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病室は、何故か賑わっていました。

「……という事でして」

「えええっと……」


 リルドが入院して4日目の事だ。

 私はメンコさんと共にお見舞いに来ていたが、いつもの2人きり状態にされた挙句、ヒガンさんが割り込むように病室にやってきたのだ。


 しかも、半強制的に『素晴らしい情報が取れましたので、良かったら~』みたいなノリで音声を聞かされ、今に至る訳だが、本当にどういう事!?


 まさか、ヒジリの末路をこんな形で聞かされるとは思っていなかったから、私とリルドは唖然としてしまったのだ。


 あ。格好はいつもの黒いジャージ上下に戻りました。一番楽なのよね。お気に入り。


「つまり、ナイトに退職届を持って行った中に『盗聴器』を仕込んだ訳か」

「その通りです。まぁ。ヒジリとはフグトラとも面識があるほど、幹部会には欠かさず出席していた真面目な奴でした」

「でも、薬と信仰で思考回路がイカれた。と」

「そんな感じですね。私やフグトラはベローエを抜けましたが、一応かつての『仲間』でしたから……」

「……」

「ですが、末路があまりにも悲惨なものでしたね。謎のヤツらに連行され、ミステリーボックス行きになるとは……」

「あぁ。シイラの話によると、ヤク中になった奴の臓器や血を売るための『中古品』であり、承認欲求の成れの果てだ。と言っていたな」

「なるほど。ミステリーボックスは、承認欲求の成れの果て。確かにその通りですね」

「でも……」


 あの盗聴器から聞こえる声が、まるで人を『モノ』の様に扱い、その上、『利用して』殺しているのが胸糞悪いというか……。


 それに、どこかで『聞いた事がある声』もしていたのよね。聞いててゾクリと背筋が凍っていたが、あの時私に薬を勧めてきた……、親友に。


「タミコ様」

「……」

「もしかして、その沈黙は何か『知っている』様ですね」

「まぁ。BR(ビーアール)と言われていた人の声が、何処か聞いた事のある声がした。だけです」

「タミコ……」


 確信は無いけど、BRやD2、SCと呼ばれてた『謎のヤツら』はもしかして、『アビス』の人達なのかな。もしそうだとしたら……。


「そういえば、ヒガンさん」

「なんでしょう」

「あの時、何で『とにかく早く脱出してください』なんて言ったのですか?」

「それはそうですね。グソクさんから『不審な赤いパーカーと白い仮面を被った三人組が、ソロモンへ入ってくのを、監視カメラ越しで見えた』て情報が入ったので、慌てて連絡したまでですよ」

