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寝室にしている部屋に大きな姿見を置いているので、そちらへ足を向ける。
一応オタはオタなりに、おしゃれと言うモノに気を遣う為に購入したものだが、生前の生活の中で、それほど役だった記憶はない……いや、全くないかもしれない。
何しろ矯めつ眇めつ鏡を見入る時間なんてなかった。
残業を終わらせ、終電で帰宅し、途中のコンビニで食べる物を買って帰る…お弁当が残っていればラッキーな方で、下手をするとロールパンくらいしか残っていない事も多かった。
ゆっくりとお風呂に浸かる時間も勿体なくて、シャワーだけで済まし、さっさと寝てアラームに叩き起こされる…そんな毎日。
当然朝はギリギリまで寝ていたくて…結果、大慌てで準備して駅まで走る。
そんな状態だったから、折角買った姿見だったが、はっきり言ってただの置物でしかなかった。
それに病になってからは、鏡を見ようと言う気にはならなかった。
抗癌剤の副反応で抜け落ちる髪……怪談話が誇張じゃないんだってうっかり信じたくなる程、引っ張らなくてもごっそりと起床後の枕に抜けて広がっていた。
それが此処で活躍の場を得るとは、感慨深い……等としみじみしつつ、鏡を覗き込む。
(……ぅん?)
(…………………)
(…………ぁ~ぁ、そう言う事…)
何だか肩と首が凝るなと思ったのだが、気のせいではなかったようだ。
再度姿見の中の自分を見つめる。
ぬいぐるみの筒状だった手が、ちゃんと指のある人型に変化した事に感動しすぎて、他が疎かになっていたらしい。
随分と身長が縮んでしまっている。
形態の変化に驚いただけで、大きさには変化がなかった気がするから、そこで察しろよとお叱りを受けるかもしれないが、生贄の祭壇にぬいぐるみ、果てはマーブル模様の空に崩れ行く地面なんてモノを、立て続けに見せられたインパクトは大きかったと言う事だ。
映り込む家具他から判断して、どうやら以前の身長より頭一つ分くらいは低くなっている。
(ララミーナさんと棚田さんは随分と身長が高い人達…いや、神様だなって思ったけれど、種を明かせば私が縮んだだけだったって事よね…。
まぁそれなら全部見上げる形になって、首や肩が凝るのも当然か…)
身体の変化はそんなところだろうか。
顔は少なくとも前世である香里 世梨香と似た所は見つけられなかった。
毛先は少し内側に向いているが、概ねストレート。そして馴染みある黒髪だ。前世に比べて艶々なのが嬉しい。
瞳も黒、肌は日本人的色白で、何より皺もシミもない!
素晴らしい!
そして造形は、これは美少女と言って良いのではないだろうか? 勿論『絶世の』…何て言う単語はつかないが、少なくとも可愛いと言い張れるレベルではある。
(まぁ私って良くも悪くも中間だったからなぁ…。
良くはないけど見られない事もない、可もなく不可もなく…それで弄られた事もあったけど、自分は自分で、自分以外になれなかったしな……。
ま、見てくれる人はいないけど、ちょっとは小綺麗にしても許されるんじゃない? ってくらいの造作よね。
どのみち箪笥の中の服じゃもうサイズも合わないし、時間のある時に服も頑張っちゃうかな)
容姿も確認出来たし、次は腹ごしらえだ。
棚田の置いて帰ったパンはテーブルに置いてくれたはずだが、やはり微妙にテーブルも椅子も大きい。
よじ登ったりする必要まではないが、微妙にしんどいかもしれない……これは今後の課題の一つである。
もし内装の変更や家具の買い替えなんかも出来るなら、ポイントを貯める理由が増えて、更に頑張れる気がする。
ちなみにパンは美味しく食せた。
ベースがぬいぐるみの身体だし、味覚はないかもしれないと覚悟を決めて口に運んだが、小麦の香りと優しい甘みが感じられて、涙が出るほど嬉しかった。
食事を摂る必要のない身体だと言われたが、これは是非とも続けたい。
マーブルな空とポロポロサラサラな地面と言う不安定な世界なので、今後、平穏ばかりではないかもしれないが、食事も可能な範囲で続ける事に決める。
後はお風呂だが、こちらもぬいぐるみと言うパワーワードのせいで、恐る恐るだったが、全く問題なかった。
さて、本日のタスクはこれで終了にするとしよう。
―――おやすみなさい
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