ」


 湊は笑って俺に言った。まぁ、冗談なことはちゃんと分かっていたが。


「それで……」


「はい……?」


 俺はもう一つ分かっていた。湊はきっと、こんなことを聞きたいのではないと。


「こんなこと、聞きたいわけじゃないんだろ?」


「やっぱり……分かってましたか?」


「あぁ」


「……お姉さんのことで、聞きたいことがあったんです」


 あぁ、やっぱりか。

 俺が最初に感じたのはそんな感情だ。

 あの日依頼、俺はずっと姉ちゃんのことを考えていた。それは湊にも伝わっていたらしい。


「……」


「空弥さん、これからどうするつもりなんですか?」


「……」


 すぐには答えられない。

 確かにずっと俺は姉ちゃんのことを考えていたが、何かをしようと思ったりはしていない。

 姉さんは『彼方』にいる。それが分かったとはいえ、何をしていいかは分からない。


「……最近、空弥さんはどこか上の空でしたから。やっぱり、お姉さんのこと考えてたんですね……」


「まぁ……な」


「えと……その……僕にも何か出来ることがあれば言ってくださいね」


 湊は苦笑しながらそう言った。

 出来ることなんて、きっと無い。たとえあったとしても、俺はきっと自分一人で何とかしようとするだろう。彼女はそれを分かって言っている。

 分かっているなら早い。そうだ。湊に出来ることも、させることも何もない。

 俺は一人で解決する。誰にも迷惑をかけずに。

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