「は? 赤いパーカー?」

「え……、白い仮面!?」


 ふと、リルドに会う前に起きた出来事を思い出してしまった。

 確か、その人は黒いパーカーだったけど、『白い仮面』を被った人だったんだ。


 でも、赤いパーカーではなかったから、別人だとは思いたいけど……。


「と言っても、私が着ているパーカーは、『朱色』なので、アイツらみたいな血の色した奴は着ておりませんからね!?」

「ええっと、まぁ、関係ねぇのはわかったけどよ……」

「ヒガンさん。そこまで慌てなくても、大丈夫ですよ」

「リルド様! タミコ様! なーんてお優しいっ!」

「ええっと……」


 だけど、ヒガンさんのやたら高いテンションについて行くのに必死だから、誰か彼を回収してくれないかな。


 内心思いながらも、私達三人は、更に情報を手に入れるため、話を進めることにした。


「それに、D2って言ったっけ? 何処かシイラさんとフグトラさんを足して割ったような喋り方だったよね」

「何だそれ。足して割って、て。まるで錬金術みたいだな」

「いやいや。そこはカクテルみたい。て言うべきでは……」

「それと、SCも何処か、真生くんみたいなキャラだったよな」

「言えてる。真生くんに『知性が無くなったバージョン』て感じかな?」

「それにしても、リルド様もタミコ様も、相変わらず面白いですねー。錬金術とは! しかも、知性が無くなったバージョンって! あははは!」


 彼は盛大に笑いながらも、話を聞いていたが、どうやらツボに入ってしまったようだ。


「でもでも、BRイコール天海さんとは決まっても無いし、確信も無いからね! 二人共、その、早とちりしないでね!?」

「それは流石にねーだろ! けど、本当だったらビビるが……」

「あははぁ! そんな早とちりは……。いだっ!」


 すると、ヒガンさんの銀色の頭に向け、背後からかなり痛そうなチョップをかましたミオ君がいたのだ。


 夏のせいか、茶色い髪も前より短くなり、より男らしくなっていたが、やっぱり目元辺りが真生くんと似ているんだよね。本人の前では絶対に言わないけど。


「ちょっとヒガンさん! 全く。入院患者に何聞かせているんですか!」

「みみみみ、ミオ様ぁぁ!? 何故ここにいるのですぅう!?」

「はぁぁ。龍樹の病室とリルドさんが入院している病室が『近い』から、ついでにお見舞いに来ただけですよ」

「あ。そうなんだ」

「そしたらですね! 病室から物騒な笑い声が聞こえてきたので、何事かと思って見に来たら……、この非常識野郎が、こんな所で油を売っていたのでね!」

「ぃぃいいだだだだだ! みみみ、ミオ様! いだだだだだ! 痛いですってぇ!」

「あはは……」


 そして、彼はヒガンさんのこめかみに向けて、両手で力強くグリグリとし始めたのだ。


「全く。こっちはフグトラさんから、色々と聞いていますからね! タミコさん本人の許可無しで! 勝手に声を使って生成AIを作って! その上! リルドさんにあげて!」

「あははぁ……。それには色々と訳がありまして……」

「それだけじゃないですよね?」

「ギクッ!」


 もしかして、それ以外にも余罪があるというのか。わたしとリルドは呆れ気味になりつつも、静かに話を聞く。


「ナイトさんにあげた浴衣も、まさか、ツブヤキの経費から、勝手に抜いて買ってないですよね? ちゃんと自費で買ってますよね?」

「そこまで私は卑劣じゃないですよ!? 自費ですって! 誰がそんな嘘を!」

「あはは……」


 それにしても、二人のやり取りを見ていると、やっと平穏な日々が戻った。と感じる。

 あの時のバタバタは、どこへ行ったのやら。


「お前ら、ここ病室だぞ! うるせぇって……」

『はっ!』


 しかも、患者であるリルドに怒られてやんの。全く……。


「すみません! リルド様ぁぁ!」

「ごめんなさい! リルドさん! しかし、ヒガンさん」

「は……」

「ツブヤキに戻ったら、色々とお話がありますので、覚悟してくださいね?」

「ええっと、これから私はナイトさんの所に……」

「ナイトさんは関係ないでしょ! 貴方という人は! どんだけ沢山の人を巻き込めば気が済むんですか! こんのポンコツ魔人が!」

「んなっ!?」

「オマケにナイトさんを引き込んだのは良いですけど、従業員のボク達にも一切言わず、勝手にマスターと共謀して『メニューを追加』しようとしていたのは、見過ごせませんからねっ!」

