第1章 Eの章 Eの真実 第2話 【数日後、広がる噂】
その週の終わり、社内で何かが変わり始めた。
昼休みの喫煙所。
誰かが「非常階段で……」と囁く。廊下ですれ違う人の視線が、交錯する。拓と瞳を見る目が、ほんの少し変わった気がする。
Eはその空気を感じ取っていた。
「拓さんと瞳さん、不倫してるらしいよ」
「非常階段で抱き合ってるのを見た人がいるんだって」
噂は確かに広がっていた。
でも、誰も「見た」とはっきり言わない。誰が言い出したのかもわからない。ただ、空気だけが変わっていく。
Eの心臓が止まった。
非常階段——
あの日、自分が見たのは、もしかして——?
(でも、遠すぎて顔は見えなかった。確証はない。あの二人が拓さんと瞳さんだとは限らない……)
もう一つ、気になることがあった。
あの日、非常階段を見ていた「もう一人の人」——あれは誰だったんだ?
(あの人も、何かを見ていた。でも、あの人は何を見て、どう思ったんだろう……)
(もしかしたら——あの人も、私と同じように、ただ「見てしまった」だけなのかもしれない)
(それとも——)
Eは混乱した。
(もしあの二人が拓さんと瞳さんなら、この噂は本当だ。でも、もし違う人だったら? 私が見たのは、まったく関係ない人たちだったら?)
(でも、あの場所で、あの時間に、二人がいたのは確かだ。それを見ている人もいた。その「事実」だけは、確かにある……)




