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ゴォっと大きな音を立てて吹き荒れた風は直ぐに収まったが、室内は酷い有様だ。
大きな姿見は横倒しになっているし、万年床は吹っ飛んでいる……吹っ飛んでるのに、寝かされていたララミーナは、未だむにゃむにゃと気持ちよさそうに眠っていた。普通起きないか?
それにしても、何故室内に風がと言う疑問の前に、荒れた室内に途方に暮れてしまった。
「………ぁ~…片付け…」
その後に『面倒』と続けようとしたところでハッと思い出す。
―――棚田さん!
そう、棚田が居たはずだ。
あんな強風に煽られれば、何かがぶつかったり、飛ばされて頭を打つとかしててもおかしくはない。
「た、棚田さん!!」
仰け反ってはいたものの、倒れる所まではいってなかったようで、世里香はホッと胸を撫で下ろした。
「大丈夫ですか? 怪我とかしてません? もう、何で風なんか…」
世里香の言葉が途切れた。
仰け反っていた棚田が身を起こし、跳ね上がったネクタイなんかを整えて顔を上げたのだが、その顔に眼鏡がなかった。
眼鏡がないだけなら兎も角、まさかの不意打ちがそこに居た。
―――仰天美形現る…である。
しかもいつもは撫でつけたきっちり社畜ヘアな癖に、それが乱れて目元に一筋落ちかかり、艶っぽい事この上ない。
「……ぅぇ、ぁ……あ、あ~…その、め、眼鏡! 眼鏡探さないと!!」
ガン見していた顔を引き剝がすようにして、室内を見回す。
取り繕ってる感しかなく、不審に思われるだろうが、世里香はあんな美形なんて見慣れていない。全く免疫がないのだ。
無意識に距離を取ろうとしていたのだろう、探しながら離れようとしたところでピシっと嫌な音が聞こえる。
恐る恐る音源……自分の左手を退けてみれば、そこにあったのは安っぽい黒縁眼鏡……の残骸、無残に割れた姿だった。
―――んっがぁぁぁぁぁ!!!??? 噓でしょ!? なんでこんなお約束な…
―――し、しかも、何!? あんなの芸能人でも見た事ないよ…
―――なんて言うか…美形なのよ。イケメンじゃなく美形って感じで……
―――そんな美形がなんだって社畜ルックなんてしてんのよ!!??
―――神様ってもしかして軒並み美形なの? そうなの!!??
―――いやまぁ、ララミーナさんも美女だったしな…
―――格好と行動は引っかかるけど、うん、顔は美女だった
「香里様?」
棚田の声に我に返ると、レンズの割れた眼鏡が掌に重く食い込んでくる。
「……ぅ、ご……ごめんなさい」
棚田の顔を見てしまったら、また挙動不審になる自信しかなかったので、顔を伏せたまま壊れた眼鏡を差し出した。
「ごめんなさい!
えっと……これってお幾ら万円ですか?
その、ポイントで弁償って可能ですか?
出来れば可能と言ってくださいッ!!」
安っぽく見えてはいるが、きっとお高い物に違いないと世里香は蒼白になった。
何しろレンズが特殊に思えて仕方なかったし、何より神様の私物だ。何らかの御利益や祟りがあっても不思議ではない。
ブルブルと震えていると、棚田が掌の割れた眼鏡を回収したのだろう、感じていた重みがなくなった。
「問題ございません」
返ってきた言葉はあっけらかんとしたもので、責める色は微塵もない。
「で、でも! でも……眼鏡がないと困りますよね?
見え難いから眼鏡な訳で……」
言いながら、自分のやらかしに涙が滲んできた。
散々サポートして貰って、お世話になって……なのに、恩返しするどころか、私物損壊とか本当に笑えない。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
俯いたまま、雫が幾つもぽたぽたと落ちる。
「香里様?
いえ、本当に大丈夫です。
以前日本へ視察に降りた同僚からのお土産で、くじ引きの結果コレが当たっただけの事ですので。
それに、視界も問題ありません……何しろこれ伊達眼鏡と言うか、玩具ですから」
「ぇ…?」
思いがけない言葉に顔を上げれば、眼前に美形が居た。
途端、盛大に何かが吹き出そうになった鼻を両手で押さえ、世里香の意識は暗く遠くなっていった。
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もう誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>