4. 人狼と旅立ち
リアンは世界へ旅に出る。
独りだったリアンには家族と呼べる人ができ、ただのリアンからリアン・レスナーとなった。
レスナー家の養子になって1年ほどは、ラヴィーア国の首都ヴィオレの街で職業を転々としていた。
理由はあらゆることを経験しておきたいからだ。
郵便局のポストマン、街角のパン屋、本屋の店員、色々な仕事に就いた。どれもやり甲斐があって沢山のことを知った。
中でも郵便局に勤めていたときはとてもたくさんの『想い』に触れた。
伝えたい『想い』を言葉にして手紙にする。その『想い』を届ける。それが、とても尊いもののように思えたのだ。
その仕事も今は辞め、レスナー家の屋敷の玄関にて。
「では、義兄さん、お義父さま、お義母さま。行って参ります。」
片手に重そうなトロリーバッグを持ち、背中には大きな旅行鞄を背負っている。中には路銀と衣服、その他諸々の生活必需品などが入っている。リアンの装いは、旅に出る人のそれだった。
「······リアン。気をつけて。命が危険に晒されるようなことは絶対にしないでくれ。」
「気をつけてくださいね。たくさんのことを身に付けて、学んできなさい。」
「たくさんのことを学んでくるといい。········旅に危険はつきものだから、十分に気をつけて。」
ルシアンは心配で死にそうな顔をしていて、セレンは相変わらずの微笑みをたたえていた。ヴィードはリアンを心配と寂しさを混じえた目で見ている。
「はい。帰るのはいつになるか分かりませんが、2年ほどだと思われます。」
リアンはほんの少し笑い、そう言った。そして、此処に来た時のように深く頭を下げ、旅の別れを告げた。
「行ってきます。」
そう言って向けた背は、ルシアンたちの目には少しばかり、大きく見えた。
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リアンはまず首都ヴィオレから離れ、ラヴィーアの北側の国境付近へ向かった。ヴィオレまでとは行かないが、活気のあるにぎやかな街だ。
夜の街は楽しいものだ。みな酒を飲み、肉を食い、通りすがりの楽団が奏でる音楽に合わせて踊っている。
ここの住民たちは、旅人であるリアンにも気安く話しかけてくれる。リアンは無表情な上、愛想もほぼ無いが人が寄ってくる。
「にいちゃんは旅人なんだなぁ。」
「この肉美味いどー!」
「あんた酒飲めるか?まだ飲めないのかー、え、16?嘘だぁ、こんなイケメンなのに〜」
あまり喋らないリアンに肉を勧め、酒に誘い、世間話をする。フレンドリーすぎる気もするが、この街の住民の人柄がそうなのだろう。
リアンは食事を済ませると宿で眠った。
―――これからどんな旅になるだろう。
そんな思いを夢に連れて。