回想 私が記憶を失った原因は、まさかの元親友でした。
*
「じゃあさ、一緒にハイになろうよ! ワタシさぁー、多美子と楽しみたくて、持ってきたからさぁー!」
「……」
「大丈夫。飲んだら楽になれるよ。ぜーんぶ忘れちゃおう! ね!」
「……」
あぁ。思い出した。
この意識が遠のくなった感覚。あの時、私は彼女に促されるがまま、『薬を飲んだ』んだ。
しかも、『多量』に。
そして、倒れた私は目が覚めたら、一面、コンクリートでできた床と壁。それ以外は何も無い監禁部屋みたいな所で、異国の人が、4、5人いたのよ。みんな日本語が『通じなかった』けど。
あぁ。これで繋がった。
私は彼女に『嵌められた』んだ。
親友だった人『天海愛華』によって、私は闇のオークションへ『売られた』のを思い出してしまった。
だから、あの時は『竜宮多美子』という商品として、自分自身が売られていたんだ。
それに、値段が他の子より跳ね上がっていたのも『サンプルの人』だったから。
これで全部繋がってしまった。
そして、より明確に『復讐』する理由までもできてしまったんだ。
クラブハウスでの出来事もあったが、何で事の今まで、生きてこれたのか。
――ガシャン!
そういえば……。頑丈な扉は何故か壊され、この中で、壮絶な乱闘があったんだよね。
この時、私はあまりにも突然だったから、気絶してしまってその後、どうなったのかはさっぱり分からなかったけど……。
「……はっ!」
目を覚ますと、そこは病院みたいな施設らしき場所だった。
沢山の管が繋がれ、身動きができない中、ある人が私の所にやってきて、こう言ってきたんだ。確か……。
*
「……」
肝心な所で目が覚めてしまった。
あぁ。どうしてこういう夢は、見たいところで起きてしまうんだろうか。いっその事、グソクさんに頼んで作ってもらおうかな。夢が解析できるアイテムか何かを。
いや。そんな事より、演じないと。彼を。
そういえば、ベット付近に置いていた沢山のいちごミルクの缶が入ったエコバック、手に持っていて良かった。
「あれ?」
周囲を見渡すと、黒いパーカーを着た彼だけ、別の場所に連れていかれたのだ。
なるほど。これで黒幕 鰒川 聖の思惑が分かってきた。
確かに彼は私を狙っていたが、それは『教祖』に捧げるための『供物』だったのだ。
そして、私はと言うと……。
――ガチャッ。
扉が開かれ、私がいる部屋の中には、中年の男性が入ってきたのだ。見た目は若そうに見えるが、目の焦点が合っていない。典型的な、常時薬をやってる人の顔で、彼の黒髪も、頭皮が見える程薄くなりつつある。
「……」
「さぁ。我と共に行こうか。丁度、お前を返せと言ってきている、うるさい奴がいてな」
「……」
幸い、身長があまり変わらなかったせいか、相手からは全くバレていない。
それと、真生くんを使う目的は『シイラさんを揺さぶるための駒』でしか無かったのだ。
でも、それが単純にムカつくのよね。まるであの時の意思が無かった『私』を再現しているみたいで。
「お前はただ、黙っていればいい。分かったか?」
「……」
なので、静かに頷くと、密かにパーカーに隠し持っていたスマートフォンを二台、録音開始にしておいたのだ。
どんな話が聞けるのだろうか。
今からでも楽しみだ。
だけど、バレないようにしなきゃ。
バレないように。
「ところで……」
「……」
「そのエコバッグの中身は何だ?」
「……!」
まずい! これはある物を作るために必要な物なのに! どう言い訳をしようか……
「いちごミルク味の、ジュースです」
なので、真生くんの声真似で答えることにした。バレないようにしなきゃ……。
「ほーん。でも、着いたら没収な」
「……」
何だそれ。没収されないように、着いたらどこかに隠しとかないと。
