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こうなったら世里香も謝罪返し…いや土下座返しするしかない。
「ごめんなさい!
調子に乗って、柵に聖力モリモリした私が悪いんです!」
「え……ぁ、そんな…香里様、どうか顔を上げてください…」
必殺、土下座返しの効果はバツグンだ。
棚田が大いに狼狽えている。
頭を下げたまま、謝り合っている今の状況に、世里香は笑いが込み上げてきた。
「……ッ……ク……ぷ、クク…」
「香里様…?」
必死に笑いを堪えようとすればするほど、笑いが抑えきれず、ついには吹き出してしまう。
「プッ……クハ……ハ、アハハハッ」
正座で痺れかけた足を投げ出し、一頻り、心行くまで笑い、浮かんだ涙を指で拭いながら棚田の方を見れば、呆れた様な、呆けた様な棚田と目が合った。
目が合った……と思う。
何しろ眼鏡の奥が見えないのだ。
世里香の知る眼鏡のレンズなんて、サングラスでも無ければそれなりに目元の表情を窺い知れるものなのだが、神様仕様か何なのか、全く見えないのだ。
それでいて、サングラスのように遮光色って感じでもない。
「ごめん、すみませんって。
いや~、なんかクライアントに菓子折り持ってった時の事思い出しちゃって」
「菓子折り……ですか…」
呆然と呟く棚田に頷く。
「そうそう。
クライアントから急な変更を頼まれたんだけど、即応が難しかったんですよ。
で、ちょっと待って欲しいと、上司と一緒に菓子折り持って頼み込みに行ったら、あっちの係長さんがすっごく恐縮してくれちゃって。
ごめんなさい合戦になった事があったんです。あちらも無理な事頼んで申し訳なかったとか、お互いに米つきバッタよろしくペコペコしあっちゃって。
どっちも止めるに止められず、しばらく続いて…その時も最後は笑いが堪え切れずに…。
それをつい思い出してしまっただけなんです」
こんなに鮮明に思い出せる光景が、しかも嫌な記憶じゃない光景が自分にもあった事に感動してしまう。
弄られて、侮蔑されてばかりの記憶が一番多いのは本当だけど、そうじゃない記憶も確かにあった。
嫌な事、嫌な人ばかりじゃなかった。
直属の上司にはよくお世話になったし、1年後輩の彼女は結構懐いてくれてた。
―――香里 世里香の人生、悪い事だけじゃなかったんだ
―――当たり前の事なのに、なんで忘れてしまってたんだろう
―――嫌な記憶に振り回されるんじゃなく、細やかでも、良かった思い出を大事にしなきゃ勿体ない
―――だって『転生』と言いながら、前世の記憶も名前も引き継いでしまっている
後ろ手をつき、両足は投げ出したまま天井を見上げる世里香の双眸から、雫が一つ流れ落ちた。
―――それに一人じゃない
―――ララミーナさんも、棚田さんもいる
―――最初の宣言通り、最大限の支援付き!
―――あぁ、良かった…思い出せて本当に良かった
―――何だか生まれ変わった気分だ
そんな感想が過り、自分で自分に苦笑する。
―――生まれ変わるも何も、もうしちゃってるのにね。何を今更
クッと世里香が笑みが深めた途端、渦を巻く様な風が狭い寝室に巻き起こった。
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もう誤字脱字他諸々のミス、設定掌ぐる~が酷い作者で、本当に申し訳ございません。見つければちまちま修正加筆したりしてますが、その辺りは生暖かく許してやって頂ければ幸いです<(_ _)>