表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/106

sideメンコ 野に咲く薔薇同士の不器用な恋物語(1)


――同時刻。喫茶店ツブヤキ。


「ふぅ……」


 アタシは酷く緊張していた。

 そのせいか、飲み物を待つ時間さえ、長く感じてしまう。


 こんなにも戦闘以外で、不安になるのは何年ぶりだろうか。

 いつものアタシなら、こんな緊張ぐらい、余裕で乗り越えられるのに。服装も、あの時の青いロングワンピースを着てみたけど、緊張で汗が……。


「あー。もう!」


 だけど、ちゃんと返事を返さないと。いつまでも保留のままにしていたら、猛アタックしている彼にも悪いからね。


 でも、何で彼はアタシの事、好きになったんだろう。

 理由を聞こうとしても『え? 野に咲く薔薇の様に君が美しいからだよ』みたいな口説き文句しか言わないし。しかもルーマニア語でサラッと。


「それにしても、遅いわね」


 実は彼、『ツブヤキのメニューで新作が出たんだけど、美々子。試しに飲んで欲しい』て言ってきたのよね。

 普通そういうの、従業員の間柄でしかやらないはずなんだけど……。何でアタシ?


 あまりにも遅く感じたアタシは席から立ち上がり、カウンターへと向かっていたら、


「…………」

「……!!」

「え?」


 カウンターの奥から、何故かフグトラとナイトの話し声がしてきたのだ。


「は? 何話してんの!?」


 気になったアタシはすかさず手に持っていたオレンジのスマートフォンから翻訳アプリを取り出し、ルーマニア語から日本語に変換できるように設定した。


「……」


 もしかして、何か言ってる?

 緊張と不安の中、そっとスマートフォンをカウンターの奥へと向けてみることにした。


「そーいやナイトさん」

「……ン? ナンダ?」

「気になることあったんで、言っていいっすか?」

「……構ワナイ」

「……」


 え? フグトラ、気になることがあった訳?

 アタシは緊張しながらもスマホの持つ手が震えていた。


「ナイトさんって、姉御の何処に惹かれたっすか?」

Vai(ヴァイ)!?」

「は!?」


 ちょっと待ってよ!

 フグトラ、突然何聞いちゃってんのよ!?

 アタシは思わずスマホを持つ手を落としそうになったが、彼もまた驚いているみたい。


「エト、ソレは……」

「ぉわぁぁあ!? すすす、すみませんっす! まさかそこまで動揺するなんて! 余程姉御に惹かれたんすね。ナイトさん」

「マテ。フグトラ。エト……、イウ」


 しかも、彼は動揺しながらも、ルーマニア語でゴニョゴニョと話しているのが聞こえてきた。


 なので、すかさず翻訳モードになったスマートフォンを翳してみることに。


「M-am îndrăgostit de ea când am văzut-o învingând inamicul cu atâta grație.」

「なるほどっす。ポケトーク越しでも答えて下さるなんて、とても紳士的っすよ。ナイトさん!」

「エト、ハズカシイ……」

「でもそれ、姉御にちゃんと言ったっすか?」

「イッテナイ。彼女、見ルト、言イタイ事、全部忘レル」

「あちゃぁー! それ、相当っすね! まぁ、応援してるんで、頑張って下さいっす!」

「……multumesc(ムルツメスク)


 アタシは呆然としながらも、即座に席に戻ったが、惚れた理由を翻訳した途端、スマホの画面を何故かテーブルに伏せてしまった。


 え? 惚れた理由が『アタシが優雅に敵を倒す姿を見て、恋をしました』てどういうこと!?

 まさか、戦闘面の方を見ていたの!?

 普通、容姿が『可愛い』とか『スタイルいい』とか『美人』とか、見た目を褒める事が多いのに……。何故にそこ?


 しかも、アタシを見ると、言いたいことが全部忘れるって、それホント?

 いつもルーマニア語でサラッと軽口言ってるのに?


「……オ待タセ、致シマシタ」

「!!」


 すると、ナイトさんが従業員の真似をしながら、見た目がビールの様な、綺麗な小麦色をした飲み物を持ってきたのだ。服装は緑色の半袖パーカーにカーゴパンツというラフな格好だけど、その格好で厨房に入って大丈夫なの!?