「んなっ! 誰がそれを! ままま! まさかっ!」

「はい。マスターがちゃーーんと教えて下さいましたよ! 『何品かメニューが追加されたからレシピ、覚えておくように』て!」

「ななな、なんだとぉ!?」

「あはは……」


 本日も平和です。先程の情報以外は。


「んで。ヒガンさん、ミオ君さ」

「はい?」

「どうしました? このポンコツ魔人がまた変な企みをしていたとか?」

「ちょっとミオ様。その言い方は……」

「それはねぇけど……。えっと、色々と迷惑かけて、ごめん」


 すると、何故か彼は、ヒガンさんやミオ君の前で頭を下げたのだ。


「謝ることないですよ! 謝るのはこのポンコツ魔人の方です!」

「えええっ!? そんなそんな! リルド様が謝ることなんて一つもないですので!」

「そうだよ。急にどうしたの?」


 周りがあーだこーだ否定する中、彼はか弱く微笑むと、こう語ってきたのだ。


「あー……、言葉では言い表せないけど、今回はその。俺は何もかも、全部一人で解決しようと、していたんだ。過去の事も、タミコの事も、ナイトの事も、全て……」

「……」

「その結果、俺もまた、龍樹みたいにボロボロになっちまったのさ。情けねぇよな。あはは……」


 だけど、想像がつかないほど、弱りきっていた彼は、乾いた笑いをしながらも、何処か寂しそうな顔をしていた。


「……」


 私はそんな彼を見るのは、初めてだったから、暫く言葉が出なかったけど、どう声をかければいいんだろう。


「だけど、タミコは違った。お前はその……、自分が攫われたとしても、囚われたとしても、何故か予想外な方法で、脱出して解決して行ってたんだ。今回だってそうだ。わざわざ服装を交換して、俺達を騙していたのは、正直驚いたがな」

「はぁ。何言ってんの。あれは、たまたま上手くいっただけだから……」

「正直言うが、『運』を味方につけるのも、立派な『才能』だったりするんだ」

「はぇえ? 運? 才能?」


 すると、彼は突然、私の事を褒めだしたので、思わず語彙力を失ってしまったが、まさか、何か企んでいる?


「たまたま。だとか、偶然。とか、タミコは口癖みてーに言うが、それすらも味方にするから、予想外な展開ばっかり起きるんだよ」

「……」

「だから、一緒にいて飽きねーけど、その分、いつの間にか、俺らの知らない所で、敵が増えちまうのが難点だがな」

「リルド……」

「あと、あの時の『再現』にならなくて良かった。と思っているのもあるがな」

「あの時のって……」

「あぁ。シイラが全部の記憶を思い出してしまって、取り返しのつかない事になった。『あの事件』だ」

「もしかして……」

「あの時俺は、ヒジリの時みてぇに、油断して襲われて、首締められてしまってな」

「……」

「それに、その時は何も武器は持っていなくて、為す術もなく、ただジタバタするしか無かったんだ」

「……」

「そして、シイラはたまたま落ちていたナイフを手に持ってな。アイツ、顔色変えず、無表情で、背後から標的の首筋を狙って、突き刺したんだ」

「……ひぃぃ!」


 すると、淡々と話していた彼の隣で、ミオ君は怯えた声を発しながらもヒガンさんの背後に隠れていたのだ。


「悪ぃな。ミオ君のいる前でこんな話、するべきではなかったな」

「いや。気にしないで下さい。驚いてしまいましたが、大丈夫です。もしかしたら、参考になるかもしれない。て思っていたので……」

「何の参考にもならねーぞ。あはは」

「でも、キルマイ騒動の時には、一切その事を語ってなかったので、驚きましたよ」

「まぁ。未成年にはあまりにも刺激がきついのもあるし、あの時近くにアイツの妹もいたからな」

「確かに、カンナさんに聞かれていたらと思うと、どうなった事やら……」

「あ。そういえばあの時、タミコとフグトラに『直接電話で聞いた』て言ったけど、電話じゃねーな。俺もボケたかもしれねぇ。あはは」

「いやいや……」


 リルドまで記憶喪失になったら、私はどうなる訳?

 ふと、普段言わないだろう、軽いジョークまで飛ばしてきたから、思わず否定してしまったけど、冗談はやめてって。


「ま。話は戻すが、あの時、大量の血が床や壁に飛び散ってな。俺は恐怖のあまり、彼の顔を見ずに逃げてしまった」

「……」

「その結果。あいつは今の状態になった訳だ」

「……」

「もしかして、喋りすぎたか」

「……いや。大丈夫。ちゃんと聞いているから」

「そっか。ありがとな」


 彼はふっ。と軽く笑うと、窓越しから見える景色を眺めていた。快晴で太陽の光が病室を照らすかのようで、眩しい。オマケにヒガンさんの銀髪も反射しているから、余計に眩いかも。


