第11話:神話級の英雄と王都への召喚
アークたちは、リーフェンの冒険者ギルドへ戻った。
ガルトは完全に回復し、ルナと共に、アークの隣に立っていた。
彼らの表情は、もはや恐怖ではなく、圧倒的な畏敬に満ちていた。
マリスは、アークの正体を知った上で、沈黙を守ることを選んでいた。
アークがギルドの扉を開けると、前回までとは比べ物にならない熱気がギルド内に満ちていた。
ギルドマスターのデミトリーが、顔面蒼白のままアークを出迎えた。
彼の後ろには、王都から派遣されたらしい、厳めしいローブを纏った宮廷魔導師たちが控えている。
「アーク殿……いや、アーク様!」
デミトリーは、畏れながらも深々と頭を下げた。
「貴方が『嘆きの山』で魔王の残党を完全に消滅させ、その際に発現させた『黄金の光』は、既に王都の宮廷魔導師団によって観測されています」
デミトリーは、震える声で告げた。
「これは、数百年前に世界の危機を救ったとされる『光の勇者』の力そのもの。ギルド本部と王宮の協議の結果、貴方のBランクは即座に取り消され、人類史上例を見ない『S+ランク・神話級』に認定されました」
アークは内心で深くため息をついた。
(予想通りだ。これでは、もう泥プレートで畑を耕す生活には戻れない)
彼は、周囲の冒険者たちの熱狂的な視線を感じながら、静かに尋ねた。
「S+ランクとは、どういう意味ですか?」
「それは、全ての依頼が貴方に降りかかり、報酬の概念すら超える、事実上の『王国の守護者』を意味します!」
デミトリーは興奮気味に答えた。
そして、隣に控えていた宮廷魔導師団の団長らしき男が、アークの前に進み出た。
宮廷魔導師団の団長、ロドルフは、アークに恭しく膝をついた。
「光の勇者の再来であるアーク様。国王陛下より、直々に『王都召喚の勅命』が下っております」
ロドルフは、赤と金で刺繍された豪華な巻物を開いた。
「陛下は、魔王の再来の報に際し、人類の最後の希望である貴方を、王都の最高戦力として迎えることを望んでおられます。どうか、この国をお救いください」
アークは、王都へ行くことの意味を理解した。
王都は、国の魔力の中心であり、魔王が次に仕掛けてくるであろう『魔力吸収結界』の次の標的になる可能性が高い。
(王都へ行けば、魔王の動きを最も早く察知できる。それに、王国の英雄として振る舞うことで、かえって私の行動に『正当性』を持たせることができるかもしれない)
彼は、完全に隠蔽することは諦め、「王国公認の最強の英雄」という新たな仮面を被ることを決意した。
「承知しました。国王陛下の勅命、謹んでお受けします。このアーク、人類の平和のため、王都へ参りましょう」
アークが受諾すると、ギルド内は歓喜の渦に包まれた。
誰もが、人類に希望が戻ったことを信じて疑わなかった。
アークはデミトリーに尋ねた。
「この召喚は、いつ出発すればよろしいでしょうか?」
「明日早朝には、王都から騎士団の特別護衛部隊が参ります。彼らと共に、王都へ……」
翌朝。
アークは、ガルトとルナの二人に見送られながら、王都の騎士団と共にリーフェンを出発する。
マリスも、アークに同行を願い出ていた。
「アーク様、王都では私の研究を、人類の平和のために必ず役立ててみせます」
マリスは誓った。
アークは、ガルトとルナに言った。
「あなたたちは、このリーフェンのギルドを守ってください。そして、もし私から妙な連絡が来たら、それを『偽の情報』だと思って、無視してください」
ガルトとルナは、アークの深い意図を理解し、力強く頷いた。
彼らは、アークの最高の『秘密の協力者』となることを決意していた。
王都への旅路は、快適な馬車と騎士団の護衛によって守られていた。
しかし、その平和は長くは続かなかった。
王都へ向かう街道沿いの、人里離れた渓谷に差し掛かったとき、突然、アークたちの馬車の行く手を、一人の男が遮った。
その男は、全身に深紅のローブを纏い、顔はフードで深く隠されていたが、彼から発せられる邪悪な魔力は、アストライアを遥かに凌駕していた。
「まさか、光の勇者が、自ら魔王城へと向かう道を辿るとはな。運がいい」
男の声は、底冷えするような低い声だった。
彼のローブの胸元には、アストライアと同じ『四天王』の紋章が刻まれていた。
「私は、魔王四天王の一人、『呪縛の術』ザンクト。竜王の魔力核を王都に運ばせる前に、貴様をここで破壊する」
ザンクトが手をかざすと、王都の騎士団たちが突如として動きを止め、その場に固まってしまった。
ザンクトの持つ『呪縛』の力は、騎士たちをその場で操り人形にしてしまったのだ。
「無駄だ。私にかかれば、お前の力は全て『魔王の呪い』として、王国に献上されることになる」
ザンクトは、アークに向かって嘲笑した。
「貴様は、その力ゆえに、世界に囚われる運命だ。そして、その呪いは、王都で『王国の崩壊』として花開くだろう」
アークは、護衛の騎士たちが呪縛されているのを見て、静かに笑みを消した。
(なるほど。この魔王の残党は、私を王都へ誘い込み、私自身を『王国の破壊者』に仕立て上げようとしているのか)
アークは、『光の勇者』として、この状況をどう乗り切るか、瞬時に計算した。
「王国の英雄になる、という私の新しい計画の邪魔をするとは……」
アークは、自分の銀色のS+ランクプレートを軽く叩いた。
「私を王国の守護者として利用するなら、それ相応の覚悟が必要です。四天王。私の『スローライフ計画』を乱す者は、誰であろうと容赦しません」
アークは、光の勇者としての真の力、【全属性魔法・極】を、王都へ向かう街道で、ついに全力で解放する。