 でも、フグトラがいるから平気か。うん。

 って、それ、アルコール入ってないよね?


「コチラ、『ソカタ』デス」

「ソカタって……」

「夏ニナルト、ルーマニアデハ、ヨクノム」

「へぇ……」

「アルコール、入レテナイ。安心シテ、イイ」

「そう、なのね……、ありがとう」

「……」


 なので、一口軽く飲んでみると……


「うわぁ! 美味しい!」


 思わず笑ってしまったけど、口の中で芳醇なマスカットの香りが広がってきて美味しいのよ。

 甘すぎないし、酸っぱくもなく、程よくスッキリとした味。レモネードとはまた違う爽やかさでもあったけど……


「……ソレハ、良カッタデス」

「だけど、どうやって作ったの? これ?」

「エト、実ハヒガンさん、新作メニュー、作ル為、色々ト材料、ツブヤキニ、置イテイタ」

「あ。そうなの……」


 まさか、ヒガンさんまで、ここでもテコを入れていたとは……。あの人、どこまで推しに重課金していくつもりだろうか。


「ホントウハ、作ルノ、時間、カカル」

「そうなんだ。でも、どうやって作るの?」

「エト、家ニヨッテ、作リ方、違ウ」

「へぇー……」


 日本で言う『梅酒』とか『はちみつ漬け』と言った部類なのだろうか。

 そういえば、アタシは風邪をひいた時に、よく飲まされていたのが『かりんのはちみつ漬け』だった。そのせいか、どこか懐かしさを感じる味なのよね。


「材料、エルダーフラワー、水、レモン、砂糖。デモ、ヴァルテ家デハ、砂糖デハナク、蜂蜜、入レル」

「えっ!? そうなの!?」


 彼はコクリと頷くと、自身の近くに置いたソカタを軽く飲んで、続け様にこう説明してきた。


「アトハ、家ニヨッテ、様々。レーズン入レタリ、バジルヤミント、入レタリスル」

「へぇぇー!」

「ソレラ、瓶ニ入レ、2、3日置ク」

「なるほど。置かないとダメなんだね」

「ソウダ」


 本当に作り方が『はちみつ漬け』と似ているのね。だけど、決定的に違うのが『水を入れるか入れないか』の違いっぽい。


「アト、軽ク掻キ混ゼテ濾シテ、マタ発酵」

「え!? また発酵するんだ!」

「ソウダ。一度、炭酸ニ、スル」

「へぇー……」

「ソレデ完成ダ」

「おわっ!? 意外と手間かかるじゃん! 大丈夫だったの?」


 あまりの工程の多さに驚いたアタシは、思わず彼に聞いてしまった。


「アハハ! 他ニモ『ツイカ』アル。ソレハ、ルーマニアデハ、有名ナ酒ダ!」

「おぉー。アタシ、こー見えて、お酒飲めるから、1回飲んでみたいなぁ」

「……今度、頑張ル。作ッテミル」

「えっ!?」


 だけど、ソカタを軽く飲みながら、語る彼は笑顔でそう答えると、スマホ片手にポチポチと何かを打ち込んでいたのだ。


「そういえば、今何をして……」

「アァ。メモシテル」

「えっ!?」

「忘レナイヨウニ……、メモ、シテル」

「……」

「今度、二人デ飲ム時、マタ、作ルタメ。ニ……」

「……そう、なんだ」


 思わず喉が乾いてしまったので、ソカタを半分程飲んでしまったが、何だろう。アタシと彼には、こんなにも共通点があったとは。


 実はアタシもまた、何かの拍子でネタを思いついた時は、メモアプリに書き込む癖がある。何ならパソコンのメモにも打ち込んでしまう程なのよ。


「オレバカリ、話シテ、スマナカッタ」

「いや。いいよ……」


 だけど、いい加減、アタシも返事を返さないとね。彼の話を一方的に聞いてばかりじゃ、駄目。


「あ! そうだ。えっとね……」

「ン?」

「あのアジトの時の告白の返事、しなきゃって……」

「アレカ。イツデモイイ……、ノニ」


 しかし、彼はほんのりと顔を赤くしながらも、ソカタを軽く飲んでいたのだ。

 そういえば、ソカタには『アルコール入れてない』て言っていたよね?


