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「………はぁ」
最近出てくるのは溜息ばかり。
机の上にある山積みの書類を見て更にもう1つ…。
「おい、最近辛気臭いぞ」
声の方へゆっくりと顔を向ければ、そこには同僚の水面が立っていた。
「ぁ……ぃぇ、何でもありませんよ」
顔を戻し左の山から書類を取り、再計算をしようとしたのだが、するりと書類が持ち上げられた。
書類を持つ手から辿れば、水面が口をへの字に曲げていた。
「返してください。
それ今日中に処理しないといけないんです」
棚田は抑揚なく呟く。
「はぁ…お前なぁ…。
ぁ、係長、ちょい俺と棚田、先に昼休憩貰いますね~」
未だ書類を摘まんだままの水面がくるりと顔を向けた先には、顔を上げもしないでひらひらと手を振っている女性がいる。
それを見て書類を左側の山に戻した水面は、椅子に座ったままの棚田の腕を取った。
「ほら、いくぞ」
「………」
水面に腕を取られたまま連れて行かれたのは、支援課と同じフロアにある食堂だ。
実の所、此処に勤める社畜……いや、神に食事は必要ない。
基本的に食事だけでなく睡眠他諸々は必要がないのだが、皆、率先して取っている。
神と言えど、楽しみや余暇は必要だし、良い気分転換になるのだ。
そんな訳で普段は込み合う食堂なのだが、今はかなり早い時間と言う事もあって人影は疎らだ。
空いたテーブルに水面は棚田を強引に座らせる。
その対面にドカリと座り、徐に頬杖をついた。
「で?」
「はい?」
「いや、『はい?』じゃねーって。
最近お前おかしいぞ?
何かぼーっとしてるしさ。まぁぼーっとしててもミスなく仕事してるのは流石棚田だと思うけど……で? 何があったんだよ?」
棚田は微かに眉根を寄せて斜め下に顔を背ける。
「別に…。
何もありませんよ」
「んな訳ないだろ?
あ~今お前が抱えてる案件って、確か…召喚申請の事前調査が3件程と、後はアレだ、崩壊世界の支援だっけ?
で? どれだよ」
棚田はムッと唇を引き結んだまま無言になる。
「事前調査の方は梅宮も補助に入ってるはずだよな?
あ…補助と言えばあいつ、マルセーヌが原因か?
あいつほんといい加減だからなぁ」
「違います……いや、アレがどうしようもないというのも事実ですけど…」
「ん?
『も』っつった?
他となると崩壊世界の方って事? けど、あっちは持ち直せそうだと言ってなかったか?」
「………えぇ、まぁ……間に合ったと思います」
水面が腕組みをして難しい表情で棚田と見つめる。
「ぁ……もしかして、この前眼鏡変えただろ、ソレか?」
「……ッ」
思えば、棚田の溜息が増え始める少し前に、棚田の眼鏡が違う物に変わっていた。
あれは水面が日本へ行った時の土産で、くじ引き祭りをして皆に配ったものの1つなのだが、愛用してくれてるみたいで内心喜んでいたのだ。
だが、気分転換したい事もあるだろうと、変わった事を追及はしなかった。
ニヤリと片方の口角を水面が上げる。
「あそこの管理神はララミーナ嬢だったか。
ははぁん…とうとう言い寄られるとかしたか?
いやぁ、やっとお前にも春が来たか♪
ま、そろそろ年貢を納めてもいいんじゃねーの? ララミーナ嬢って結構な美女だった記憶があるし、まんざらでもないんだろ?
ちょっと前まで足繫く通ってたみたいだもんな」
ニヤニヤと締まりのない顔をする水面に、棚田は盛大な溜息を零す。
「水面さん、貴方そう言う話、本当に好きですね。
ですが残念ながらララミーナさんとは何もありませんよ。
恙無く、管理と支援の関係なだけです」
「えーー、マジか……。
となると……やっぱりマルセーヌ絡み?
俺からガツンと言っておこうか?
全く…どうせ口先だけで、お前におんぶにだっこなんだろ?
あんまり良くないだろうが、あぁ言うへらへらした奴、好きじゃないんだよな」
水面は表情を引き締めると、苦り切る。
恋バナや噂好きな水面ではあるが、棚田と仲が悪くない事からも察せられるように、根は真面目だし情深い人物…いや、神だ。
だからこうして強引に引っ張られても、振り払ったりはしないのだが……正直とんだ見当違いである。
「いえ、マルセーヌさんは問題ありません。
最初から仕事を何も回していませんから、苛々する事もありません」
「……え…」
ぎょっとしたように、水面が目を丸くして固まった。
「仕事を回さないって……完全蚊帳の外なのかよ…」
「その方がこちらの精神衛生上、良いと判断しました。
おかげでスムーズに事は運んでいます」
「だったら何が原因でそんなに凹んでるんだよ……。
この間からずっと塞ぎ込んでて、俺、心配で……お前には迷惑だったかもだけど」
長い付き合いだから、冗談めかしながらも、本気で心配してくれていただろう事はわかる。
だからつい気が緩んだのかもしれない。いや、自分で思う以上に弱っていたのだろう。
だから言葉が無意識に漏れ出ていた。
「確かに…眼鏡が原因だったと言えるかもしれません」
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