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そしてララミーナは帰って行った。
生命達の領域に沿う様に存在する神域に自宅があるらしい。粗方送り終えているのだそうだが。最後に鞄一つ分が残っていて、それを取りに行ってから新世界へ行くと言っていた。
「神様も引っ越し……ねぇ…。
何て言うか…人間と大して変わりないんだな…」
ボソリと呟けば、名残の様に眦に溜まっていた雫が流れ落ちた。
何もする気にならず、外の畑の世話と遊びに行きたがるシトアとジェダを玄関で見送ってから、現在の寝室である推し部屋に置いたマットに寝転がる。
寝転がり、手に持っていた封筒を掲げ上げた。
ララミーナの辞令と同じ真っ白な封筒だが、洋形ではなく長形だ。
去り際、ララミーナから手渡された物で、ちゃんと読むようにと言われていたのだが、突然の別れによって齎された空虚は、思いの外大きかったらしい。
思考は錆び付いたように動かないし、まずもって気力がない。
じっと手に持った封筒を眺め……だが、結局開封する事なく、持った腕で顔を覆って目を閉じた。
ララミーナと二人、散々泣いたはずなのに、涙はまだ枯れてはくれないらしい。
玄関のドアが開く音がする。
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
泣いたまま眠ってしまったようだから仕方ないが、瞼が酷く重い。
きっと情けなく腫れ上がっているだろう。後で少し冷やすかと思いながら、脇に落ちていた封筒を拾い上げる。
ララミーナに言われたし、ちゃんと読まないとな…と、開封して中の紙を取り出す。
文字は日本語で、読むのに困らないが、読んだ後に漏れたのは空虚な溜息だ。
「……そっか…支援課の担当、違う神様になるんだ…」
事務的に、あっさりと必要事項だけ描かれたソレには、ガイアルナートこと地球側の支援の続行と、担当神の変更について記載されていた。
つい棚田を思い出し、胸にズキリと痛みが走るが、それをギュッと目を瞑ってやり過ごす。
他には、何かサインが必要になるらしく、名前を考えておいて欲しいと書かれていた。
「そう言えばララミーナにも言われた気がする…」
髪色が変わり、本当の意味でこの世界の住人になった時、ララミーナに言われた記憶が浮上する。
しかしあの時は髪色等々の変化や棚田の事等、衝撃がありすぎてすっかり吹っ飛んでいた。
「名前ねぇ……金髪になったんだし横文字系の名前の方が良いのかな…?
でも意識は日本人…『香里 世里香』のまんまなんだよねぇ…。
ん~なんか面倒くさいな…。
ま、いっか…その場のノリって事にしとこ」
考えが一段落したところで、シトアとジェダが世里香の所にやってきた。
シトアの後ろにジェダが続いて居るのだが、そのジェダの動きに違和感を感じ、世里香は思わず目を瞠ってしまう。次に訪れたのはもしかして病気か怪我か? という心配。
「ジェダ?
どうしたの? どっか痛い?」
確認の為に抱き上げようとしたところで、ジェダが触腕をさっと掲げてきた。
目に入ってきたのは真っ赤なトマト。
水洗いも済ませたのか、水滴がついたままで、瑞々しさ倍増だ。
「え…これ、外の菜園の?」
トマトは手がかかるので、育て始めたのはつい最近になってからなのだ。
どうやら初収穫のトマトを世里香に見せたくて、触腕を背中側に回し、大きなトマトを隠し持っていたせいで動きがおかしくなっていただけだとわかりホッと胸を撫で下ろす。
―――……うん、そうだよね
―――何時までも呆けてちゃダメだわ
―――シトアもジェダも居てくれて、私は一人ぼっちじゃない
―――呆けて何もしないまま時間だけが過ぎるなんてのは勿体ないってもんよ
―――ララミーナや棚田さんの思い出もちゃんとある
「凄い…真っ赤で美味しそうだね。
今日はこれでサラダつくろっか」
世里香が笑顔でそう言えば、シトアとジェダも、フルフルと嬉しそうに震え伸びで頷いた。
気持ちを切り替えて立ち上がり、キッチンへと向かう。
冷蔵庫や野菜室の在庫を確認し、メニューを組み立てた。
パスタにしようと決めて、まずは麺を茹でるべく大きめの鍋に湯を沸かす。
沸騰するまでの間に他の準備だ。
シトアとジェダが収穫してくれたトマトと、野菜室に残っていたレタスでサラダ。
後ツナ缶も使おう。
ドレッシングは醤油とごま油で、簡単に誤魔化す。
手早くサラダを作り終え、鍋を見ればいい塩梅に沸騰している。
いざパスタ投入と思った所で、ドアチャイムが鳴った。
「……………………は?」
ララミーナはもう新世界に旅立ったはずだ。
棚田は……すでに担当を外れている。だから来るはずがない。
一体誰だと首を捻れば、先程目を通した書類を思い出した。
「あぁ、もしかして新しい担当さんかな?
パスタ投入前で助かった」
火を止めて急いで玄関に向かいドアを開けた。
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