「いやいや。ちゃんと返さないと。アタシも、その、前に進めないからね」

「……」

「なんだろう。一種の『ケジメ』ていうやつかな」

「ケジメ?」

「うん」


 そして、アタシはテーブルにグラスを置いて視線を彼のグラスへと向けてみる。


「それと、こんな偶然ってあるんだね」


 すると、何故か彼のグラスの中身も、アタシと同様、ピッタリ半分になっていた。

 だけど、アタシは話している間、彼を見ていたけど、意図的に飲んで調整した訳じゃない。


 と言うのも、今まで見てきた人達は、計画的に落とそうとしてくる、『アホな奴ら』が多かったのが原因かも。


 例えば『カッコつけようと、見栄を張る』奴とか、俺は逃げないと言っておきながら、いざ、その場面になったら『しっぽ巻いて逃げる』奴とか。


 更にいえば、偶然を装って『運命的な出会いだね』て軽口で言ってくる奴が一番信用ならない。だから……


「ワァオ! ホントダ!」

「その驚き方、『計画的に飲んで調整した』感じでは無さそうね」

「……ン?」

「あぁ。今のは翻訳しなくていいよ。翻訳。ダメ」


 ごめんね。ナイト。

 アタシは笑顔で、ポケトークを片手に持つ彼を制したけど、まだ、本心を曝け出すには、正直怖い。

 だけどこの人は、今まで見てきた人とは、何かが全部違う。という確信はあるのよね。


「アハハ。ワカッタヨ!」


 彼は余裕そうに笑いながら、翡翠色の瞳でこちらを見ているけど、その笑みは『計画的じゃない』のが驚きなのよね。

 全部『少年のような純真無垢』から来ている。と思うとゾッとする。


 ほんとこの人は、事の今まで、運を味方にしてきたのかな。


「そうだね。一つだけ言えることは……、ここだけ、翻訳して貰おうかな。ポケトーク貸して」

「!? アァ。イイデスヨ」


 なので、困惑する彼からポケトークを借りると、こう日本語で吹き込んでみたのだ。


「もしかして、アタシと考えている事、同じだったりする?」

Uau(ウァウ)!?」


 すると、何故か彼は今まで見たことの無い様な驚いた顔でポケトークを落としそうになっていた。

 しかも、いつも驚く時はワァオとかヴァイ!? て言うのに……。


「ええっ!? ちょっと大丈夫!?」

「アハハ。ソンナ質問サレタノ、貴女が初メテ……」

「それはそうね。あはは……」

「ツマリ……」


 そして、彼はある言葉をポケトークに吹き込み、こう返してきたのだ。


「Niciodată nu am crezut că vei gândi la fel!」

(貴女も同じように考えるとは思いませんでした!)


「はぃぃい!?」


 ちょっと待ってよ!

 まさか彼も、アタシを試していた訳じゃないよね?

 つまり、全く同じ考えで、全く同じ思想で……。


「あのー」

「えっ!? フグトラ!?」


 ふと、声がする方へ振り向くと、フグトラさんが呆れ気味にカウンターに頬杖を立てながら、突然こんなことを言ってきたのだ。


「なーんかお二人さん、『似たもん同士』っすよね」

「いやいや。突然どうしたの?」

「え? さっきから俺、遠巻きに見てたっすが、お互い『詮索し合ってる』から何そこで心理戦やってるっすか? てなったんすよ」

『はぁぁあ!?』

『ヴァィイ!?』


 驚く声まで思わず揃ってしまったが、この緑髪、間違った事は言ってないから余計に厄介なのよね。はぁぁぁ。


「いっその事『付き合っちまえば良いのに』て、遠目から見て思ってたっす。美男美女でとても似合ってますし~」

「んなっ!?」

「ちょっと! フグトラさん! 仕事しないで何、余計な事を言ってるんですか!」

「はっ!? ミオさん!」


 すると、病院から帰ってきたばかりのヒガンさんとミオ君が、ツブヤキに来店してきたのだ。


 あーあ。とてもややこしい事になった。もぅ!


