生徒会長の趣味が、まさかの『アレ』でした。
「あー。ええっと……」
「いや。龍樹君」
「は、はい!」
「その。どこまで聞いていた?」
「どこまで、とは……」
暫くこんな感じの変な空気が流れていたが、どうしよう。どう言い訳をしようか。
「あーー。その。俺とタミコとのやり取りについて。だ」
「それでしたら、『あのゴスロリの格好、どうだった?』からですね。はっ! すみません! 入るタイミングを伺っていたら、いつの間にか……」
「は? それ、ほぼ全部じゃねーか! うわぁぁあ!」
「ちょっとリルドさん!?」
すると、彼は両手で頭を抱えながら、再び病院の布団に潜ってしまったのだ。
全く。先程のミオ君達に言った、あの切なくも、かっこいい台詞はどこに行った訳?
「はぁ。ごめんね。龍樹君。実は来る前にミオ君やヒガンさんもここにいたのよね」
「あぁ。そうでしたか。まぁ、ミオとは先程会いましたので、学校の話を軽くしてました」
「そうなのね」
「はい。あ! それとですね!」
「ん?」
彼はそう言うと、何かを思い出したかの様に青いメモ帳を取り出し、ある物を見せてきたのだ。
「これって、似顔絵!?」
「あ。そうです。実は僕、入院中、暇だったので、何か無いかと思って、タミコさんから貰ったメモ帳を見て、絵、書いてみようかと……」
そこには黒いボールペンの様な線で、私とリルドの似顔絵が描かれていたが、アニメ調のイラストで、とても可愛い。
「すごーっ!」
「ん? なんだ?」
すると、私の声に反応した彼が、むくりと布団から起き上がると、手に持ってるメモ帳を覗き込むように見てきたのだ。
「これ、俺か!?」
「そ、そうです。人に絵を見せるの、かなり恥ずかしいんですけど……」
「上手いなお前! 何か、絵のコンクールに出したりしていたのか?」
「いや。勉強ばっかりだと疲れてしまうので、片手間で密かには書いていたのですが、趣味と呼べるものではないです。あはは……」
「ぇええええ! でも、凄い上手くない!? こんなに上手かったら漫画家になれるって!」
「そう、ですかね。漫画家というより、『小説』を書いたりする方が好きだったりします」
「へぇー……」
「何だか、自分の事を語るって、こんなにも恥ずかしいんですね」
「え? 恥ずかしいの? なんで?」
「これ、ミオやカンナには言ってない、自分だけの『趣味』みたいなものなので……」
「なるほど……」
彼は照れながらも、私があげた青いメモ帳を大事そうに持っていたが、それにしても、多才すぎないか?
勉強もできて、絵も上手いって。
しかも、漫画より小説の方が書くのが好きって。
ええっと、越智さん。貴方の息子さん、将来、かなりの大物になりそうですよ。文学の方で。
「で、何の用だ?」
「あ。ええっと、タミコさん」
「私!?」
「はい。えっと……、あの時はその、助けてくださり、ありがとうございました!」
「あぁ……」
「お礼を言わないと。て思っていたので」
「それで、わざわざ病室に?」
「まぁ、そうですが、実は先程、ミオやカンナから、盛大に怒られたり、泣きつかれたりしました。しかも、ミオからは『次、一人で勝手に死のうとしたら、絶対に許さないからな!』とまで言われましたので。あはは……」
「あー……」
確か、龍樹君がエナドリとネクターを過剰摂取して倒れた時だよね。
私もまた、副作用でフラついていて、メンコさんに背負われちゃったなぁ。今でも鮮明に思い出す。あの時の光景が。
「そっか」
「急にどうした?」
「んあ。俺も知らない間に飲んじまってよ。ぶっ倒れて1週間入院だからな」
「そうだったんですか!?」
それを聞いた龍樹君は、黒い目をまん丸くしていたが、そりゃぁビックリするよね。
しかも、私の知らない所で、彼は必死に命を削っていた訳だから、何も言えないのよ。
止めて欲しいとか、なんでそんな事をしたの!? とか。安易に口には出せないんだよね。
無責任に見えちゃうかもだけど、彼の場合、それを言ったら『人を助けるのに理由が必要か?』て普通の顔して言い返すだろうし。
「はぁ……」
だから現状、ため息しか出ない。
「あと、もう一つの報告として……」
「うん」
そういうと、彼はメモ帳に書き込んで、それを2枚程破くと、私とリルドに渡してきたのだ。
「えっとこれって……」
「僕の、IDです」
「は? 良いのか? 俺にも渡して。大事な奴じゃ……」
「良いんです。その、今回の事で『一人で抱え込むには限界がある』と知ってしまったので……」
「龍樹君……」
「なので、今後、『良き年上の友達』として、色んな相談にのってもらっても、良いですか?」
「えっ!? 私達でいいの?」
「はい。ミオやカンナには言えない秘密とか、貴方達なら言えると思って……」
「……」
だけど、何だろう。
ミオ君やカンナちゃんにも言えない秘密って、もしかして、越智さん関連の事だったり?
