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呟きながら棚田はそっと双眸を伏せて、その柳眉を顰める。
「ぅ…」
思わず水面が呻いて仰け反った。
愛用していた安っぽい黒縁眼鏡が割れて以降、棚田はフレームレスのPC用メガネを使っているのだが、以前の物と違って顔がそのまま見えているのだ。
正直、憂い顔の棚田は同性神から見ても艶っぽくて、意識しないままふらふらと引き寄せられそうになる。
一応擁護するなら、水面にそっちの気はなく、口説くのも交際するのも異性神である。
「ぁ、あ~~~っと、そ、そうか! 眼鏡が原……は?
…………………
……………………………眼鏡が原因って…何…」
よろめきそうになった事を、棚田に悟られないうちに軌道修正出来た水面は天晴である。
だがホッとしてる場合ではない。
こんなに辛そうな棚田を見るのは初めての事で、水面は思わず真顔になって姿勢を正した。
「どう言う事なんだ?
眼鏡が変わった事でお前が凹む?
……あ、もしかして土産を割ってしまって落ち込んでるのか?
そのくらいまた視察の時に買ってきてやるし、気にするなよ」
必死に慰める水面だが、棚田の憂い顔は晴れない。
「違うんです。
……と…されてしまって……」
ボソボソとした呟きで、前半部分が殆ど聞こえなかった。
「何をされたんだよ」
棚田はクッと下唇を噛み締めてから、観念した様に溜息を零す。
「卒倒されてしまったんです…」
「あ?」
「ですから、私の顔を見て卒倒を……」
「待て待て!!
ちょっと整理させてくれ。
えっと眼鏡が割れて、誰かが卒倒したって事でOK?」
棚田が頼りなげに頷く。
「その…すまん。
誰に……?」
支援課の面々は棚田の素顔を知ってる者が殆どで、直視した事のない奴と言えば、現在棚田の補佐をしながら経験を積んでいる梅宮と言う後輩くらい。
それに棚田が元々所属していた管理課での騒動は、最早伝説になっていて、その後輩梅宮でさえ耳にした事があるはずだ。
他となると異世界神であるララミーナが思いつくが、彼女は棚田の顔を見た事があったと思う。
そうなると、今更卒倒するような人物…いや、神物等さっぱり思いつかない。
それ以前に卒倒されたくらいで棚田が凹むなんて言うのも、不思議で仕方ない。
管理課窓口として、日本各地の巫女や禰宜、神主等の神職の前に姿を現し声を届けていた時でさえ、卒倒した相手を『修業がなっていませんね』の一言で一刀両断していたような輩なのだ。
それもあって伝説になっていると言うのに、卒倒されたくらいで凹むだなんて、ありえないを通り越して、天変地異でも起こるんじゃないかと心配になる。
「……香里様…です」
「こうりさま?」
再び棚田がコクリと頷く。
「よし、もう一度『待て』だ。
えっと『こうりさま』……う~ん……うう~~~ん…」
水面は必死に思い出そうと記憶をひっくり返す。
しかし該当する神物は、やはり浮かばない。
「……すまん、降参だ。
『こうりさま』って誰か教えてくれ」
「香里 世里香様です…」
耳から入って来た音が脳に届き、やっと形を成し始めた。
「こうりせ……って……アレか!!
ララミーナ嬢ん所に転生になった……あの?」
驚愕が天元突破したのか、水面はガタリと大きな音を立てて、思わず椅子から立ち上がった。
ソレに動揺する事なく、棚田はまたもコクリと頷く。
「………マジか…」
水面は何処か呆けた様に脱力して椅子に崩れ落ちた。
暫く気まずい沈黙が流れる。
流れて……流れて……
……………流れに流れて、水面は俯いたまま肩を微かに振るわせた。
そして、ニヤリと片頬を引き上げて笑い、対面で落ち込む棚田の肩をガシっと掴んだ。
「そうか……そう言う事だったか…。
俺は…。
俺は………
…………………嬉しいよ!!」
水面の明るい声音と想定外の言葉に、棚田が怪訝そうに眉根を寄せて首を捻った。
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