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sideメンコ 野に咲く薔薇同士の不器用な恋物語(2)

「もしかして、こうなる事、予想、してた?」

Nu()! sunt profet!」


 彼は首を横に振りながらも、翻訳を忘れてルーマニア語で答えていた。

 でも、密かにアタシのスマートフォンで訳してみると『オレは予言者では無いさ』みたいだ。また軽口を言っている。もう。


「全く……。ま。アタシはかなり安心したけどねっ!」

「ン?」

「だってナイト。あまりにも『慎重すぎる』から、思わず笑っちゃったんだけど! あはははは!」

「ンン!?」

「さっき言ったこと、訳して欲しい?」

「ンー……」


 でも、訳してあげない。

 さっきの言葉、ポケトークを使わないで素で喋ったからね。だから、アタシも素で喋ってやる。軽い反撃よ。


「……Nu()

「えっ!?」


 しかし、予想外な答えで思わず変な声が出てしまったが、ちょっとどういう事!?


「ポケトーク、無クテモ日本語、全部理解、デキル様二、ナッテヤル!」

「はぃい!?」


 そして、不敵な笑みで微笑むと、ポケトークでこう吹き込み、アタシに渡してきたのだ。


『Deci nu trebuie să te obosești să încerci să-l traduci.』

(したがって、わざわざ翻訳する必要はありません)


「あっそ。ふーん。随分と強気じゃないの」

「アハハ! ソレト、オレノ眼帯ノ中、知ッテルノ、美々子ダケ!」

「ちょっ!?」


 そして、追撃するようにニンマリとイタズラっ子の様に笑いながら、再びポケトークに何かを吹き込むと、アタシに見せてきたのだ。


『Ne simțim ca niște îndrăgostiți cu un secret.』

(オレ達は、秘密を持った恋人のような気分だ)


「あっ……。ちょっとぉぉぉ!」


 まさかの『カップルみたいだ』の言葉に、アタシはかなり動転してしまった。

 全く。ポケトークに何言わせてんのよ! もう!


「えええっと、そうね。うん。それだけは、認める!」

「ジャア、今回、オレノ勝チ! イエーイ!」

「はぁ」


 別に勝ちも何も無いんだけど。でも、子供のように喜ぶ彼の姿を見たらどうでも良くなっちゃった。


 まぁいいや。アタシも何だかんだ言って、ちゃんと返事できてスッキリしたし。

 でも、面と向かって『好き』は、言えないままだけど……。

 

「次、会ウ時、オレノ家デ、話シタイ」

「えっ!? いきなり?」


 しかし、彼は片手に緑色のスマートフォンを持つと、何かを打ち込んでいたのだ。



――ピコンッ



「え?」


 すると、今度はアタシのスマートフォンに、こんな通知が届いていた。


『ここだと、いえない。だれにもいってない。おれのひみつ』

「秘密……」


 アタシはゴクリと唾を飲み込むと、この後の会話を、ライムでする事にした。

 チャットで話すことにより、口に出さなくても、『言葉』で伝えられると思ったからね。それに、デットプールの連中にも言えない秘密となると……、もしかして、あの組織と関係していたり。まさかね。


『それ、眼帯と関係してる?』

『そうだ』

『例えば……、『アビス』とか?』

「!!」


 すると、画面を見る彼の顔は、何故か先程と違って、怯えた様な表情をしていたのだ。


「ええっ!? ナイト!? ほ、本当に、ごめんなさい!」

「……大丈夫」

「え?」

「ソウダ。『アレ』ハ危険。人間ジャナイ。クレイジーナ、ヤツラ」

「……」

「シイラミタイナ奴、沢山イタ」

「えっ!? シイラ知ってんの!?」

「アハハ。フグトラト一緒ニ、ヒジリト話シタ」

「あー! あの時ね!」

「ソウダ。ソノ時、ソノ場ニ、シイラモイタ。タワマン、サイジョカイ、住ンデル。テ」

「なるほどね……」


 確か、あの時アタシは、ヒガンさんの護衛をしていたんだよね。まさかあの場にシイラもいたなんて。

 しかも、今は真生くんと一緒に、タワマンの最上階に同棲中かぁ。かなり凄いところに住んでいるのはめちゃくちゃ驚いたけど。


「コノアト、ココデ……」

「分かった。でも、無理して話さなくて、いいからね」

「美々子……」


 これ以上、彼の怯えた顔を見たくなかったアタシは、直ぐさまに自身の両手で、彼が持つスマホとポケトークの画面を、強引に覆い隠した。


「話したくなった時で、いいよ。アタシ、いつでもライムに返事、返せるから」

「……multumesc(ムルツメスク)

「さ。家まで送っていくから、教えて」

「……Am înţeles(インテレグ)