若しくは……。いや。今は深追いするのはやめよう。
「その秘密って、何だ?」
「……今は、ここで言う訳にはいかないですね。父もいるので。それに、だいぶ良くなってきたので、明日辺り、退院することになりまして」
「ほー。おめでとう」
「あ。ありがとうございます」
しかも、だいぶ良くなってきたらしく、明日には退院すると。
だけど、何かと引っかかった私は、彼にこう聞いてみたのだ。
「……もしかして、ミオ君を助けた時の事だったりする?」
「……!!」
すると、彼は一瞬、肩をビクッとさせていたが、まさかなぁ……。
「詳しくはその、ライムで話します。後々、グループを作っておきますので、登録、お待ちしています。では……」
そして、彼は意味深な言葉を残すと、病室から去ってしまったのだ。
「結局何だったんだ? あいつ」
「……」
「そういや、龍樹君は教団からミオ君を助けた事があるって言ってたよな」
「……確か、その時は父親である越智さんには、黙っていたんだよね。でも何で?」
「……」
私達の間には、沈黙が続いていたが、龍樹君、まだ何か、誰にも言えない隠し事があるって言う事?
あの17歳の少年には、どれだけの秘密を抱えていたのだろうか。
「何か」
「どした?」
「あー。っと。越智さんと息子の龍樹君、妙な隔たりがあるように思うのは、俺の気のせいか?」
「それ、実は思っていたけど、あまり言わなかったのよね」
「まぁ、越智家もまた、何かデカイ秘密を抱えているのだろうな。俺がかつていた家『ヴァルテ家』ぐらいな」
「……」
――バァン!
そして、沈黙が再度流れた後、病室の扉が強引に開けられたのだ。
「おーい。タミコちゃん、帰るよー」
「メンコさん!」
「あれから元気そうね。リルド」
「お陰様でな」
彼女は私を迎えに病室の中まで入ると、何故かルンルン気分で飲み物やら色々と買ってきていたのだ。
「はい! これどう? 下の購買に売ってたけど」
「んあ? ジャスミンティーか。ありがとよ」
「さて。あとちょっとで退院なんだから、タミコちゃんのためにも、ちゃーーんと安静してなさいよ!」
「ぁああ!? 安静するに決まってんだろ! ばーか」
「あー! もう! すぐ、ばーかって言うの、やめなさいよ! 全く……」
彼は彼女に軽口を叩きながらも、ペットボトルに入ったジャスミンティーを開けて飲むと、病室の扉を睨むようにし、こう言っていたのだ。
「それに……、ったく。ナイトもそこにいるんだろ? 分かってんだよ」
「Salute! 大丈夫カ?」
「あぁ。心配かけて、悪かった」
「平気、アレから少シダケ……」
「ん?」
しかし、ナイトさんは何故か、病室に入ろうとして来ない。壁からひょっこりと覗き込んでいるのだ。
いやいや。堂々と来ればいいのに。何を遠慮している!?
