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生前であれば、翌日に凄惨な体調不良が待ち受けていただろうはずなのに、けろりと朝を迎えた。
そう言えば、髪色が聖力の色に変わってからこっち、体調はすこぶる良好である。それまでは寝不足だの腹痛だの、日々小さな不調は抱えていたが、『香里 世里香』として生きていた頃は、もっとひどい不調に見舞われていたので、大して気にする事もなかった。
この変化が何を意味するのかわからないが、不調より好調の方が良いに決まっているので、意味を追求する必要はないだろう。
未だ気持ちよさそうに寝息を立てているララミーナを起こす。
なかなか寝穢い。
本当にこれで新世界でやって行けるのかと、世里香は少々心配になったが、振り返ればなんのかんのと卒なく熟していたようにも思うので、きっと心配は要らないだろう。
ぽやぽやと、まだ半分夢の中の様なララミーナに朝ご飯を食べさせる。
簡単にトーストと紅茶、ついでにカップゼリーも横に置いておけば、もそもそと食べ始めた。
スライムであるシトアとジェダの方が余程礼儀正しく思えるが、こんな時間ももうないのだと思えば小言は浮かばず、ただただ愛おしむように小さく笑みが零れる。
「ほら、ゼリーもしっかり食べて。
ララミーナの好きな蜜柑入りだから」
「う~~~ん……」
終始そんな調子だったが、流石に食べ終わる頃にはしっかりと覚醒したようだ。
「ご馳走様でした」
「ごちそーさまッ!」
世里香とララミーナが手を合わせれば、シトアとジェダも真似るように触腕を合わせた。
「この子達、思ったより賢いね~」
「思ったよりって……失礼な奴だなぁ。
シトアもジェダも、ララミーナよりずっと行儀も良いし、良い子達だよ」
そんな馬鹿話をしていたが、世里香はいい加減ちゃんと聞かなきゃ…と、重くなる口を開いた。
「それで、何時………」
「へ?」
「……何時、新世界に旅立つの?」
最後は笑って見送りたい。
一人取り残される世里香は兎も角、ララミーナは所謂栄転だ。涙で湿らせる訳にはいかないと、心の準備の為にも聞いておこうとしたのだ……が…。
「この後直ぐ向かう予定♪」
「………え?」
「ほら、時間を置いて、見送りとかされちゃったらさぁ、私ってば泣いちゃう自信しかないのよねぇ~♪
だから、もう自分に時間与えないようにしようって」
―――それは自分のセリフだ…
―――泣く自信しかない…
世里香の視界がじわりと滲む。
「酷いなぁ……
何? そんなあっさり行っちゃう気だった訳?
流石に薄じょ………」
「セリカちゃん……」
ララミーナが世里香の小さな身体を抱き込んだ。
「ありがとね。
今まで……ほんとにありがとね。
セリカちゃんが来てくれて、私頑張れたんだよ。
先輩神達が見捨てた世界だったけど…逃げ損ねちゃっただけなんだけど……それでもこの世界が少しずつでも持ち直していくのが、本当に嬉しかった。
全部、セリカちゃんのおかげだよ」
「………」
ぽろぽろと世里香の頬を雫が伝い落ちる。
「新しい世界でも、頑張るよ。
それにさ、きっとまた会える。だって……ぁ、これはまだお口にチャックしとかなきゃいけないんだった」
訳のわからない事を口走るララミーナに、濡れた膜越しの視線を向ければ、ララミーナも涙がとめどなく溢れていた。
「本当に……この世界に来てくれてありがとう。
この世界に生まれ直して、救ってくれて…ありがとう。
セリカちゃんは、私の大切な友達で、仲間で……家族みたいなものだから…。
だから、何処に居てもセリカちゃんの幸せを願ってる。
それを忘れないで…ね?」
「馬鹿……阿呆……。
ララミーナなんか………
ララミーナなんか………
……………
ララミーナなんか………大好きだよ」
世里香とララミーナは、膨れ上がる様々な感情に流されるまま、互いに声を上げて泣き、そして笑った。
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