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マリアナに堕ちたのは、親友ではなく、私でした。  作者: Ruria
ドラッグルームスープ編(後編)
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sideリルド&タミコ 今回の計画の立案者は、まさかの〇〇でした。

「おいおい……」

「……ふぅ。やっと逝ってくれた」


 ピンク色のパーカーで、ゴスロリ姿の彼女は、日本語を話しながらも、床に横たわっているヒジリの体を足で揺さぶっていた。


「まさか、殺しちゃった?」


 シイラはケロッとした顔で聞いていたが、彼女は首を横に振りながらこう答えたのだ。


「死んでないよ。仮死状態になっているだけ」

『仮死状態!?』

「それに、私自身、『直接殺してない』からね。こいつが勝手にタバコを吸って『自害』しただけ」

「おいおい……」


 しかも、彼女はフードを外すと、子猫のような見慣れた顔をした女 タミコだったのだ。


「ええええっ!? あのピンクパーカーの人、タミコさんだったんすか!?」

「そうだよ。驚いた?」

「そりゃぁ驚くっすよ! まさかそんな格好をしていたとは……」

「ちょっと待て。タミコ」

「え?」


 俺は戸惑いながらも、今まで起きた事を冷静に整理しようとするが、彼女の見慣れない格好に、思わず目を背けそうになってしまう。


 くそ。どんな格好をしていても、お前って奴は……。


「えっとその、部屋の片隅でパソコンを弄っている黒いパーカーの奴はもしかして……」


 すると、部屋の片隅でパソコンを弄り終えた黒い奴が、猫耳が付いたパーカーのフードを脱ぐと……


「えへへぇ! タミコさん! 無事にサイト、閉鎖したよぉ!」

『ぅぇえええええええ!?』


 彼女と同じ髪色で、髪型はウルフカット姿でニコッと笑う真生くんだったのだ。確かに身長は変わらなかったけど、この二人、まさか互いに服装を『交換』していたとはな。


「まままま、真生!?」

「ぅん! しぃらぁぁ! 会いたかったぁぁ!」

「……」


 アイツはと言うと、無邪気に彼に抱きつく真生を優しく抱きしめ、声を殺して泣いていた。

 普段ケラケラと変な言葉を喋るアイツが、感情むき出しで泣くだなんて。な。


「ワァオ! ピンクノ人、タミコサンデシタカ!」

「驚かせちゃってごめんね。ナイトさん」

「イエイエ! ソノ格好、トテモイイデスネ!」

「あー。着慣れないせいか、足が少し、スースーするかな」

「エト、サッキ言ッタ言葉、イミ、ワカリマスカ?」

「え? あー。たまたまこのパーカーの中に、紙切れが入ってて、それを言っただけなのよ」

「アハハァ! ナルホド!」

「え? どういう意味なんですか!? ナイトさん! 教えてください!」

「俺も気になるっすよ! ドゥーテ・ドラくるい、でしたっけ!?」


 一方、デットプールの連中とタミコはというと、何故かナイトが意味ありげにニヤニヤと怪しく笑っていたのだ。


 ったく。ナイトの野郎。小さい頃からそうやってからかうの、好きだよな。


「Du-te dracului(ドゥーテ・ドラクルイ) イミ、『地獄ニ堕チロ』デス」

「ひぇええええ! 和訳したら怖すぎっすよ!」

「へー。正にピッタリの決め台詞だった。てことね!」

「えっとタミコさん。そこ、納得するとこっすか?」


 俺は軽く雑談する彼女を隣で見ながら、今まであった事を整理することにした。

 そういえば、黒い奴は誰なのか、実は何となく察していたんだよな。あの時点で。




「安心して下さい。タミコさんは無事です」

「……は?」

「ぼくはメインのパソコンを使って、あの闇サイトを閉鎖するお手伝いをします」

「……。……」

「なので、あの人の隣にいる彼女を助けて下さい。お願い致します」

「……あ、あぁ」




 だけど、結局は俺が助けることもなく、彼女が間接的に制裁を行う形で、ヒジリは『自害』をしたんだよな……。ん?