なので、彼が器用に51番の扉を開けて中へ入ると、テーブルが見えたのだ。
そこには両腕を組んでイラつきながらも、彼を睨むシイラさんがいたのだ。
あ。シイラさんだ。普段穏やかに笑う彼がここまで怒りを滲み出している、という事は、この人が鰒川 聖か。
そうだ。これを彼の近くにこっそり置いてみよう。没収されたら色々と厄介になる。
なので、彼の視線を気にしながら彼の隣にあるパイプ椅子へ向かおうとするが、バレないように。
私は彼とは反対側に座るシイラさんの近くをわざと通って、さり気なくエコバッグを置いた。
「……?」
彼は一瞬、首を傾げていたが、直ぐさまにヒジリの方へ顔を向けたので、バレてない。良かった。
「……」
私は無言でそっと座ると、ポケットに両手を突っ込んで彼らの話を聞くことにした。
「おい」
「……」
「あの、いちごミルク味のジュースが入ったエコバッグは、どうした?」
「……」
「まぁ。いい」
「……」
しかし、終始黙り込むと、彼はため息混じりにつまんなさそうな顔で、言葉を吐き捨て、こう切り出していたのだ。
「本日はなんの御用で? こちらは忙しいので早急にお引き取り願いたいのですが……」
「……とぼけても、無駄ですよ。貴方のことを、全て調べましたので。言い訳は無しでお願いします。鰒川 聖さん」
「はぁー。やれやれ……」
「……」
何なんだろう。こんな鬼のような顔をしたシイラさん、初めて見るんだけど。
私は息を殺すように唾を飲み込みながら、大人の話をしていく彼らの話に、耳を傾けてみる。
「我の事を詮索しても良いことなんて、何一つないんだがな!」
「では、今から答える質問に、『はい』か『いいえ』でお答えください」
「ん? 突然何だ?」
「はい。か、いいえ。だけで答えてください。言い訳は無用です。日本人である貴方ならこの言ってる意味、分かりますよね?」
でも何だろう。聞いているうちに、ものすごくイライラしてくるのよね。喋り方も上から目線で、とてもムカつく。
だけど、シイラさんはあんなクソな相手に対しても、冷静に淡々と対応しているのよ。
流石闇ブローカー。と言ったところかな。
私はポケットの中で、密かに握り拳を作っていたが、その際、紙らしきものが手に触れた気がした。
何だろう。真生くんが、ポケットに入れっぱなしにした物かな?
あいつの視線が逸れたうちに、後で読んでみよう。
「1つ目。貴方は今、巷で騒がせている『ドラックルームスープ』の管理人ですか?」
「如何にも」
「2つ目。貴方は過去17年、真生に一度でも、暴行を加えたことがありますか?」
「……!」
「答えて下さい。『はい』か『いいえ』で」
「……」
だけど、2つ目になった時のシイラさんの顔が、かなり怒りに満ちた顔になっていたのだ。
「はぁ……。はい。だ」
ヒジリはというと、何故かフケだらけの頭をボリボリとかきながら、ため息混じりに答えたのだ。
ちょっと、その頭でかかれたら、折角真生くんから貰った服が、フケだらけになるんだけど。クリーニング代を多めに請求してやろうか。
「……」
なので、思わずフード越しから睨み返していたが、隣にいた彼は面倒くさそうな顔でシイラさんをじーっと見つめていた。
「なるほど。では3つ目。貴方は今まで、『間接的』に人を殺したことがある。はい。か、いいえ。か」
「は? 間接的だと?」
これは確か、『匿名の語り場』を初めとしたサイトを使って『直接手を下さずに殺したか』どうかを聞いているのかな。
ふと、今まで起きていた出来事を、私は頭の中で整理をしてみる。
事の発端は、再婚相手の母による『スパルタ教育』によって、何もかも追い詰められた龍樹君が『匿名の語り場』で居場所を求めていた事から始まったんだよね。
