第1章 Eの章 Eの記録 第2話「面談の記憶/すれ違い」
※本作は全9部作『彼女の計画』シリーズの一篇です。
全3話で完結します。第2話をお読みいただく前に、第1話からどうぞ。
前回:中学で親友を助けられなかったE。
「見ていただけ」の自分を引きずる彼女には、
忘れられない恩人がいた――。
第2話では、就職活動での出会い、
そして入社後の“すれ違い”が描かれます。
【3-2. 瞳のほうでは】
瞳は、あの日の面談をよく覚えている。毎年何人もの学生と会う中で、Eのことはなぜか印象に残っていた。
はっきりとした理由は言えない。でも、あの不器用そうな雰囲気、真面目にメモを取る姿、緊張して言葉を選びながら質問する様子。何か放っておけないものを感じた。
それから数ヶ月後、人事の知人と話す機会があった。
「そういえば、この前面談した子が、ウチ受けたりしないかな。Eって言うんだけど」
人事の知人は少し驚いた顔をした。「よく覚えてるね。でも、確かに真面目そうな子だったよ」
瞳はそれ以上は言わなかった。推薦するほどの関係ではない。ただ、気にかけていることを伝えただけだった。
その後、Eが入社してきたと聞いた時、瞳は密かに嬉しかった。
(頑張ってるかな)
でも、直接声をかけることはしなかった。もう社会人だ。子どもじゃない。自分からわざわざ「頑張ってる?」と聞くのは、かえって失礼かもしれない。それに、部署も違うし――。
瞳はそう思って、距離を置いていた。
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【4. すれ違い】
入社して三年目。
ある日、廊下で瞳とすれ違った。Eは会釈をした。
でも、瞳はそのまま通り過ぎていった。一瞥もくれずに。
Eの心臓が止まるかと思った。
(無視された……?)
いや、気のせいかもしれない。向こうは忙しいのかもしれない。でも、その一瞬で、Eの中で何かが冷えた。
あの時、面談で優しかった人。人事に推薦してくれたかもしれない人。その人が、今の自分には目もくれない。
(やっぱり私は、あの輪の中に入れない人間なんだ)
Eはその日から、瞳に対して複雑な感情を抱くようになった。感謝と、寂しさと、そして――ほんの少しの、恨みにも似た何か。
でも、それは完全な誤解だった。
瞳はその時、別の部署との打ち合わせに向かう途中で、頭の中は仕事のことでいっぱいだった。Eに気づかなかっただけだ。もし気づいていたら、きっと微笑んでいただろう。でも、気づかなかった。
それが、社会人というものだ。
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【5. 合格の知らせ】
あの日、Eは自分のデスクでパソコンを開き、メールを確認した。
件名は「○○資格試験 合格通知」。
Eは一瞬、画面の文字が読めなくなった。何度も読み返した。間違いない。合格していた。
この数ヶ月、Eは会社に内緒で資格試験の勉強を続けてきた。朝早く出社して一時間勉強し、昼休みも参考書を読み、帰宅後も夜遅くまで頑張った。誰にも言わなかった。誰に言う必要もなかった。これは自分のための努力だった。
(やった……)
喜びが込み上げてきた。誰かに伝えたい。でも、誰に言えばいいのかわからない。同僚に「実は勉強してました」と言うのも気恥ずかしい。
Eは席を立った。無意識に足が向かった先は、本館と別館をつなぐ渡り廊下だった。窓から外の空気を吸いたかった。誰もいない場所で、この喜びを噛みしめたかった。
渡り廊下に出た瞬間、冷たい風が頬を打った。Eは手すりに寄りかかり、深く息を吸った。
(やった。私、やったんだ)
心の中で何度も繰り返した。自分で決めて、自分で努力して、自分で掴んだ成果。中学の時も、大学の時も、何もできなかった自分が、ようやく――。
ふと、視線を動かした。
その時、彼女は見てしまった。
第2話をお読みいただき、ありがとうございました。
Eは就職活動の面談で瞳と出会い、
その優しさに恩義を感じていました。
でも入社後、瞳に「無視された」と思い込んでしまう――。
それは、瞳が陰ながらEを気にかけていた事実とは裏腹の、
痛いほどのすれ違いでした。
彼女がこの誤解を解くことは、この先あるのでしょうか。
そして、あの「非常階段」での出来事が、今まさに近づいています。
最終・第3話「目撃/メモ/その後」
――彼女は初めて、「見ているだけ」ではない行動に出る。
明日7時更新です。最後までお付き合いください。
本編も連載中。
シリーズ全体の物語と併せてお楽しみいただければ幸いです。
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次回、最終話でお会いしましょう。