「あのさ。タミコ」

「……ん?」


 かなり気になった俺は、隣で平然としている彼女に聞いてみることにした。


「お前。どーやって、あいつを『自害』させたんだ?」

「それに関しても、ちゃんと説明するね。ま。しばらくこのクソ狂信者は起きてこないから、安心してね」

「安心してね。って。あのよ……」


 呆れ気味に返したが、今思うと、メンコの言う通りかもしれねぇ。



――そんなやわな子では無いと思うのよ。とても心が強くて、正義感もある優しい女の子よ。



 あぁ。俺には勿体ないほど、危なっかしいが、変に肝が座った女だ。

 思わずふっ。と笑ってしまったが、後は彼女に任せ……


「リルド!?」

「……あ。悪りぃ」

「今、一瞬、意識飛んでなかった?」

「べ、別に。ただ、結構飲んじまったかもしれねぇ」

「飲んじまったって……」

「安心しろ。シイラの部下特製の『セレーヌ』を飲んだだけだ。それよりも、早くみんなに説明を頼む」

「う、うん。ひとまずここ! 席に座って!」

「あ。あぁ……」


 なので、俺は焦る彼女に促されるがまま、パイプ椅子に座ったが、なんだか頭がグラグラする。


「フグトラ。ナイト、シイラ、真生くん」

「何すか?」

「ナンダ?」

「なになにー?」

「何ですかぁ?」

「俺の代わりに、タミコからこの状況になった説明を聞いてくれ。ちと、軽く寝る」

「はぁ。分かったっすよ。聞いたらヒガンさんにもお伝えするっす」

「アァ。 înţeles(インテレグ)。ヤスメ。ルーク」

「ムルツメスク。ナイト……」


 俺は久々にルーマニア語で軽く答えると、頭痛を抑えるため、テーブルに突っ伏していた。


「分かったよー。真生」

「ん? なーに?」

「タミコちゃんからの説明によっては、僕は怒んないといけないからねー。覚悟しとくんだよ」

「ふぁーい」


 けど、近くにいるせいか、こいつら地雷カップルの言葉は、はっきりと聞こえるんだよな。シイラの奴、珍しく保護者面してやがる。


「さて。みんな、いい?」

「おっけーっす!」

「いいよ~」

「うん!」

「……」


 彼女の一声によって、それぞれが返事し、俺はテーブルに突っ伏した。

 そして、ナイトは壁に寄りかかりながら両腕を組み、無言で頷くと、彼女はこう話を切り出したのだ。


「えっと、今回……」






「ぼくからの『依頼』、聞いて貰えますか?」

「依頼?」


 私は思わず聞き返してしまったが、彼は今まで見たことの無い程の、真剣な表情をしていた。

 だけど、何だろう。私を見つめる彼の茶色い目は、まるで心が無いお人形の目みたいで、何処か無機質な感じがするのよね。


「はい。ぼくの……、いや。『鰒川 (ヒジリ)』を、消して欲しいのです」

「……はぁ?」

「そうですね。『ラブズナトアレ』の主人公みたく、『間接的』に制裁をしているところが、見たいんです」

「見たいって……」


 開いた口が塞がらないほど驚いてしまったが、本当に17歳の子が言う言葉なのだろうか。時たま、画面から飛び出たAIと話している気分になるんだけど。


「あ! 興味本位。というのもあるんですが、あの人さえいなければ、シイラさんはあそこまで思い詰めないのにな。て」

「ええっと……」

「だから、相手がぼくを育てた身内であっても、シイラさんの邪魔をする人は、正直に言って、消えて欲しいって思っているんです」

「そそ、そうなんだ」


 もう、どこからツッコめば良いか分からなかったけど、言いたいことは何となくわかった気がする。

 つまり、メンコさん同様、『社会的に制裁』をしたい訳ね。それにしても、彼から発する言葉の一個一個が、かなり物騒なんだけど。


「ぅん。ぼくとシイラさんの目の前に、現れないで。て。いっその事、過剰摂取で苦しんで孤独に死ねばいいのに。て」

「ええっと……」


 何だろう。あの三姉妹がいたラボの時よりも、数百倍、恐ろしい事を言っているんだけど。


 思わずかける言葉を見失ってしまったが、彼の口から出てくる狂気的な言葉は、紛れもなく『本心』なんだろう。だって、制裁する相手は『薬で頭がイカれた養父』なのだから。


「ぅん。この事、タミコさんにだけ、言うんだけどね! ええっと、あ! それよりもぼくからの依頼、受けてくれますか?」

「まぁ……、丁度、同じ人を『社会的に制裁して欲しい』ていう依頼も入っていたから、いいけど、報酬は? 私もタダで仕事をやる訳にはいかないからね」

「やった! えっと、流石に命の危険もあるのに、報酬は無し。っていうのは、相手にも失礼にあたるのでやりません。その辺は安心して下さい!」

「そ、そうなんだ」


 だけど、その辺の常識はあるのが、この子の不思議なところなのよね。普通は溜まり場の人達みたいにネジが飛んでいても可笑しくはないのに。

 それに、シイラさんみたく、変に倫理観がバグっている訳ではなくて、ちゃんと『頭は良いけど無自覚でやっている』という所が、余計に怖いのかもしれない。


「ぅん! ええっと、報酬は『ぼくが今着ている服、一式』をあげる!」

「ぅぇぇええっ!?」


 ちょっと待って。今着ている服一式が報酬って、聞いたことがないんだけど!

