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【彼女の計画_外伝】 影たちの物語~Eの章~ 本日続編再開~3/29完結 「彼らもまた、見ていた。」  作者: Taku


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3/9

第1章 Eの章 Eの記録 第3話「目撃/メモ/その後」

※本作は全9部作『彼女の計画』シリーズの一篇です。

 全3話完結。いよいよ最終話です。


第1話:中学の親友を助けられなかった「見ていただけ」の少女。

第2話:恩人・瞳とのすれ違い、そして募る複雑な思い。


最終話となる第3話では――

あの「非常階段」での目撃、そして彼女の人生で初めての「行動」が描かれます。

最後までお付き合いください。

【6. 目撃】


渡り廊下からは、非常階段が見える。


でも、その日、Eが見たのは非常階段ではなかった。


その少し手前。別館の窓際に、人影があった。


誰かが、非常階段の方をじっと見ている。


(……何を見ているんだろう?)


Eは自然とその人物の視線の先を追った。


非常階段に、男女がいた。男と女。少し距離が近い。抱き合っているようにも見える。


(え……)


Eは慌てて目をそらした。見てはいけないものを見てしまった気がした。


でも、もう一度、窓際の人物を見た。その人物は、まだ非常階段を見つめている。じっと、動かずに。


(この人は、あの二人を見ている……?)


Eはその場を離れた。誰にも言わなかった。でも、心の奥に、その光景が焼き付いた。


非常階段の男女。

そして、それを見つめる「観察者」。


---


【7. 噂と確信】


そののち、社内で噂が流れ始めた。


「拓さんと瞳さん、不倫してるらしいよ」

「非常階段で抱き合ってるのを見たって人がいるらしい」


Eはその噂を聞いて、息を飲んだ。


(非常階段……あの日のことだ)


(でも、私は見ていない。あの日、非常階段を見ていたのは、あの「観察者」の人だ)


(もしかしたら、噂を流しているのは、あの人かもしれない)


Eの中で、一つの考えが結びついた。


あの日見た「観察者」。

そして今、社内で広がる噂。

対象は、拓と瞳。


(確証はない。でも……)


Eは数日間、悩み続けた。


中学の時、親友を助けられなかった自分。

大学の時、輪の中に入れなかった自分。

入社して、瞳に無視されたと思い込んだ自分。


(私はずっと、何もできなかった。何も言えなかった)


(でも、今度は――)


彼女はメモ用紙を手に取った。


「非常階段、見えてましたよ」


それだけ書いた。差出人は書かなかった。


(これで、誰かに伝わるだろうか。あの日、あの場所に、誰かがいたってこと。噂の“元”かもしれない人がいるってこと)


(でも、確証はない。だから、名前は出せない。でも、伝えなければ)


机の上に、そっと置いた。


それが、彼女の人生で初めての「誰かに向けた行動」だった。


---


【8. その後】


メモを置いた後、Eは何かを待っていた。


でも、何も起こらなかった。誰も彼女に問い詰めない。誰も彼女を責めない。ただ、日常が続いていった。


でも、社内の空気は変わっていった。拓と瞳の噂は大きくなり、やがて外部にも漏れ始めた。小説が書かれ、噂がネットで拡散され、バズり、炎上した。


Eはそれらを、ただ「見ていた」。


(私のあのメモが、この連鎖の一部なのだろうか?)


わからなかった。ただ、自分のしたことが、何かを動かしたのかもしれないという思いが、胸の奥でくすぶり続けた。


そして、ある日、Eは決断した。


会社を辞めよう。


理由はうまく言えない。逃げかもしれない。でも、自分の中で何かが終わった気がした。


中学の親友を助けられなかった自分。

大学で輪に入れなかった自分。

瞳に無視されたと思い込んだ自分。

そして――メモを置いた自分。


その全部を抱えて、もう一度、違う場所で生きてみたかった。


---


【9. 転職先で】


新しい会社でのEは、少しだけ変わっていた。


自分で決めて努力することの大切さは、あの資格試験が教えてくれた。だから、新しい職場でもコツコツと努力を続けた。


でも、それだけじゃない。


ある日、後輩の女性が、パソコンの前でうつむいているのを見かけた。目が赤い。泣いていたわけではないが、今にも泣き出しそうな顔をしていた。


Eは少し迷った。声をかけるべきか、かけないべきか。


中学の時、声をかけられなかった自分。

大学の時、輪の中に入れなかった自分。


でも――今は違う。


「……大丈夫?」


Eは後輩の隣にしゃがみ込んで、そっと言った。


後輩は顔を上げた。驚いた表情の後、少しだけ笑った。


「あ、先輩……すみません、ちょっとミスしちゃって」


「ミスくらい、誰にでもあるよ。よかったら、一緒に見ようか? 私でよければ」


後輩の目から、涙がこぼれそうになったのを、Eは見た。


「ありがとうございます……お願いします」


その日、Eは後輩と一緒にミスの原因を探し、修正した。たったそれだけのことだった。


でも、Eにとっては、大きなことだった。


――自分から、人に声をかけた。


それが、どれだけのことか。


---

【10. 残るもの】


――ただひとつ、彼女の心に残っていることがある。


あの日、合格メールが届いた時間。

3月11日午後2時46分。その数字だけは、はっきりと覚えている。


もし、いつかあの人に伝える機会があれば、

その時間を伝えてみようと思っている。


何かの確かめになるかもしれないから。



【エピローグ】


Eは、今もたまにあの日のことを思い出す。


非常階段の二人。そして、もう一人の「見ている人」。


(あの人は、今ごろどうしているだろう)


自分があの時見た「観察者」。あの人もまた、誰かに見られていたのかもしれない。


視線の連鎖は、どこまでも続いていく。


そして、自分もその連鎖の一部だった。


それでいいのだと思った。ただ見ているだけの人も、少しだけ勇気を出した人も、みんな連鎖の中で生きている。


Eは新しい職場で、今日も普通に働いている。特別なことは何もない。でも、それでいい。


だって、彼女はもう、「見ていただけ」の人ではないから。


彼女は初めて、「誰かに向けて行動した」人になったのだから。


そして、その「誰か」が、また別の誰かに見られている。


視線の連鎖は、どこまでも続く。


――ただ、その連鎖の中で、彼女は確かに一歩を踏み出した。


それだけで、十分だった。


---【了】---


※Eの章「Eの記録」の続き、「Eの事実」、「Eの告白」をお楽しみください。3/23~3/29でシリーズ3部作完結となります。

近況ノートの考察もぜひ、見てみてください。

ヒント【10. 残るもの】

第3話(最終話)をお読みいただき、ありがとうございました。


Eはあの日、非常階段の二人ではなく、

「二人を見ている誰か」を目撃しました。

確証はない。でも、伝えなければ――

彼女が机に置いた一枚のメモが、やがて大きな連鎖の一部となることも知らずに。


中学で何もできなかった少女は、初めて「誰かに向けた行動」を起こしました。

それは小さな一歩だったかもしれません。

でも、彼女にとっては、人生を変えるほどの大きな一歩でした。


転職先で後輩に声をかけるEの姿は、

「見ていただけ」の自分を乗り越えた証です。


この続編もまた、期待していてください。

ヒント 【10. 残るもの】


本編『彼女の計画』シリーズも、

ぜひ、引き続きお楽しみください。


3日間、お付き合いいただき誠にありがとうございました。

X(旧Twitter)でも更新情報を発信しています。

@KEI67266073 フォローしていただければ励みになります。


またどこかで、この物語の「視線」の先でお会いしましょう。

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