「日本語、勉強……、チュウ。ダ」
「ふーん……」
「退院シタラ……、ソカタ、作ッテヤル」
「おぉ。楽しみにしてる」
そして、彼はメンコさんに『下デマッテル』と言い残し、病室を後にしたのだ。
何だこの双子。こういう所だけ変にそっくりなんだから。
「じゃあ、行くね」
「あぁ。またな。タミコ、メンコ」
「うん」
「まったね!」
なので、私も彼女と共に病室を後にしたが、少しだけ気になることがあったのは本当だ。
敢えて触れなかったけど、病室に書かれたネームプレートが、彼の本名の『ルーク・ヴァルテ』ではなく、『織越リルド』となっていたのだ。
もしかして、日本で生活をする時は、織越の方を使っていた。て事かな。
でも、織越って何処かで聞いた事が……。
いや。気のせいかな。
今は普通に『リルド』とか、『ルーク』で呼んでいるから、そっちにしよう。
私はあれこれと頭の中で考えながらも、彼女と共に下にある待合室へと向かった。
「ごめんね。待たせちゃって」
「大丈夫。ダ」
「けどナイト。何であの時、病室に入らなかったわけ?」
「え!? メンコさん!?」
すると、彼女は何故か、彼に思っていたことを直球に聞いていたのだ。
「ソレは……」
「それは?」
「……」
暫く沈黙が続いた後、彼はさっ。と緑色の半袖パーカーのポケットから、慣れた手つきでポケトークを取り出し、こう言ったのだ。
【M-am gândit că ar fi rău să întrerup】
(邪魔をするのは良くないと思った)
「邪魔って!? 普通に血が繋がってるから、邪魔も何も無いと思うんだけど!?」
「ええっと、メンコさん。ひとまず落ち着いて。何か事情があるのかも……」
「うーーん。ごめんタミコちゃん。大人げなかったわね。はぁ」
彼女は不貞腐れた顔をすると、先程購買で買ったオレンジジュースを開けてがぶ飲みしていた。
夏の暑さのせいか、私もメンコさんが買ってきた物の中からガサゴソと、ある飲み物を取り出すと、開けて飲んでみたのだ。
抹茶オレ。ふぅ。身に染みる和の味が、私の体に浸透していく。
「……」
「……ぇええ!?」
ふと、それを隣で見ていた彼が、飲み終えた彼女の頭をさり気なく、軽くポンポンと叩くと、こう言い始めたのだ。
「チャント理由。話ス」
「あ。ええ……」
「ダカラ、怒ルノ、ダメ」
「あー。もう! わかった! もう、怒んない!」
「ヨシヨシ」
「うぅ……」
「ええええっと……」
そして、彼は満面な笑みで彼女の頭を撫で始めたので、背後にいた私は呆れ気味にため息をついてしまったのだ。
いつもなら、近くにいるリルドと一緒に、おいおい。て突っ込んだりしているのにな。このリア充め。
「さて。ひとまず先に、タミコちゃんをサーフェスまで送るね」
「あ。分かりました」
あとは二人で楽しくドライブデートって事ね。なるほど。
私はメンコさんの車の後部座席に座ると、降りた後のスケジュールを頭の中で考える事にした。
さて。私はサーフェスに着いたら、溜まりに溜まった依頼を消化していこうかな。こういう時は、仕事で煩悩を消し去るのが一番有効だ。リルドが退院してくるまで、我慢我慢。と。
そして、リルドが退院してきたら、精一杯甘えてやる。心配かけた分、わがままになってやる。仕事も休んでべったりになってやる。
いつもはやられてばっかりだったから、今度は私が絶対、やり返してやるんだから。
「つまり、私が降りた後は二人で楽しくドライブデートって事ですね。分かりました」
「ええええっとぉ!?」
なので、私はロボットの様に、淡々と答えていたが、運転中のメンコさんは、かなり困惑していた。
「E înregula」
『えっ!?』
すると、助手席にいたナイトさんが、爽やかな笑みで言うと、驚く私達をよそに、続けてこう言ってきたのだ。