「さて。ボクはお暇しますね。ほら! ヒガンさん! いつまでも油売ってないで行きますよ!」

「はぁぁ!? すすす、すみません! ミオ様ぁ! お待ちをぉ~! では、お大事にしてくださいね! リルド様!」

「あはは……」


 そして、デットプールの連中は騒がしい空気を残したまま、病室を後にすると、再びリルドと二人きりになってしまった。


「何か、嵐のような人達だよね」

「あぁ。でも、ああいう奴がお見舞いに来ると、入院生活も退屈じゃねーな。うるせぇけど」

「それは確かに言えてる」

「……で」

「ん?」


 ふと、彼は曇り無き、綺麗な翡翠色の瞳でじーーっと私を見ると、こう言い出してきた。


「何かお前、三ヶ月前と比べたら、一段と覚悟が決まった様な面構えになったよな」

「はぃぃい?」


 思わず変な声が出てしまったが、まるで、ゴエモンさんみたいな口調になってきているんだけど。


「あぁ。危険を顧みずに、淡々と任務をこなしていた所とか」

「ふーん」


 だけど、こう言う事を言っていいのか分からないけど、相変わらず、綺麗な瞳の色をしているのよね。引き込まれそうで……


「ねぇ」

「ん? どーしたお前。ずーっと俺の事見て……」

「あのゴスロリの格好、初めて着たんだけど、どうだったかな? て……」

「どうって……、ぁぁぁああーー!」


 しかし、彼は思い出したかのように、白い掛け布団に真っ赤になった顔を埋めながらも何故か叫んでいたのだ。


 えっと、一体どうした!?


「えっ!? なんか、まずかった?」

「……いや。逆だ」

「はぃい!?」

「まずいも何も……、おいおい。俺に言わせるつもりか!?」

「言わせるっていうか……、単純に気になっただけなのに!」


 何なの!? もう!

 突然、思春期の男子みたいに布団に顔を埋めたりと、挙動不審な行動をしていた。

 そのせいか、丸いパイプ椅子に座っていた私は呆然としてしまったが、どういう事?


「くそっ! ぁぁぁ! こんな場所で言える訳ねぇだろ!」

「……はぃい?」


 オマケに、布団に顔を埋めながら、こんなことを叫んではのたうち回ってるのよね。

 おいおい。先程のかっこいいリルドはどこへ行ったのやら……。


 あれ? でもこの場面、前にも似たような場面があったのよね。

 あの時は、私が布団に蹲っていた側だったけど。


「だってそれ言ったらよ! メンコとか、他の人に聞かれたら恥ずかしいし。オマケに隣の病室に『龍樹君』もいるから……」

「え? 普通に思っている事を言えばいいのに……」

「そんなの軽口で言えねぇって……」

「ふーん……」


 なので、軽くからかってみるが、その辺は彼、お堅いのね。

 暫くじーっと彼を見つめていたが、布団に顔を埋めたままなのよ。まるで怯える子犬みたい。


「じゃあ、あんまり、あの格好、しない方がいい?」

「……いや。違う」

「え? ちょっ!?」


 すると、彼はバッ。と、布団を跳ね除ける様に飛び起き、私の両手をガシッと掴むと、顔を真っ赤にしながらこう言ってきたのだ。


「えっとその。かなり、似合ってたから、また、着て、くれないか?」

「……はぃいい?」

「これは、えええっと! 本当の、事、だ。なんて言うか。なんなら、写真撮って送って欲しい!  大事にその……、保存するから」

「ええっと……、はぁあ!?」


 彼からのとんでもない告白に、私は雷が打たれたような衝撃が走ってしまったが、保存するから送って欲しい。ってどういう事!?

 ナイトさんみたいに、ストレートに可愛い。とか美しい。ならわかるけど、あまりにも収集癖すぎるって。


「あの……」

『ふぁっ!?』


 すると、病室の扉から声がしたので、私とリルドが思いっきり扉方へ振り向くと……


「ごごご、ごめんなさい! ええっと、もしかして、お取り込み中でしたか?」


 そこには隣の病室で入院中の、龍樹君が驚いた顔をしてこちらを見ていたのだ。

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