 しかも、ゴスロリワンピースにピンクのパーカー、5センチある黒い厚底の靴かぁ……。

 あまりの報酬に、驚きと戸惑いが同時に現れたのだが、そういえば真生くんって、男の子なんだよね!?

 それを聞いたら私、シイラさんに殺されそうになるけど、大丈夫!?


「あ。驚いちゃいますよね。実はこれと似たような服が、家に30着以上あるので、1着タミコさんにあげても、何の支障もありません! 安心して下さい!」

「ええええっと……」

「あ! ちなみにこの服、かなり高かったのですよ! しかも新品でブランド物と言っていたので、この一式だけで靴も含めて、10万近くはしますね。えへへ!」

「ぇえええええ!」


 もう、どこまで突っ込めばいいのか分からないんだけど!?

 彼も彼で、満面な笑みでペラペラと話し続けていたが、もしかして、心を開いた相手には、子供みたいに素直になって懐くタイプだったり?

 まるでジャコウネコみたいで驚くんだけど。

 

「そそ、そんな高いの、いいの? しかも大事なやつじゃ……」

「実は、洋服に関しては、カラマリアに来てから増えたんですよ」

「え!? そうなの?」

「ぅん! 三人のお姉様達が、何故かぼくに沢山の服を買ってくるのです。誕生日でも無いのに」

「そ、そうなんだ」


 なるほど。こっちは『貢がれている側』なのね。

 例えるなら三姉妹が、ヒガンさんみたいな『貢ぐ側』で、真生くんやリルドが『貢がれている側』という事か。

 しかも、三姉妹だから『3着』は確実に貰える訳で、そりゃぁ、服も知らぬ間に増えるよね。うん。

 オマケに好みも見事に別れていたなら、恐らく、ゴスロリから甘ロリ、地雷系まで、ありとあらゆるジャンルの服が、自然と真生くんの元へ集まってくるシステムになっているのだろう。


 まるで熱狂的なファンから、一方的に貢がれる人気地下アイドルみたいな立ち位置になっているけど、大丈夫!?


