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良い年をした大人が、ちょっぴり恥ずかしい…なんて思った所で、『大人』と言う単語にふと我に返る。自分はある意味この世界では、赤ちゃんと変わらないのだと言う事実に、改めて思い至った。
前世と言うか、生前と言うか…の記憶があるせいか、どうしても世里香には、まだこの世界に誕生したばかりなのだと言う感覚が薄い。何しろ鏡を見なければ、顔も違うのだという事も意識の範疇外になってしまうし、転生体だなんて事実も忘却の彼方だ。
「香里様…?」
「セリカちゃん……本当に大丈夫?」
「あ……ごめ、ごめん…なさい。
えっと…恥ずかしいんだけど、畑に芽が出てて、つい叫んじゃっただけ」
照れ隠しに後頭部を掻きながら、へらりと笑って見せれば、唐突に迫ってきたララミーナに、タブレットを強奪された。
「ひょおおおおおお!! ホントだわ!! うわぁぁ……」
シュールな光景だ。
JKルックな美女が、金属光沢も毒々しいゲーミングカラータブレットを両手で持って、画面を食い入るように凝視しているのだ。
これは笑うしかない光景だと、世里香は苦笑を浮かべかけたのだが……
言葉にならないまま、表情が抜け落ちた。
ララミーナが泣いている。
凄い凄いと嬉しそうに言いながら…だけど、泣いているのだ。
美人な顔が台無しになるほど、くしゃくしゃに歪めて、ボロボロと流れ落ちる涙は止まる事がない。
そして、ぎゅっと……まるで宝物かと勘違いしたくなる程に、優しくタブレットを両手で抱き込んだ。
「何時ぶりだろう……この世界に芽吹きなんて……」
絞り出された微かで涙混じりの言葉に、世里香は眉尻を下げた。
普段はララミーナに毒舌且つ辛辣な棚田も、居心地悪げに眼鏡の位置を修正している。
このセントマレンシスタと言う世界が、何時からこんな風になってしまったのか、世里香は知らない。
だけど本当に崖っぷちだったと言うのは、あの光景を見たからわかる。
小さな地面に縋りつき、半分浮遊するようにして根を揺らすあの木も、酷く不安を抱かせる悪趣味なマーブル模様の空間も……何よりポロポロサラサラと、波に攫われる砂のように頼りなく消えてゆく地面は、とてつもない不安を掻き立てた。
先ほど小耳に挟んだ様に、この世界から他の神々が去って、ララミーナだけが取り残されたのなら、どれほどの時間、たった一人でその光景を見ていたのだろう。
きっと筆舌に尽くし難い孤独だっただろうと、世里香は思う。
幼子を宥めるように、泣き続けるララミーナの頭に手が伸びた。
―――誰も言わないのなら、私が言ってあげよう
―――ララミーナは頑張った
―――たった一人で、本当に頑張ったね
仮にも神様の頭を撫でるなんて、罰当たりかもしれないけど、ララミーナ自身が黙って受け入れているのだから、それで良い。
黙って女神の頭を撫でながら、世里香は思った。
最大級の支援とか、色々と誘惑に負けて流されるように転生したけれど、これは自分も頑張らないといけない……と。
聖女として転生したのに、崇め奉ってくれる信者も居なければ、仲間となる勇者も居ないけど、自分は確かにこの世界に必要とされている。
それがわかったから、もう良いのだ。
―――だが、まずは確認とポイント稼ぎ。
聖女だろうが何だろうが、背に腹は代えられぬのだ。
武士は食わねど高楊枝なんて、御免被る。
腹が減っては戦は出来ぬのだよ!
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