「フグトラ!  ダメですよ! そういう空気の読まないツッコミは、かえって、二人が緊張してしまいます!」

「は! すみません! お二人さんの空気を壊してしまって!」

「あ。いや。アタシは別に……」

「……」


 彼はというと、あまりの恥ずかしさでテーブルに突っ伏している状態だったのだ。こんな風になるナイト、かなり珍しいかも。


「ヒガンさん! 貴方も人の事、言えないですよ!」

「ひぃぃ! ミオ様ちょっと……」

「貴方だって、タミコさんやリルドさん達の間に割り込んで油売ってましたよね?」

「あー……。ええっと……。あははぁ……」

「お二人まとめて、後でお話がありますので、覚悟しておいて下さいね。フグトラさん、ヒガンさん」

『ひぃぃ……』

「あはは……」


 もしかして、アタシが迎えに来る前にそんな事があったなんて。まさか、ヒガンさんが空気を読まずに、病室に割り込んでいたなんて、ねぇ。

 タミコちゃん、かなりビックリしちゃったと思うなぁ。


「あ。メンコさんとナイトさん、本当にすみません。この空気を一切読まない、読めないポンコツ達は、こちらで説教しておきますので。ごゆっくりどうぞ」

「あ、あはは……」

「あ! それと、ナイトさん!」

「ナンダ!?」


 すると、ミオ君は満面な笑顔で戸惑う彼の耳元でコソコソと言い残すと、再びフグトラさん達の元へと行ってしまった。


「……ハァ」


 彼はと言うと、ソカタを更に三分の一まで飲み干すと、真っ赤な顔でため息をつきながら、アタシから視線を逸らしていたのだ。


 そういえば、そういう仕草、リルドもするよね。特に、タミコちゃんの前で。


「えっと、さっき、ミオ君になんて言われたの?」

「……ソレ、言ワナイト、ダメカ?」

「ええっと……」


 すると、彼は困惑しながらもポケトーク片手に語ろうとしていたが、本当に台詞もそっくりなんだから。


「無理して、言わなくていいよ」

「!?」

「こうなったら、ちゃんと返事、しなきゃだね! 貸して!」

「ヴァイ!?」


 なので、アタシは彼からポケトークを奪い取ると、勢い余って言ってしまったのだ。

 あのデットプールの連中に煽られたから。ていうのもあるかもだけど……。


「貴方もアタシと同じ事を考えているなら、分かるでしょ! アタシも返事は貴方と『同じ』よ!」

「……、Uau(ウァウ)!?」

「これではっきりと分かったでしょ! あー!もう! フグトラ達が煽るから勢いよく言っちゃったけど! はぁー……」

「エト、ソノ……。フゥー……。ハハ。ハハハ!」


 しかし、私と彼はお互いに深呼吸をすると、突然、彼は笑い始め、こう言ってきたのだ。


「ソウクルトハ。オレ、トテモ、驚イタ! アハハ!」

「あら? 笑うだなんて、余裕じゃないの」

「イヤ。余裕、ジャナイ。ゼンゼン!」


 と首を横に振りながら言っているけど、笑ってる時点でアタシの負けなのよ。


「全く……」


 この人もそうだけど、リルドもまた、毎度 そうやって軽口飛ばして、喧嘩の元作ったりするんだから……。


「ナラ、答エ合ワセ、スルカ?」


 すると、彼は三分の一に残したソカタが入ったドリンクグラスを手に取り、示しを合わせるかのように言ってきたのだ。


「なるほど。これで答え合わせをするってこと?」

Da()!」


 なのでアタシも彼と同じように、グラスを片手に、翡翠色の目をした彼を見つめていた。


「準備、できたよ」

「アァ」

「じゃあ、いくね!」

「……」


 そして、アタシと彼は、笑顔で同時に豪快に飲み干すと、同じタイミングでテーブルに置いてみる。


「やっぱり」

「コレカラ、トテモ良イ、付キ合イ、ナリソウダ」

「ま。分かんなかったら、気楽にポケトーク、使うんだよ」

Da()!」


 その結果、『空になったグラス』が二本、テーブルに置かれていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