「あと、ぼく自身も、たまには違う格好をして、シイラさんを驚かせたいなぁ。なんて思っているんです。えへへ」

「違う格好……。ねぇ!」

「ん?」


 すると、閃いた私は彼に、ある提案を持ちかけてみたのだ。


「私の服一式と、真生くんの服一式、互いに『交換』する?」

「えっ!?」

「あの、交換と言っても、そのまま服は持ち帰って普段着として着てもいいし、返さなくてもいいよ。という事なんだけど……」

「それってつまり……」

「入れ替わりドッキリ! かな」

「入れ替わり! いいね! 面白そう! わーい!」

「そう。私は『真生くん』の格好をして、真生くんは『私』の格好をするの」

「うんうん!」


 これで、ゴエモンさんからの依頼もこなせそう。まさか真生くんがここまで協力的なのも、正直驚いちゃった。


「でも、その代わり、私からも真生くんに依頼がしたいけど、いい?」

「ぼくに?」

「そう。真生くんにしかできない依頼をね。その報酬として、私の今着ている服を、一式あげる。というのはどうかな?」

「わぁぁ! つまり、お互いの報酬は『それぞれの洋服一式』って事だね!」

「うん。それに、互いに『なりきれ』ば、真生くんも吐き気がするほどの人に会わなくても済むし、私はそいつから情報が集められる。利害は一致していて、最高じゃない?」

「う、うん! まるでドラマの主人公みたいでカッコイイよ! ちなみにぼくは何をすればいい?」


 そして、ノリ気になった真生くんは、更に内容を詳しく聞くために、身を乗り出してまで聞いてきたのだ。確かヒガンさんが一個、フロントにあるパソコンを弄っていたのよね。

 だけど、部屋にあるかもしれない、メインパソコンの電気の供給元は、全て『盗電』で賄われている物だろう。こんな廃墟に電気なんて、そもそも通らないんだから。


「ええっと、養父さんがいる部屋に入ると、どこかに『パソコン』があると思うんだ」

「うんうん」

「そこから『ドラックルームスープ』の管理ページを見つけて、サイトを削除すれば、多分、大丈夫だよ」

「んーと、見たらわかるかな?」

「そうだね。ページは見た事、ある?」

「うーん……」


 ふと、キルマイ騒動の時に、フグトラが言っていた『管理ページ』を削除する方法を思い出した私は、彼に軽く方法を教えてみることにした。


「あの人がパソコンを弄って、何かしていたのは、バレない様に遠くで見ていたから、何となく分かる。パスワードなら、覚えているかも」

「凄っ!? それだけでも十分だよ!」

「ほんと!? みんなの役に、立てる?」

「うんうん! それと、もう一つ聞きたいことがあったんだ。聞いてもいい?」

「いいよぉ!」


 なので、ニコニコ笑顔の彼に、こう話を切り出してみる事にした。


「真生くんって、もしかして、三姉妹が作った『3種類の薬』と『ネクター』を、併用して飲んだこと、ある?」

「……ありゃ!」


 すると、彼は茶色い目をまん丸くして驚いた顔をしていたのだ。もしかして、図星か?


「ありゃ! って……」

「えへへ。実はぼく、シイラさんに隠れて『ネクター込みで、三種類のドーピング薬を一気飲み』をしたことがありまして……」

「ええっ!? その、結果はどうなった訳?」

「えーっと……。二時間ほど『軽い昏睡状態』になったみたいで、シイラさんにかなり心配されたと同時に、烈火の如く、怒られちゃいました! えへへ……」

「いやいやいやいや!」


 真生くん。えへへ! で済ますことじゃないのよ!

 隠れて一気に飲んで軽い昏睡状態になりました。って。そりゃぁシイラさんだってかなり怒るに決まってるって!


 でも、実はラボに行った時から、とても気になっていたのよね。

 


『うん。『ネクター含めた全種類一気飲み』をしない限りは、命に別状はありません。なので、安心して飲んでおっけーですよぉ!』



 発言からして、明らかに『やった事がある人』でしか分からない言い方だったから、怪しいと思っていたのよ。

 まさか、目の前にいる、天使の顔をした悪魔の子 真生くんが『隠れて』やっていたとは……。


 私は開いた口が塞がらなかったが、一つだけ分かったことがあったのは良かったのかも。

 それは、あの『ドーピング薬3種類』と『ネクター』の計4種類を一気飲みすると、『短時間の昏睡状態』になることができるという。


 だけど、ネクターも『改良版』と市販で売っている『正規品』があるけど、真生くんが言っている方は『正規品』の方だろう。

 仮に『改良版』でやってしまったら……、うん。やめた方が良いね。


「それで、これをあの人に……」

「これって!?」


 すると、彼はお気に入りのピンクのポーチから、何故か電子タバコに似たスリムな筐体を取り出してきたのだ。


 ちょっと待って。

 それ、レンタルルームで開けて、シイラさんが青ざめていた『錠剤版ゾンビタバコ』じゃ!


 一体どこから!? て、まさか!


「えぇ。『錠剤版ゾンビタバコ』です」

「やっぱり!」

「ですが、中身は『3種類のドーピング薬』と『ネクター』が入っています」

「という事は……」

「そう。『物理的』に制御しちゃえばいいと思ったので、シイラさんに内緒で、持ってきちゃいました! えへへ!」

「それは流石にヤバいんじゃ……」


 方法としてはありなの。だけど、シイラさんに内緒で持って行っていいものでは無いと思うのよ。


 あー、もう、知らない。私は見てない。聞いてない。単純に巻き込まれただけ。


 そう、心の中で言い聞かせながら彼の話を聞いていたが、本当にこの子、思考回路が危なすぎる。やる事なす事17歳とは思えないのよ。怖すぎるって!