「アァ。イミ、『大丈夫』ダ」
「なるほど……」
ルーマニア語では、そう言うのね。1個勉強になった気がする。
「美々子、オレガ、守ル」
「えっ!? ちょっとこっち、運転中!」
「ダカラ、タミコ、Nu-ți face griji」
「ふぁっ!? えっ?」
「イミ、『心配シナクテイイ』デス。アハハハハ!」
「……」
何だろう。
ナイトさんはナイトさんで、メンコさんの前だと、突然陽気になって、ルーマニア語を挟んできたり、ポケトークを使うのを忘れたりと、抜けてる所がちょくちょくあるのよね。
やっぱり、その辺も真逆だけど、リルドとそっくりなの、双子だ。て思ってしまう。
「あーー! もぅ! ナイト! 運転中に口説くの、ダメ! 恥ずかしいっ!」
「Vai!」
「あはは……」
一方、彼女はと言うと、両手でハンドルをプルプルと震わせながら、何とか正気を保とうとしていたが、顔はかなり真っ赤になっている。
全く。事故だけはしないように、気をつけてね。メンコさん。
「ふぅー。短い距離だったのに、変に緊張しちゃったじゃないの! もぉー!」
「アァ。スマナカッタ!」
「はぁぁ。スマナカッタ! じゃないよもぉ!」
「あはは……。では、私はここで降りますね」
「あ。ごめんねタミコちゃん! ではまた!」
「はい! えっと、ナイトさんもまた!」
「オォ! La revedere!」
無事、サーフェス付近の駐車場に着いた私は、リア充カップル(影で勝手にくっつけてやった)に別れを告げ、寝ぐらへと帰還することにした。
はぁ。それにしても、外は暑いや。
だけど、周辺の治安は前よりは、ゾンビみたいな人達が居ないから、多少は平和になっている気がする。
とにかく中に入ろう。
なので、私は周囲を見渡しながらもサーフェスがある雑居ビルへと入り、エレベーターの扉を閉めると、首元から社員証を取り出して翳した。
ジャージに隠して持ち歩くのも、だいぶ慣れた。場所バレをしないように、扉を閉めてから社員証をかざすところとかも。
もう、ここにいて、3ヶ月は経っていたんだ。
だけど、天海愛華に関しては『少しだけ』進展した程度で、後は影で珊瑚町の治安を守ったりと、少し停滞気味だ。早く知りたい私にとっては、とても歯痒いけど。
――ガタッ!
そういえば、ゴエモンさんからの『敵味方関係なく全員を欺け』という極秘任務も、色々と見越してああいう事になったのかな。
まぁ、『方法は何してもいい』と言ったので、『目には目を歯には歯を』の方法で、ヒジリには『薬には薬』で、自滅させましたが。
勿論、サーフェスの掟はきちんと守ってやっているので、大丈夫だと思う。うん。
「ただいま」
「お、おかえりなさいですぞ! タミコ氏!」
「あはは。グソクさん。今、仕事はどれぐらい溜まっていますか?」
「それが……、あとはタミコさんでも処理できる程の依頼しかありませんぞ」
「私でも処理できるって……」
まさか、あの『しょーもない依頼』の山の数をまた捌け。と。
まぁ、それは、ゴエモンさんと話し終えた後にでもしよう。
「それと、代わりにワイが軽く、片付けておきましょっか? タミコ氏も休まないと……」
「いや。ゴエモンさんと話してから、考えることにするね」
「分かりましたぞ。まぁ、戻りましたらワイも手伝いますぞ」
「助かります。ありがとうございます!」
なので、私は事務室を後にし、シークレットルームへと向かおうと、トレーニングルームの扉を開けた。
「よっ。無事に終えた様だな。タミコ」
「ゴエモンさん……」
「ま。話はこっちでするか」
「……、はい」
すると、ゴエモンさんが気さくに声をかけてきたので、私は促されるがまま、シークレットルームへ向かう事にした。




