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水面がニッと片側の口角を上げて、何かを隠しているような笑みを浮かべる。
「当然お聞きしますよ。
あ、その前に少しだけお待ちを…」
言うが早いか、水面は端末を取り出して何やら操作する。
見た感じスマホに見えるが、神様の使う物だし詳細は不明だ。
操作を終えるのを待っていると、無事終わったのか水面が『失礼しました』と言うので、再度家内に入ってくれるように促す。
ま、あっさり『此処で』と遠慮されてしまった。
ぽつりぽつりと、世里香は語り出す。
言葉を飾らず、出来るだけ淡々と話そうと心掛けるが、水面が存外聞き上手な事もあって、思いがけず色々と話してしまった。
玄関先の中と外で、互いに座り込むと言う何ともシュールな光景だが、何方もそんな事を気にしてはいない。
「何だか話過ぎちゃいました、すみません」
「いやいや、これからお世話したりされたりする訳だからね、壁はない方が良いってもんでしょ。
でも、そっか……で、なんだけど……セリカちゃんは棚田とはもう会いたくない感じ?」
自分の意見を押し付けるでもなく、世里香の考えや感情を優先してくれる対応に、最初に抱いた苦手意識が霧散していく。
「ん~なんて言えば良いんでしょ……私は棚田さんを傷つけちゃったじゃないですか、だから今更どの面下げてって思ってしまうんですよね…。
諸々以前に相手は神様なんだし、自分の事を考えるのはちょっと厚かましいかも…って水面さんも神様でしたね」
たははと困ったように笑えば、水面は少し声のトーンを下げて、何故か一度背後を気にしてから話し出す。
「その『神様なんだし』って、何なのかな?
だってセリカちゃんも同じ土俵でしょ? なのにそこに壁を建てちゃうってのはよくわからない」
「同じ土俵な訳ないじゃないですか…私は何処までいってもただの人間ですよ?」
世里香がきょとんと小首をかしげると、水面は目を丸くして固まっていた。
「………ぇ~っと…?
ぁあぁ~そっか、そう言う事か……」
水面は軽く額を押さえてグッと眉根を寄せると、深呼吸をする。
「まさか自覚がなかったとはね。
というかララミーナ嬢も棚田も、何の説明もしてなかったのか…まぁいいや」
独り言ちた水面は何故かヤンキー座りから正座に変えた。
思わずズボンが汚れてしまうとか、どうでも良い事を考えてしまった世里香を置き去りに、水面は思いもよらない事を口にした。
「思い違いと言うか誤解と言うか、してるのはわかったよ。
えっとね…セリカちゃん、君ね……いや、君もね、もう人間じゃないの、わかる?」
「またまたぁ、何の冗談ですか?」
「いやいや、冗談じゃなく!
あ~本当にわかってなかったんだな…。
セリカちゃん、君は此処の女神だったララミーナ嬢の衣から作られた身体をベースにしてるって聞いてるんだけど、それはあってる?」
「あ~それは、はい。
本人は猫だって言い張ってましたけど、どうみても豚さんなぬいぐるみでしたね」
思い出し笑いが洩れて、ほっこりする。
「そっかそっか。じゃあわかると思うけど君の身体は神の一端になるんだよ」
「は? ……え?
でも、棚田さんは込められた神力は1日しか保てないって…」
水面は難しい顔で、後頭部をガシガシと掻き毟る。
「うん、日本語って難しいね。
美しいし、音は清涼だし、俺はこれ以上ない程気に入ってるけど……というか言葉そのものが難しいんだろうな。
思いや考えを表現は出来ても、ダイレクトに疎通するのはハードルが高いと言うか…なのでド直球で言うよ。
物に込められた神力はそうかもしれない。だけど神域の物で作られてるから、その身体は神域製って事なの、ここまではOK?」
世里香は今一つ納得出来ていない様子だ。
「あ~もうそう言うモンだって理解して」
「ぁ、ハイ…」
「で、つい先日には完全転生したって話だったよね?
勿論気持ち…心が前世の色々を受け止めて、区切りをつけられたというのもそうなんだけど、それ以前に神域製の身体に馴染んだからこその変化でもあるんだ。
だから、セリカちゃんは既に神の一端な訳。
それにもう少ししたら神域の方に引っ越して貰う予定だからね?」
「え”!?……そんなの聞いてない」
「今言ったから無問題♪」
何だろう、この誰かを彷彿とさせる物言いに、世里香は思わず顔が引き攣る。
「はい、じゃあ棚田が神様だからって言うのは、何の言い訳にも障害にもならない、いいね?」
「……ぁ、はい…」
「じゃあ改めて聞くけど……。
棚田に会いたい? 会ってもいいって思える?
立場も何も関係ないから、どう?」
何故こんなに問い詰めてくるのかわからない。
世里香は自分の気持ちに、最後に形を与えてやりたかっただけだ。
何れ忘れるにしろ消え去るにしろ、そうなる前に少しだけ日の目を見させてあげたかっただけなのだ。
なのに…これほど畳みかけられれば、その先を期待してしまうではないか…。
だが、諦観も期待もこの際横に置いて、自分に素直になろう。
どう言う結果になったとしても、素直に自分を認めて受け入れてやらなければ、この世界の未来に影を落としてしまうかもしれない。
「会いたい…です。
会って謝って……それから……」
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