第1章 Eの章 Eの真実 第4話 【会話——純の「スタンス」】
数日後、Eは偶然、純と廊下で会った。
純は、いつもの「観察者」の目でEを見ていた。
Eは思い切って声をかけた。
「あの……メールのことなんですけど……」
純は、少し間を置いてから言った。
「ああ、うん。」
沈黙。でも、Eはなぜか、その沈黙が嫌じゃなかった。
「あの日、非常階段で誰かを見ましたか?」
Eは直接聞いた。
純は、しばらくEを見つめていた。そして、静かに言った。
「私はね、いつも見てるよ。いろんな人を。」
「……拓さんと瞳さんも?」
純は、少しだけ微笑んだ。でも、その微笑みは、肯定でも否定でもなかった。
「私が見てるものは、私だけのもの。あなたが見てるものは、あなただけのもの。」
「それって……」
「あなたは、何を見たの?」
純の問いかけは、とてもシンプルだった。
Eは、その瞬間、自分が「見たもの」を言葉にしようとした。
「私は……あの日、非常階段に誰かがいるのを見ました。二人。それと、それを見ている人を——」
「そう。」
純は、それだけ言った。
「それが、あなたの見たものだね。」
Eは、混乱した。
「でも、それが本当に拓さんと瞳さんだったのか、わからないんです。遠すぎて、顔も見えなくて……確証がなくて……」
純は、Eの言葉を遮るように言った。
「確証って、何?」
「え?」
「誰かにとっての真実と、あなたにとっての真実は、違うこともある。でも、あなたが見たこと、あなたが感じたことは、あなたの中で確かにあったことだよ。」
Eは、その言葉の意味を、すぐには飲み込めなかった。
でも、純は続けた。
「私はね、あなたに『こうしろ』とは言わない。ただ、あなたが正しいと思うことをすればいいと思う。」
「正しいと思うこと……ですか?」
「うん。ずっと見てきてわかったんだけど、正しさって人それぞれなんだよね。でも、それを『わからないから』って何もしないでいると、後で後悔することがある。」
純の目が、少しだけ遠くを見た。
「私は、後悔したくなくて、ずっと見てきた。そして、見たことを書いてきた。それが、私の正しさ。」
「あなたは、どうしたいの?」