それから10年前にも、メンコさんの親友、アンナさんが龍樹君と全く同じ方法で『匿名の語り場』へと入り、そこの人らと仲良くなって行った。
しかし、それは『依存漬け』という地獄の扉への入り口であり、『パキりルーム』で快楽だけを身体の深部にまで刻み込み……。
最期は『限界チャレンジ』で際限なく飲んで飲んで飲んで……、逝く。
という無限地獄そのものだった。
あの時、リルドが物理的に外部から強制終了をしなかったら、今頃私はここにいたのかどうかも分からない。
龍樹君はと言うと、致死量のエナドリとネクターを飲んでしまったが、改良版に手を出す前にぶっ倒れて入院した事により、事なきを得たのよね。
オマケにあの変な飲み方で『全部を飲みきらなかった』という奇跡的な事もあって、現時点では、運良く犠牲者は出ていない。
「もう一度言います。貴方は『間接的』に人を殺した事がありますか?」
「……はい。でいいか?」
「やはり。4つ目。貴方は『パキりルーム』でイカれた人達が倒れた際、わざと『海横総合医療センター』をサイト内で勧めたことがある。はい。か、いいえ。か」
「くっ! まさか知っていたのか!?」
「えぇ。わざわざドクター越智が務める病院へ搬送させるなんて、とんだ宣伝でどうも」
「こんの野郎……!」
彼は隣でわなわなと両肩を震わせていたが、これはヒガンさんやグソクさんが言っていた、『越智院長』が務める病院に搬送される患者がほぼ、『溜まり場』にいる人達ばかりだ。という話のことだね。
まさか、サイト内で密かに勧めていたとは。
「答えてください。はい。か、いいえ。か」
「……はい。だ」
「5つ目」
「お前! まだあるって言うのか!」
「当たり前ですよ。貴方は言い訳ばかりするし、嘘も平気でつくし約束も破る。信用なりませんから」
「クソッタレが!」
「それに、『はい』か『いいえ』で答えて下さい。と僕は言ったはずです。御託はうるさいので、黙ってもらえますか?」
「くそっ!」
おまけに5つ目があるって。
きっと、色んな質問を沢山用意して、彼に挑んでいるのだろう。
「では、5つ目。ドクター越智の元にいる再婚相手は、『鰒川家』の身内である。はい。か、いいえ。か」
「……はい。くそっ。そこまで調べていたのか」
「えぇ。隅々まで調べておきましたから」
「……」
やっぱり。まさか最初から鰒川家は越智家を集中的に狙っていたのね。しかも、『家庭内』にまで。
「6つ目。溜まり場近くの雑居ビルにて、薬でイカれた連中がアジトに押し寄せてきたが、あれは自分がサイト内で指示を出していたから。はい。か、いいえ。か」
「おいおい。そんな所まで調べてきたって言うのか」
「えぇ。僕が帰った後、大事な仲間が薬でイカれた連中に襲われた。て、直接連絡が入りましたから」
「……はぁ。ここまで来たら、やけくそで答えてやる! はいだ! はい!」
「……」
なるほど。シイラさんの誘導のおかげで、どんどんボイスレコーダーと化したスマホ二台に情報が集まってくるのが感じる。
しかも、全部『はい』に向かっていくように、質問をわざと誘導しているようにも聞こえるのよね。本当、この人は言葉巧みに人を『コントロール』をするのが上手い人だと思う。
「7つ目。『ドラックルームスープ』を作った目的は、『金儲け』ができるから。という理由である。 はい。か、いいえ。か」
「はい。確かに広告料で儲かっていたのは、事実だがな」
「8つ目。一週間前に来日した一人の外国人を雇い、『真生を攫え』と命令をしたことがある。はい。か、いいえ。か」
「はい、だな。一向に連絡が来ないから何をしているのやら……」
「……」
「9つ目。貴方はベローエの他、『別の組織』とも繋がりを持っている。はい。か、いいえ。か」
「……はい。だ」
「……!」
私は思わず声が出そうになったが、別の組織って、まさか……、アビス!?
