2. 人狼と家族
「これから、よろしくお願いします。お義兄さま」
治療院の前で、迎えに来たルシアンにリアンは頭を下げた。白銀の髪がさらりと流れる。
ルシアンはうんうんと嬉しそうに頷くと、「今からレスナー家に向かう。持ち物はそれで大丈夫か?」と聞いた。
リアンの持ち物であるトロリーバッグには、ルシアンから貰ったぬいぐるみと、義手の点検器具、お金と最低限の生活必需品といった物しか入っていなかった。
「大丈夫だと思います。」
黎明の空のような落ち着いた声でそう言うと、しっかりとした足取りで歩き出した。
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「レスナー家へようこそ、リアン。」
馬車で治療院のあった丘から街へ降り、街も通り過ぎて、大きな屋敷へ着くと、ルシアンはリアンを振り返ってそう言った。
レスナー家は代々、ラヴィーア国の陸軍の人材の輩出を担っていた。勿論、ルシアンも例外ではない。
リアンは蒼色の瞳にルシアンと彼の背後の屋敷を写した。そして何かを堪えるような色を見せたが、一瞬だけだったので、理由はリアンにしか分からない。
立派な家門を潜り、美しく整えられた庭を抜け、二人は屋敷へ入っていく。
屋敷の内装はシンプルで洗練されたデザインで、決して豪奢ではないが調度などは最高品質の物だと伺えた。
リアンはルシアンに客間へ案内された。そこには、ルシアンの父と母らしき人がいた。
「君がリアンか。私はルシアンの父であるヴィードだ。これから、血は繋がっていないとはいえ私たちは家族ということになる。よろしく頼む。」
「リアンさん。私はルシアンの母セレンです。今まではルシアンとは上司と部下、という関係だったと思います。でも、もう私たちは家族です。私たちには、本当の親のように接してくださいね」
ヴィードはルシアン同様アッシュグリーンの髪に、厳格さと強さを湛えたビターブラウンの瞳をしており、左頬には軍人であったからだろうか裂傷が走っていた。貫禄のある声でリアンに挨拶をする。
セレンは栗色の髪に橙色の瞳の、いかにも貴婦人といった、柔らかな物腰の女性である。雰囲気は優しいが、軍人の奥方ということもあり、芯のある強さも兼ね備えていた。
「至らぬところもありますが、これからよろしくお願いいたします。お義父さま、お義母さま。」
リアンは深く頭を下げた。
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リアンに与えられた部屋は、青色を基調とした広めの部屋だった。ベッドや箪笥などの家具は既に設置されている。ルシアンは「部屋のものや欲しいものがあったらなんでも言ってくれ」と言っていた。
自分のものを部屋に置き、自分好みに整える。
ベッドに倒れ込むと、ぼふんと跳ね返った。
――――もう、独りじゃないんだ。