「まぁ。ネクターも『普通のではない』奴を入れておきました。あははは!」

「はぁぁあ!?」


 当の本人は、悪戯する悪魔の様に笑いながらも、ベットの端に座って両足をブラブラさせていた。


「ももも、もしかして、改良版を入れたの!?」

「ぅん! でも、タミコさん、安心して下さいね!」

「はぃぃい!?」

「幾ら『改良版』だとしても、『死ぬこと』は絶対に『無い』ので! というのも、改良版は合成麻薬と同じ。単純に『昏睡状態』の時間が長くなるだけだと思うんです」

「もしかして、それも試した?」

「それは流石にやらないです。でも、三姉妹の研究データを見た時、『3種類のドーピング薬は、どんな違法な薬と併用しても、死ぬことは絶対に無い』て書いてありまして……」

「なるほ……、まじか」


 もうここまで行ったら、彼の言うことに従おうかな。

 でも、『ネクター』を抜いたらどうなるのか、自分の身で試してみたい。という興味も出ているのも、本当なのよね。


「あの……」

「ん?」

「一旦、『洋服を交換して』から、試してみる?」

「賛成! ここ、カメラがあるので、ぼくが先に風呂場で着替えてきますね」

「あ。うん」


 なので、一度入れ替わる為に私は脱衣所、彼は浴室まで行ってそれぞれ服を脱ぐことにした。


 だけど、あの服どうやって着るのだろう。背中にフックが付いてるやつだったら、自分じゃ着れないよね!? どうしよう……。



――バサッ!



「えっ!?」


 すると、浴室の扉が少し開いたと思ったら、隙間からゴスロリワンピースとピンク色のパーカーが無造作に投げ込まれていたのだ。オマケに下に忍ばしていたであろう、パニエまでもだ。


 ええっと。これ、総額10万する物なのよね? 新品なのよね? そんなに乱雑に扱っていいわけ!?


 驚いて声が出ちゃったけど、私も早く脱いで渡さないと。

 なので、自身の半袖パーカーのポケットから、ありとあらゆる物を床にばら蒔いて出すと、それを扉越しに彼に渡したのだ。


 よく見ると、普通の女の子が持ってそうな代物じゃない、というのが、改めて認識させられる。

 タクティカルスティックにピンク色をした小型のスタンガンを常備。ってね。あとは、龍樹君のスマートフォンと、私のスマートフォンの二台。

 でも、依頼のためでもあるし、これ以上アンナさんみたいな人が出てこない為だ。今更『やめます』だなんて言えるわけが無い。


 それに、私もやめる気は『無い』からね。

 なので、黒いワイドパンツも脱いで渡すと、早速、ゴスロリワンピースを着てみることにした。


「あれ?」


 パニエを先に着用し、普通のワンピースみたく、上から被るように着てみると、あっさりと上手くできたのだ。


 あれ? 簡単過ぎて思わず拍子抜けしてしまったが、こういうの、あまり着慣れないな。

 私はピンク色の薄手のパーカーを着て、常備二点とスマホ二台をポケットにしまい直すと、扉をコンコン。と叩いてみる。


「できたよ」

「ぼくもできました! って! わぁぁ!」


 しかし、彼は目をキラキラと輝かせると、「これも履いてみて!」て言われ、新品の靴下と共に厚底の靴までも渡してきたのだ。


「ええっと、これは!?」

「靴下は流石に使用済みは渡せないので、新品のを持ってて良かったです!」

「ええっと。わ、分かった! 私は靴だけ渡すね!?」

「ありがとうございます! では、出来たらこれを使用して、ベットへ向かってください」

「これって……」

「吸引器です」

「……はぃぃいい!?」


 そして、彼が笑顔で渡してきたのは……、なんと、『吸引器』だったのだ。

 喘息の人が持ち歩いてそうなコンパクトな筒状タイプで一見害が無い様に見えるけど……。


「ゾンビタバコではないので、安心してください。中身は『3種類のドーピング薬』だけなので、『昏睡状態』にはならないと思います」

「えええっと……」

「その代わり、意識が飛んで『気絶状態』になります」

「なるほど……」

「ま。ぼくも一緒にやるので安心してください! えへへ!」

「……はぁ」

「それに、どんな形でも、ここから出ないと、シイラさんにも会えないので!」

「まぁ、そう、よね……」


 もう、ここまで来たら、やるしかないか。

 ため息混じりに答えたが、ちゃっかり同じ物を二つ用意しているって言うことは、自分も吸う気満々って事か。


 後でシイラさんにチクッとこ。と。

 この子、一人で放置してたら、何しでかすか分からないよ。と。


「じゃあ、先にベットに行ってるね」

「はい。ぼくもやるので。これで『入れ替わり計画』の『前半』が終わりましたね!」

「そう、だね……」


 吸引器の持つ手はかなり震えていたが、やるしかない。

 私は自分に言い聞かせながらもピンク色のフードを深く被って吸引器を口に当て、思いっきり吸い込んだ。


「……あっ」


 そして、何も考えることもなく、徐々に意識が遠のいていく。


 そういえば、この感覚、どこかで……。

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