 そして、アタシは笑顔でそう伝えると、先に二人分の支払いを終わらせ、呆然としている彼を強引に連れて、ツブヤキを後にしたのだった。


 でも、まさかこんな所にまで、『アビス』が根深く関わっているだなんて、思っていなかった。

 しかも、戦闘も強いあの彼が、名前を出すだけで、この怯え様な訳だから、相当危ない集団なのだろうね。


 現に『アビス』というワードを出すだけでも、ゴエモンさんですら『出すな』と威圧される程だ。

 オマケに、ヒガンさんからの情報で、ベローエの現教祖が『アビスの構成員』という噂も本当かもしれないときた。


 つまり、アタシは心の闇が深い彼と、こうして秘密を共有し、付き合ってしまった事になる。


 でもいいわ。覚悟はできているから。


「さ。隣でいいから乗って」

「……」


 アタシは運転席で準備しつつ、すっかり落ち込んでしまった彼を助手席に座らせた。


「全く。いつもの口説き文句は無いわけ?」

「……」

「アタシ、好きなのにな。ナイトの軽口」

「!?」

「え!? どうしたの!?」


 すると、彼は先程の落ち込んだ表情から、ガラリと変わり、何故か緑色のスマホ片手にこう言ってきたのだ。


「イマ、ナンテイッタ?」

「は? あー。『ナイトの軽口、好きなのにな』て言ったけど……」

「エト、モウイッカイ! サッキノ言葉! 言ッテ欲シイ!」

「は、ええええ!? はぃいいい!? ちょっと! 今! 運転中! だから、無理!」

「ウゥ……」

「あーもう! ちょっと路肩に止める!」


 なので、あまりの急変具合に驚いたアタシは、たまたま見つけた路肩に車を停めると、ため息混じりに聞くことにした。


「……で? 突然どうした?」

「エト、モウイッカイ。言っテクレ」

「……ナイトの軽口。『好き』なのにな」

「……ムルツ……、メスク」

「!?」


 すると、彼が何故か母国語もカタコトになりながらもお礼をしてきたのだ。

 ちょっと待って。情緒が追いつかないんだけど!


「……もしかしてさ」

「……ナンダ?」

「ナイト、アタシに『好き』って言って欲しかった?」

「ウァウ!?」


 そして、確認程度で聞いた途端、彼は助手席内でスマホを落としてしまったのだ。

 え? まさか、図星だった!?


「アァ。スマナカッタ。アハハハハハ!」

「いやいや……」


 しかも、また熱があるような真っ赤な顔に戻ってるし。

 本当に、双子揃ってリアクションが『分かりやすい』んだから。


 でも、仮にアタシに弟がいたら、こんな風に接していたのだろうか。

 あまり想像がつかなかったけど、こういう所、何処かアンナにも似ているのよね。うーん……。


「Am încercat să rămân calm, dar nu a fost de niciun folos.」

「んん!? 今なんて!?」


 すると、ポケトークを忘れて母国語全開で呟き始めたので、思わず自身のスマートフォンを開いて翻訳アプリで聞こうとした。


「ホンヤク、シナイデ……」


 だけど、彼は首を横に振りながら、何故か視線を外に逸らして右手で照れた顔を隠そうとしていた。


「ええええ。めちゃくちゃ気になるんだけど。もう一度言ってくれる?」

「ダメダ……。ウゥ……」


 なので、先程の仕返しでからかってみた。

 でも、こんな風に照れまくっている彼が、来日前は『仇を殺しまくっていた』のが想像つかないのよね。

 だって、今の彼は、牙が抜かれた狼みたいになっているし。


「ま。安心していいよ」

「……ン?」

「ポケトーク貸して」

「アァ……」


 そして、勢いに吹っ切れたアタシは彼からポケトークを借りると、こう吹き込むことにしたのだ。


「日本にいる限り、ここでは『戦争』やら『アビス』やら、余計な事は考えなくていい」

「!!」

「ただ、『ありのままの自分』として、傍に居てくれたら、アタシはそれでいい。何もいらない」

「……」

「ね。『同じ気持ち』なら、アタシの言いたい事、分かるかな?」

「……」

「ふぅ……」


 まさか、こんな勢いよく思った事を言ってしまうなんて、恥ずかしいな。もぅ。


 急いで路肩に停めたといっても、助手席側では、通行人が普通にスマホを弄りながら歩いていたり、音楽を聴きながら走っていたり。


 車内からだと、運転席側の景色は道路で車が通っていたりと、かなり見えるのよね。

 しかも、スマホの時間を見たら、いつの間にか時間は夕方頃になっていた。


「えっと、改めて……」


 なので、シートベルトをしようと、準備した時だった。


「……マテ」

「えっ!?」


 すると、何故か助手席にいた彼は、アタシの体を腕の中に閉じ込めてきたのだ。


「ど、どうしたの!? 急に……」

「……」

「えっと……、ナイト!?」

「……」


 そして、抱き締められているせいか、彼の顔がアタシの耳元に来ていて、かなり緊張する。

 ビルの前を通行人が通っているのが、視界に見えたが、ちょっと待って。車内だよね? ここ。


「……Mă bucur atât de mult să te cunosc, Mimiko.」

「!?」

「……Mă bucur că am venit în Japonia」

「……」

「……multumesc(ムルツメスク)

「……」


 暫く呆然としてしまったが、全部ルーマニア語のせいか、内容は全く分からなかった。

 でも、微かにアタシの本名である『美々子』と言っていた事だけは、何故か頭の中で繰り返されている。


 ぁあああ!

 耳元で美々子って囁いてくるのは反則だって! もぅ!

 オマケに声も低音で、優しく囁かれているから余計に……。


「……」


 でも、いいや。

 落ち着いたら、運転する準備をしよう。


 なので、夕日が照らされる車内で、アタシ達は、互いに抱きしめ合っていた。




――だけど、『アビス』。アイツらだけは、絶対に許さない。いつか『必ず』潰すから。ね。

ちらっと和訳したのを貼っておきます。

それにしてもナイトさんさぁ……。

Am încercat să rămân calm, dar nu a fost de niciun folos.

(冷静さを保とうとしたが無駄だった。)


Mă bucur atât de mult să te cunosc, Mimiko.

(美々子に会えて、とても嬉しい)


Mă bucur că am venit în Japonia

(日本に来て良かった)

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