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夏の空の下で僕達は笑う  作者: ヨハン
始まりの初夏
6/15

御神 涼香

姉の親友登場

「ふぁぁ……」


 欠伸(あくび)が出る。今日は朝からなんだか眠い。

 さっき、携帯の着信音が鳴り(みなと)からメールが来た。今日は気分が悪く休むらしい。

 というわけで、久々に暇な時間を過ごすことになりそうだった。

 湊とは出会ってまだ一週間も経っていないが、随分と時間が経った気がしてならなかった。故に今日はなんだか物足りない。


「暇だ……」


 特に何をするでもなく、ただベッドに寝転がっていた。

 すると、保健室のドアが開く音が聞こえた。その後ドアが閉じる音が聞こえ、スリッパと床が擦れる音が聞こえてくる。

 閉め切っていたカーテンが開かれた。


「空弥、久しぶり」


「……涼香さん」


 軽く手を振って挨拶をする女性の名前が、俺の口から漏れた。

 御神 涼香(みかみ すずか)、時々保健室に訪れる女性だ。

 長い黒髪が特徴的で、穏やかな雰囲気と物腰。そしてその容姿から、時々やってくる大和撫子のような美人としてこの学校でも有名になっている。本当は医者を目指している大学生であり、この学校の卒業生。

 俺はこの人を昔から知っていた。

 元々別の街に住んでいた俺や姉ちゃんは、夏休みになると父親の実家があるこの街に来ていた。その時姉ちゃんに出来た友達が涼香さんだ。

 涼香さんと姉ちゃんは凄く仲が良く、離れている間も手紙でやり取りしていたらしい。

 両親が亡くなってこちらに住むようになってからは、時々遊び相手になってくれたり、色々と気遣ってくれたりした人でもあった。

 そして姉ちゃんが失踪した時、俺と同じくらい必死になって姉ちゃんを探してくれた。

 それからというもの、姉ちゃんや両親を失ってしまった俺に対してかなり過保護に接してくる近所のお姉さん的存在になっていった。


「一週間ぶりくらいだけど、今日も相変わらず……かしら?」


「まぁそんなところ」


 俺の様子を見て涼香さんは呟いた。

 この人は俺がいつも一人で暇そうに過ごしている姿を見てきているからな。

 

「ホント、いつでもお一人様なのね……」


「ほっとけ、涼香さんには関係ない」


 呆れたように言った涼香さんに俺はぶっきらぼうに言った。


「嫌よ」


 即答。


「はぁ……」


 この人とは会う度にこんなやり取りをしている。

 とはいっても俺が一方的に避けている形になるだけだが。


「ていうか酷くない? 久しぶりに会ったのに放っておけなんて」


「会うこと望んだ覚えがねぇんだけど」


「アンタねぇ……」


「いつも涼香さんが勝手に来てるだけだし」


「う、うるさいわねっ。誰も来たくて来てるんじゃ……」


「じゃあ来なくていいと思うけど?」

 

「うっ……だ、大体! 空弥はなんでいつも私を邪険に扱うのよ?」


 怒って少し赤くなった頬を膨らませ不満げに涼香さんが言う。

 邪険に扱われると結構子供っぽい一面を見せるのもお決まりだった。

 

「逆に、涼香さんはなんで俺に構うんだよ……?」


「いつも言ってるでしょ。放っておけないからよ」


 きっぱりと断言される。  

 

「毎回思うけど、俺いつもここで寝てるだけだし」


「それが放っておけないのよ。思春期で遊びたい盛りの高校生男子が毎日こんな保健室に引き篭もってるなんて信じられないわ」


「信じられなくても普通に事実――」


「だから余計に駄目なの! 友達の一人でもいればまた変わってくるんでしょうけど……」


 困ったような顔で説教を続ける涼香さん。

 この人はいつもこんな感じで、無理にでも俺に関わってくる人だった。

 両親や姉ちゃんのことに触れず、あくまで一人の高校生としての常識的行動を指摘する形で説教してくるのはこの人らしいと思う。

 俺は時々、涼香さんには姉ちゃんの面影を重ねてしまうことがある。だからこそ余計に関わりにくく、関わりたいと思えない。この人と関わると姉ちゃんのことばかり思い出してしまいそうだった。


「とりあえず、一旦第一保健室(あっち)にも行ってくるから」


「はいはい」


 そう言って涼香さんは第二保健室を出て第一保健室へ向かった。

 涼香さんは優しすぎてなんだか苦手だった。姉ちゃんがいなくなってから、俺を本当の弟のように可愛がってくれる人だった。自分だって親友を失って辛いだろうに。そういう面では感謝してもしきれないと思う。