徐々に明らかになっていく一方、ヒジリは面倒くさそうにあくびをしたりと、どこか余裕な表情をしていた。
なんなの、この不潔な人。早くここから離脱したいけど我慢をしなければ。
「そして、最後の質問です。貴方は真生とは血が繋がってない事を、悲しいと思ったことがある。はい。か、いいえ。か」
「それは無いな。いいえ。だ」
「……は?」
「……」
しかし、次の質問をした際、彼は明らかに怒りを含めた声で、相槌を打っていたのだ。
だけど、それは彼だけではなく、私も同じ気持ちなのよね。
隣で聞いていて、ここまで不愉快な人間は、初めてかもしれない。
「だって、アイツは本当に『俺の子』ではないからな。信者だった俺の妻が、供物として教祖様とくっついて、産んだ子だ」
「はぁぁ……」
「……」
「証拠ならある。なぜなら我は既に『性機能』を失っているからな」
『……!!』
おまけにこの不潔な男 ヒジリは平然と鼻くそをほじりながら、爆弾発言をしてきたのだ。
托卵して産んだ子だから俺の子ではない。しかも性機能も失われているから、血が繋がっていないのも事実。
かと言って『道具』やら『駒』にしていい訳がないのよ! 真生くんだって、ちゃんと自分の意志を持った『人間』なのだから。
私は怒りを抑えながらも、更に深い話に耳を傾けてみる。
「それで、駒にしてもいいし、道具として盛大に利用しよう。と」
「如何にも。どっちにしろ、生きてりゃ教祖様のシモの相手にはなるだろ」
「ふーん。でしたら、『真生』がここにいるのは分かっています。僕に返して貰えませんか?」
「は? コイツはまだまだ、我の元でこき使って貰わねーといけねーから、無理だな!」
「こき使う? 何言っているんですか。真生は『奴隷』ではありません」
「それに、あのサイトに関しても、我は知らぬ。勝手に参加した奴らが、サイト内で勝手にズブズブとハマって、勝手に死んじまっただけだろ? 関係ないな」
「……」
「まぁ、その死体も全て『自然死』であれば、死ぬのも本望では無かろうか。いずれ、生き物は輪廻転生して、生まれ変われるのだからな!」
「……」
でも何だろう。聞いててさっきから論点がズレた様な話しか、していないのよね。
最初は真生くんの話をしていたのに、いつの間にか今は『教祖様』や『自然死』の話にすり変わっているのよ。
もしかして、薬の影響?
「……はぁ。全く話になりませんね。こちらとしては早く『真生』を返して下さい。て言っているだけですが……」
「それは無理な話だな。あのガキともう一人の女は『教祖様』に献上する用でとっておこうと思っていたのでな」
「もう一人の女?」
これは、私の事かもしれない。教祖様に献上する用。か。まるで物みたいな言い方で、とてもとても腹立たしいが。
「しかも、教祖に献上とは。相変わらず、聖さんは、『ベローエ』という、ろくでもない宗教団体に加担しているのですね」
「はぁ。我の事はわざわざ詮索しなくてもいいだろ。もう。とっとと帰れ。話す事なんて、一つも無いのでな」
「なら、『真生』をこちらに返してからにしましょうか? ドクター越智が貴方に金銭を支払ったのと、話し合いをしたのにも関わらず、そちらから一方的に約束を破るなんて。常識的にも信じられないですよ。頭イッちゃってますよね」
「はっ。貴方という人は、どういう教育を受けてきたのやら……」
その言葉、そっくり貴方に返しますよ。と。
心の中で思いながらも彼がシイラに目を向けている間、ポケットに入ってた紙切れをそっと開くと……。
―― ドゥーテ・ドラクルイ ――
だけ、可愛らしい文字で書いてあったのだ。
まさかこれ、真生くんが書いたのかな。どういう意味か分からないけど、最後の決め台詞みたいに言えばかっこよさそう。よし。
「こう見えて、僕は『常識』もある方ですよ。貴方の方こそ、一番そこが『欠落』しているんじゃないんですかね?
「本当にそう思うか?」
「と、言うと?」
「君、そんな事して、大丈夫なのかな?」
「さっきから貴方、訳分からない事を言ってますね。もしかして、僕を陥れようとしています?」
「陥れるだなんて。人聞きが悪い。ははは」
「……」
「実の妹には『両親を殺した』事を隠していた。というのに?」
「……!」
すると、シイラさんの片眉が一瞬、動いたが直ぐさまにこう切り出していたのだ。
「それに関してはまだ、彼女に打ち明ける『機』が来ていないだけですよ。嫌だなぁ」
「でも、いつまで隠すんだぃ? 何れ『バレる』というのに……」
「まぁ。それは別にどっちに転んだとしても、僕は結果を受け止める。それだけですよ。ですが、貴方こそ、良いんですか?」
「な、何がだ?」
――ガチャッ!
すると、音がしたので扉の方へ目を向けると……、
「んなっ!?」
「……!」
「ぉおおあれぇ~!?」
シイラさん同様、フグトラさんとナイトさんが、怒りを滲ませた表情で部屋に入って来たのだった。




