12. 夢を追う青年と狼 ―後編②―
夢を追うことって、恥ずかしいことかな。
夢っていうのは、まわりになんと言われようと、自分にとってかけがえのない、一生持つことのできる希望だよね。
きっと、「貴方の為」と宣う偽善者に否定されて、その輝きを翳らせることの方が俺はよっぽど恥ずかしい。
そう思っていたのに。
俺は、俺の光よりももっともっと眩しいものを見ると、昼の太陽と夜空の六等星ほど差があるように思えてしまったんだ。
少しずつ、少しずつ、この光は誤って灯してしまった、不良品なのかな。そう思ってしまっている自分がいました。『夢』そのものを、辞めたくなってしまった。
でもリアンは、繋ぎ止めてくれた。夢の灯火を、また燃やすための燃料をくれたんだ。
俯いていた顔を上げ、目線を自分の手からリアンの手、腕から肩、口元から蒼い瞳へと少しずつ動かす。
自分のことを、こんなにも真っ直ぐに見つめてくれる人は今までにいなかった。
「―――おれの夢は、誰かの光になることだったんだ。········おれが、演劇を観て、役者の彼を光と思ったように、おれも、輝きたいんだ。」
何故役者になりたいのかを語った後、ディアはそう呟いた。自分に言い聞かせるように、噛み締めるように。思えば、誰かに自分の夢を話すのは久しぶりだ。
リアンは、なんと言うだろう。怖さと期待とが入り混じり、心臓が痛い。
リアンは、ディアを見つめ、少し掠れた声で言った。
「········ディアなら、きっとなれます」
言葉を丁寧に紡いでいるような、そんな話し方だった。
ディアはもう一度、真正面から彼女を見つめる。
真っ直ぐな蒼がディアを写している。
「あなたなら、輝けます。私は、ディアを信じてる。ディアは絶対に、素晴らしい役者になれます。」
―――嗚呼、だめだ。涙が溢れてくる。
『信じてる』なんて言葉、信じてもいいのかな。
おれはずっと、そう言って欲しかったんだ。
ディアは、知らず知らずのうちに止めていた息を、薄く吐いた。
「―――おれも、リアンを信じてるよ。」
ディアは泣きながら微笑って、そう言った。
追いかけているのに、ずっと追いつけない。
夢に見るまで夢見ているのに、叶わない。
スタートラインに立つことすら難しかった。全力で走るのだってままならないような障害ばかりだ。それはきっと、これからも。
でも。
それでも。
おれは、目を背けてしまいたくない。
まだ走れるから。追いかけられるから。
燃え尽きるまで食らいついていきたいんだ。
捨てられたあの時の自分に張れる胸は持ち合わせていないけど、せめて発破かけられるように。
「おれ、ちゃんと追いかけるよ。もう諦めない。」
「諦めるつもりだったのですか」
「··········まあね。」
「それは、何故ですか。」
「···········おれには才能も実力もなくて、···········プロの世界じゃ通用しないと思ったからだよ············。」
そう言って、ディアは俯いてしまう。情けなさと恥ずかしさで涙が出てきた。唇を噛んで、嗚咽が漏れそうなのを耐える。
「でもっ!」と言葉を続け、少しだけ目線を上げる。
「おれなら、なれるんだよね·······?信じて、いいんだよね·········?」
「················はい。私を、信じてください。私は、ディアの味方だ。」
いつの間にかふたりは距離を縮め、ディアはリアンの腕の中にいた。それは、ふたりの「独りへの恐怖」ゆえにだった。
リアンは、自分を信じてくれ、なんて言ったことがなかった。
だから、怖かった。
自分の言葉ひとつひとつが、ディアを傷つけていないか。失望させていないか。発言の責任というものを、改めて噛み締める。
ディアも、信じていいか、なんて訊いたことがなかった。
だから、怖かった。
信じることは、心を委ね、気持ちを預けること。実の母親に捨てられ、世間に嗤われ、夢も希望も才能もすべて諦めきったというのに、まだ人を信じたいと願っている。
―――独りでいる夜を、肯定してほしかった。
おれは真に独りだ。
この世界に生きるみんな一人じゃ生きられない。
でも、自分の「真の理解者」は自分ひとりだけ。
誰もが、他人を完全に理解などできない。
だから、おれも、リアンも、みんなみんな、独りぼっちだ。
「·············ディアも、ディア自身を、信じてください。」
また夢への道を、走ってもいいかな。
「私はディアを、信じているんだよ。」
燃料切れを起こしても、きっと大丈夫。
「···········うん。信じるよ。」
あなたがおれを信じてくれる限り、おれは永遠に走れる。
「夢を追う青年編」、これにて完結です。
【お知らせ】
お読みくださりありがとうございます。
「人狼は伝説を志して」について、お知らせがあります。
今までに投稿したエピソードを大幅に改稿しましたこと、作品名を変更しますことをご報告します。
最初のエピソードから改稿しているので、結構時間がかかってしまっています·······。長い目でお待ちください······!
新題は「蒼狼の旅路」とさせていただきます。読み方は「そうろうのたびじ」です。
今後とも「人狼は伝説を志して」改め「蒼狼の旅路」をよろしくお願い致します。 m(_ _)m
【追記】
評価・コメントをいただけるととっっても嬉しいです!!
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