 軽くいじめに遭った時期もあったが、涼香さんが庇ってくれたりもした。それでも俺は冷めた態度で接し続けていた。それにもかかわらず、ずっと優しく接してくれる涼香さんは良い意味で異常だと思う。

 

「ねぇ、空弥。第一保健室にいつもいる子がいなかったんだけど……なんで?」


「……あ」


 第一保健室に通っているのって湊だったなそういえば。


「何か知ってるの?」


「そういえば今日は気分が悪いから休むとかメールが……」


「へぇ……そうなんだぁ……」


「ニヤニヤしてどうしたんだ? 気持ち悪い……」


「空弥と湊が……そういう関係なのねぇ……ふふっ。な~んだ、友達いたんじゃないの~」


 涼香さんが微笑む。そして猫なで声でからかってくる。


「なんだ、湊のこと知ってたのか」


「よく両親の営んでる病院に来てたから、それに個人的に私が相談相手になることも多かったし」


「へぇ」


 ちょっと意外だった。

 人間どこで繋がってるか分からないものだと感心する。


「あの子、神隠しに遭った後から精神的に疲れてたみたいでね。最近は落ち着いたらしいけど、時々会いに来てたのよ」


「涼香さんも大変だな」


「心配な後輩が二人もこの学校にいるからね。でも、私は好きでやってるからいいのよ」


 本当にこの人は真性のお人好しであり世話焼きだと思う。

 ちょっとからかってみようかな。


「でもさっき、来たくて来てるんじゃない的なこと言ってなかったか?」


「あっ……う、うるさい! 心配で来て悪いか!」


 顔を真っ赤にして叫ぶ涼香さん。性格的にこの人はからかいやすい。


「いや、別に」


「もう、空弥は昔からドライなのよ」


「よく言われる」


「まぁそれが空弥らしいっちゃらしいけど……」


「そうかもな」


 ドライなのは分かっているが、何かに対してそこまで執着出来る性格には一生なれないと思っている。


「だから友達が湊しかいないのかな……というか湊もあんまり人と関わる子じゃないからなぁ……似た者同士なのね、アンタ達」


「ふーん……まぁ、そんな気はなんとなくしてたけど」


 湊は俺と似ている気がする。それは最近よく思うことだ。


「ま、湊とちゃんと仲良くね。あと、変なことしちゃ駄目だからね」


「変なことって?」


「え、あ……それは……そのぅ……」


「あー、言わなくていい」


 もじもじしながら何かを答えようとしていた涼香さんを止める。やっぱりからかいやすい。


「とにかく、湊は不思議な子だけどいい子だから」


「ふーん……」


 不思議な子、ねぇ。

 俺の目にはそんな風には見えなかった。恥ずかしがったり怖がりだったり、普通の女の子のように思える。

 俺が色々と考えていると涼香さんは真剣な顔で言った。


「あの子と関わる以上、もしかしたら辛い思いをするかもしれない……そんな気がするの。それでも、ちゃんと友達でいる覚悟がある?」


 辛い思い? 覚悟? 涼香さんの言葉の意味を理解しかねる。正直意味が分からない。


「……」


「空弥、多分だけど……空弥と湊が出会ったのは偶然じゃないと思うの」


 俺はあの日のことを思い出す。確かに、そう言われてみればそうかもしれない。謎の少女、リコが残した言葉がきっかけで湊と出会った。

 

「何か思い当たることがあるなら、話してみなさい」


「あ、あぁ」


 俺は話した。

 謎の少女が突然保健室に現れ、不思議な言動を連発して、最後に助言らしき言葉を残したこと。

 追いかけたら消えていたこと。

 言うとおりにしたら湊が屋上にいて、男子生徒に絡まれていたこと。

 それから湊と話して、湊が第二保健室へ登校するようになったことを。

 全てを聞き終えた涼香さんは信じられない、と言いたげな顔をしていた。


「空弥……アンタ……」


「どうかしました?」


「……いや、なんでもない。私、そろそろ大学行くね。じゃ」


「あ、うん」


 最後の態度が少し気になる。

 涼香さんは保健室を去る間際、こちらを向いて言った。


「空弥……頑張ってね」


「?」


 涼香さんの態度の変化が少し気になったが、結局その理由を知ることが今は出来なかった。

 そんな時、携帯が鳴る。電話だった。

 俺は携帯を見た。湊からだった。俺は電話に出る。


「もしもし? どうした?」


『空弥さん……僕は今、風の丘にいます……助けて……ください……――ッ』


「湊!? 湊!!」


 電話が切れた。何があったかなんて考えている暇はない。

 俺は保健室を飛び出した。そして、学校の近くにある丘『風の丘』へ向けて走り出した。

春休みが終わるまでは毎日更新目指して頑張りたいです

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