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人狼は伝説を志して  作者: 蒼春
序章
4/12

3. 中佐は小さな狼を振り返る



 あの三日月の夜に見た、返り血を纏った小さな狼。

 私たちは、そんな狂った美しさに魅せられてしまった。

 世にも美しい殺戮者は、私の『道具』になった。




     ✡     ✡     ✡




 大戦の始まる5年前。陸軍駐屯基地付近の街に、奴隷商人が来ていた。

 まだ10ほどの子供たちを、下僕として売る、鬼畜極まりない商人。


 そんな奴隷の一人に、彼女がいた。

 少年のようななりをしているが、華奢な体は小さな少女だ。

 薄汚れてはいたが、白銀の髪は滅多に見ない、美しい色だ。

 光は灯っていないが、蒼色の瞳は空のようでも海のようでもあった。


「さあさあ、この白銀の髪の少女、実はとんでもない特技があるんです!それを、今からお見せ致しましょう!」


 奴隷商人は声高にそう言うと、彼女の前に、今にも死んでしまいそうな子供を5人立たせた。

 きっと売れ残ってしまった奴隷だろう。

 そして彼女に短剣を持たせると、奴隷商人は「殺せ!」と命じた。


 こんな細い子に、人など殺せるわけないだろう。胸糞悪い。馬鹿馬鹿しい。

 そう思ったのは私だけではないようで、他の上層部の上官たちも不快だという表情をしていた。


 だが、少女は殺した。5人を、一分もかからずに。


 返り血を纏い、倒れた死体の真ん中に立つ少女は、狼のようだった。

 彼女は、何も感じていないかのように、無表情で居た。


 上層部の目が変わった。こいつは使えるかもしれない、と。


 でも、私は気づいた。

 もう、うんざりだと言う、声なき声が。

 なぜ、意味もなく人を殺して自分は生きているのだという、諦念の心に。


「―――その子を買おう。10万ロルトでどうだ。」


 気づけば、そう口にしていた。




     ✡     ✡     ✡



 少女は、名の登録のない、少年兵として陸軍の兵士になった。配属は私の率いる特攻隊。


 彼女を買った夜。私は彼女に言った。


「·······今から、私は君の主人だ。私はルシアン・レスナー。ルシアン中佐、だ。君は、話せるかな?········君の名は、なんと言うんだい?」


 少女の反応はない。言葉を話せないのだろうか――と思ったが、少女は微かに声を発した。


「·············り、あん。」


 自分を指差し、そう言った。


「······!君は、リアンと言うのか?私のことも、言ってみてくれ。中佐、と。ルシアン、中佐、だ。」

「······ちゅぅ、さ。るしあ、ちゅぅ、さ」


 拙いながらも、必死に言葉を紡ぐリアン。

 その姿がいじらしくて、私はなぜだか嬉しくなった。そして安心した。

 私は、彼女を少し恐れながらも、抱き締めてやった。リアンはまだ小さな手で、私の軍服の裾をぎゅっと握った。


 あんな鬼神のような殺しをしても、ただの子供なのだ、と。




     ✡      ✡     ✡




 それから四年。リアンは14歳になり、さらに美しく格好良くなった。

 大戦が始まった今、リアンは『殺戮人狼』と呼ばれていたが、私は道具などと思ったことはない。


「中佐。どうなさいましたか。」


 じっと見つめる私に気づき、訝しげにこちらを振り返る。

 言葉も上手く話せなかった彼女は、今や影も形もない。

 みるみるうちに成長していく彼女を、私はいつしか妹のように思っていた。

 本当に、家族になれたら。そう願っていた。


 新しい発見をしたときに、蒼い瞳をほんの少し輝かせるのも。

 風に吹かれて靡く、白銀の短髪も。好きだ。


 愛しい、リアン。




10万ロルト·····世界共通の通貨。1ロルトは日本円で言うと10円。つまり100万円ということになる。すげーなルシアン。男前やん。

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