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拳を握り、笑顔で大きな声を張り上げる水面に、棚田の方は不審者を見る様な目をしながら、若干身を引いている。
「いや~、心配してたんだよ。
そりゃ俺達は伴侶とか居なくても問題ないけどな、やっぱそれじゃ寂しいだろ?
こうやって他の皆と同じ場所での仕事ならまだしも、異動で何処に飛ばされるかわかったもんじゃないからな。
特に棚田…お前は危険性が高い!
元管理課窓口だったお前は、新規世界とかに出向なんて事態になってもおかしくないんだ。だから常々良いパートナーがいてくれればって思ってたんだよ!」
一息に言い終えた水面は、満足そうに頷いているが、言われた方の棚田はと言えば、盛大に『?』マークを飛ばしまくっている。
「………はい?」
流石に違いすぎる温度に気付いたようで、水面は握っていた拳をゆっくりと解いた。
「……え?」
気まずい沈黙と共に、暫し顔を見合わせる事になったが、先に沈黙を破ったのは水面だ。
「ちょっと待て……。
まさかと思うが、棚田……自分でわかってない?」
「何の話ですか…。
わかってないのは貴方の方でしょう」
気鬱に小さく吐息を零し、棚田は目線を落とす。
「私は……私のせいで倒れさせてしまったんです…。
はぁ…もう、どう謝罪すれば良いのか……」
落ち込む棚田を見て、水面も冷静さを取り戻した。
考えてみれば、以前からかなり鈍い奴だったと思い出す。仕事は出来るのだ、仕事は。顔面偏差値が高すぎるせいで、つい見落とされがちだが、真面目だし真摯で誠実な奴だし、実力もある。
だが…いや、だからこそと言うべきか、心の機微に疎いのだ。
はっきり言えば鈍い…鈍感って事だ。
棚田は自分が何故凹んでいるのか気付いていないのだろう。
水面は瞼を閉じて小さく深呼吸をし、一旦姿勢を整える。
そして意を決した様にカッと双眸と口を開いた。
「棚田、質問良いか?
よく考えて答えて欲しい」
「唐突になんですか……はぁ、まぁ良いでしょう。
それで? 何を聞きたいんです」
「お前……その『香里 世里香 様』あぁ、面倒くさい、セリカちゃんってお前にとってどう言う人物なのよ?」
棚田は水面の言葉に何か引っかかったのか、憮然とした表情だ。
「水面さん、『香里様』です。
良いですか? 『香里様』。
何ですかその呼び方は…失礼でしょう。
それにどう言う人物かって……『香里様』は『香里様』で…」
「いや、そこなの?
つっかセリカちゃんで何がいけないんだよ
ちゃんと名前で呼んでるだけだろ?」
「……それは……確かにそうですね。
…ん? 私は何故こんなにムカついているんでしょう…」
水面は思わず右手を自分の額に押し当てて、天井を仰いだ。
「そっから…か。
まぁ、うん……棚田だもんな」
再度居住まいを正して真剣な表情で水面は棚田を見つめた。
「お前はセリ…ぁ~、めんどくせぇ……えっと、彼女がお前を見て倒れた事でどう思ったんだよ?」
「どうって……申し訳ないなと…」
「はぁ…んとだな…倒れた原因は何だと思ってるんだ?」
一瞬傷ついたかのように、棚田の目元が苦し気に引き攣る。
「……私の顔が……お気に召さなかった…のではないかと……」
水面は仕方ないなと言いたげに苦笑する。
棚田は自分の顔が平均以上に良い自覚がないのだ。彼がまだ管理課窓口だった時に一度聞いてみた事があるのだが、自分の顔に対して『目が二つに鼻が一つ、口も一つで、一応一般日本人的基準は満たしているかと思います。機能的にも問題はありません』等としれっとほざきやがったのだ。
確かに黒髪で黒瞳、日本人的色白だが不健康に見える訳ではない。
まぁそんな奴だから顔の美醜と言う基準がなく、キャーキャー喚いたり卒倒したりする神職達を『修業がなっていません』と一刀両断したのだが……。
「気に入らないってだけなら、顔を背けるとか眉を顰める程度だと思うぜ?
いやまぁ、あくまで一般的っつっか……例外は知らんけど」
さらに突っ込んで聞けば、鼻を押えながら卒倒したと言う。これはもう単に想定外のイケメンを見て意識が飛んだだけだろうと水面は判断する。
大事なのは此処からだ。
これまでは相手が倒れようとすり寄ってこようと、ばっさり切り捨てていたのに、世里香に対してはそれをしていない。
「まぁいいや。
それでどう思った訳? 嫌われたと思った?」
「……はい…」
「そっか。
んじゃ、嫌われたと思って、お前はどう感じたのよ?」
棚田はきょとんと眼を丸くしている。
「そう、嫌われて悲しかったとか、反対に嬉しかったとか、そう言う感想はなかったのかって聞いてる」
「嬉し…!?
そ、それはあり得ません!!
私はッ……ぁ…れ………私は……」
答えを出すのは水面ではなく棚田だ。
棚田が自分で辿り着かねばならない感情だ。
「………あぁ、私は……怖くて、悲しかった、んですね……」
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