第1章 Eの章 Eの記録 第1話「見ていただけの少女」
※本作は『彼女の計画』シリーズで登場する非常階段メモの真相です。
本編を読まれた方は「あのメモの真相」が、初めての方は「一人の女性の成長物語」としてお楽しみいただけます。
全3話で完結します。第1話からお読みください。
あの「非常階段のメモ」は、誰が、なぜ置いたのか――
本編では描かれなかった、ある「普通の社員」の物語が始まります。
【プロローグ】
彼女は一枚のメモを机の上に置いた。
「非常階段、見えてましたよ」
それだけだった。差出人名はない。ただ、その一言だけ。
誰にでもできる行動だった。でも、彼女にとっては違った。
これは、彼女の人生で初めての「誰かに向けた行動」だった。
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【1. 見ていただけの少女】
中学二年生の夏。
Eには親友がいた。小学校から一緒で、いつも隣にいた。でも、ある日その親友が、クラスの数人から無視されるようになった。
理由は知らない。知ろうともしなかった。
廊下で親友が一人で立っているのを見た。目が合った。助けて、と言っているように見えた。
でも、Eは目をそらした。
教室では、いじめている側の輪の中にいたわけではない。ただ、自分の席で俯いていた。何も言わなかった。先生にも言わなかった。親友にも「大丈夫?」とすら言えなかった。
夏休み明け、親友は転校した。
最後の日、親友はEに何も言わなかった。ただ、一度だけ振り返って、Eを見た。その目が何を言っていたのか、今でもわからない。
でも、Eは覚えている。その時も、自分はただ「見ていただけ」だった。
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【2. 輪の外側】
大学三年生の秋。
ゼミ対抗のプレゼンテーションコンクールがあった。Eは裏方として必死に働いた。資料作成、会場準備、当日の運営。誰よりも早起きし、誰よりも遅くまで残った。
「Eさんがいてくれて助かる」
「本当にまじめだね」
先輩や同級生はそう言ってくれた。でも、それだけだった。
本番当日、プレゼンターとして壇上に立ったのは、別のゼミ生たちだった。彼らはEが作った資料を使い、Eが準備したデータを映し出し、賞を獲った。
打ち上げの席、彼らは輪になって騒いでいた。Eはその輪の少し外側で、缶ビールを手に、ただ見ていた。
「Eさんも来なよ」
誰かが手を振った。輪の中に入れてくれた。でも、会話は賞を獲った喜びで盛り上がっていて、Eが入る隙間はなかった。
「ほんとは私なのに」
心のどこかでそう思った。でも、口に出せなかった。
その夜、一人で帰りながら、Eは思った。自分はいつもこうだ。頑張っているのに、認められない。輪の中に入れない。
でも、それも自分のせいだとも思った。声を上げなかったから。手を挙げなかったから。
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【3. 面談の記憶】
大学四年生の就職活動。
Eは何人かの社会人にOB訪問をした。その中の一人に、瞳という女性がいた。同じ大学の出身で、今はEが志望する業界で働いているという。
Eはその時のことを鮮明に覚えている。瞳は優しい口調で、話を聞いてくれた。仕事のやりがい、大変なこと、学生のうちにやっておいたほうがいいこと。Eが緊張してうまく質問できなくても、待ってくれた。相槌を打ちながら、うなずきながら。
「真面目にコツコツやれるのは、すごい強みだよ」
その言葉が、就活で何度も励みになった。
面談が終わった後、Eはお礼のメールを送った。瞳からは「頑張ってください」と短い返信が来た。
その後、Eは何社かから内定をもらい、最終的に瞳が働く会社に入社した。直接のきっかけは別だったが、心のどこかで瞳の存在があったのは確かだ。
入社後、Eは瞳に直接お礼を言いたいと思っていた。でも、部署が違い、なかなか会う機会がなかった。
それでも、廊下ですれ違うたびに、心の中で「ありがとうございます」と唱えていた。
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第1話をお読みいただき、ありがとうございました。
中学時代、Eは親友を助けられなかった。
「見ていただけ」の自分を、彼女はずっと引きずっています。
でも、この先、彼女は少しずつ変わっていく――
そのきっかけとなるのが、あの「非常階段」での出来事です。
次回・第2話「面談の記憶/すれ違い」
――彼女には、忘れられない恩人がいた。
本編も連載中です。
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