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マリアナに堕ちたのは、親友ではなく、私でした。  作者: Ruria
ドラッグルームスープ編(後編)
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sideリルド 51番部屋の中は、とても不気味で混沌とした空間でした。

「……」


 俺は知らなかった。

 まさかアイツ、妹のカンナに伝えてなかったのか。自分が『両親を殺してしまった』事を。


 ふと、俺は彼がサーフェスに入社してきた時の事を思い出していた。





 確か、一番初めにアイツに出会った場所は『海横の溜まり場』だった。

 アイツは今みたいな、笑いながらぶっ飛んだ行動をする変人ではなく、無言で空を見つめていた様な、不気味な奴だったな。


 コンクリートの縁石ブロックに座り込み、光のない死んだ目で、ボーッと空を見ては、流れる雲を目で追いかけていた。


「……おい」

「……んん?」


 この時の俺は16だったかな。

 ゴエモンのじーさんから頼まれた仕事をやりつつも。と言っても、大体の仕事は、未成年でもできる簡単な仕事が多かった。例えば、スカウトや書類整理とか、現場視察とか、そんなものだ。


 それらをやりながら、そこで出会ったのが、何を考えているのか分からない程の不思議な少年 シイラだったのだ。

 黒髪で白いTシャツに、黒いカーゴパンツと言ったラフな格好でよく、海横を彷徨っていたんだよな。


 オマケに見た目も今みたいに、タレ目の美形だったせいか、よくホストのスカウトも来ていたが、『興味無い』と言って断っていた。


「お前さ、喉乾いた?」


 しかも、出会ったのも夏の暑い時期だ。俺もまた、黒いTシャツに黒いカーゴパンツというラフな格好をしていたな。今思うと懐かしい。


「……まぁ」

「今から買ってくるから、待ってろ」

「……う、うん」


 なので、俺は近くにあったエイトレイブンで飲み物を買ったんだ。レモンスカッシュと『いちごミルク味』のジュースを買って、彼に渡したら、「ありがとう」と言い残して飲んでいた。


 俺は彼の隣でレモンスカッシュを飲んだが、何か重たそうな過去を抱えている。程度で、事の今まで『人殺し』だということを隠していたのも、正直、驚いたけどな。


「……これ、美味しい」

「悪りぃ。お前の好み、分かんなくて。適当に選んだんだけど……」

「ううん。甘いの、好きなんだ。苺の、甘い味」

「ふーん。んで、お前はどっから来たんだ? 明らかにここの住人ではねーだろ」

「……施設から、抜け出してきた」

「施設?」


 そう静かに頷くと、彼はこんな事を言っていたんだよな。


「2年いたけど、その間がぽっかり抜けちゃって。全く思い出せないんだ」






 それからだったな。だから、住居を確保する為に、サーフェスに連れ帰ってじーさんに状況を説明したんだ。


 今思うと懐かしいが、この51番部屋こそ、彼が『人を再度殺して、ハムスタキロに投稿した場所』でもあるんだよな。


「……はぁ。はぁ」


 不味い。またぶり返ってやがる。

 俺はこれ以上聞けなかったため、扉から離れてフグトラの後ろに隠れていたが、気持ち悪くなる程に息苦しい。


「大丈夫っすか!?」

「悪りぃ。色々とキツイ」

「後ハ任セロ」

「……ナイト」

「コレ、招イタ……。オレノ、責任」


 そう言うと、彼だけ勢いよく扉を開け、中に入って行ってしまったのだ。


「おい! ちょっと待っ……」

「全く。こういう無謀なところも双子特有っすか?」

「そこまでは、知らねぇって」

「ま。先に行ってるっすよ。落ち着いたら来てくださいっす」

「……ありがとな」


 なので、俺は前に行く二人を横目に、少しだけ休むことにした。


 そうだ。あれをしよう。

 なので、再び両耳にイヤホンを着用すると、AIタミコを起動させた。


『……ムルツメスク』

「ふぅ……」


 妙に落ち着くが、さっきは危なかったな。

 危うく、あの時の『再来』になりかねなかった。

 なので、タミコから貰ったペットボトルの麦茶200mlと『セレーヌ』を、パーカーのポケットから取り出すと、再び3錠ほど体内に流し込んだのだ。


 短時間で6錠。麦茶はもう空っぽ。こんなにも薬を過剰摂取したの、初めてかもしれねぇ。だけど、正気でいられるか? 俺。


「……」


 ふと、黒いヤツが俺の横を通り過ぎようとしていたが、何故か足を止め、肩を叩いてきたのだ。


「何だ?」


 そして、片方のイヤホンを外すと、ソイツは周囲を見渡しつつ、耳元でこう告げてきたのだ。


『……。……』

「……は?」

『……。……』

「……。……」

『……。……』

「……あ、あぁ」


 そう言い残すと、ソイツは中へと入って行ってしまったのだ。

 

 おいおい。こんな事を聞いたら、益々助けなきゃ、メンコに怒鳴られるだろ。

 俺はトラウマをかき消すかのように、齧り跡が出来るほどの右手の甲を噛むと、意を決して改造銃を取り出し、部屋へと入ったのだ。


「……は?」

「な、なななな、何だこれはぁぁ!」


 すると、清潔そうだが、どこか中性的な見た目をしたおっさんの目の前のテーブルには、何通か封筒が大量に置かれていたのだ。その隣には……、ナイトとフグトラ!?


「何ッテ、退職届。トイウモノデス。日本デハ会社ヲ辞メル時、使ウ。ヒガンサンカラ、キイタ」

「そうっすよ。口契約だけで、ブラック企業並に彼をこき使っていたなんて、酷いっすよね。ヒジリさーん」

「ぅぐぐ……。かと言って、こんなにはいらねぇだろ!」

「貴方、外国人、ナメスギダ」

「き、ききき、貴様ぁぁ! 我の命令をガン無視した挙句、敵側に寝返るとは! こんの裏切り者がぁぁ!」


 しかも、おっさんは彼の胸ぐらを掴んで発狂していたが、彼は冷ややかな視線で睨んでいたのだ。


 だけど、その隣に座っているピンクのうさ耳パーカーを深く被った人は、パイプ椅子に座ったまま、微動だにしていない。

 パッと見、性別は分からないが、まさかな。


 でも、ちょっと待て。これだけでも情報量が多すぎて、俺だけでは収集がつかねぇぞ。


「あー。リルド。やっほー!」

「やっほー。て、お前なぁ……」


 彼の真向かい側にいたシイラは、ケラケラと笑いながら、目の前で起きている一部始終を見ていたのだ。


 おい。あの時の苦しみを返せ。と言いたいところだが、彼はあんな秘密を暴露されても尚、ケロッとしているのが不思議なんだよな。


「あのさ」

「んん?」

「扉越しから聞いてしまったが、あのクソオヤジから、色々暴露されていただろ。何でそんなに平然としていられるんだ?」

「あー。それはね~、カンナには『何れ言おう』と思っていた事だったから。かな」

「は?」

「言葉の通りだよ。何れバレる秘密だったから、別に隠すことも無いかなぁ。て」

「ほんっと、お前って奴は……」


 訳分からねぇ事をベラベラと言いやがって。

 けど、それがアイツらしいっちゃ、アイツらしい。か。


「で、この状況はどーなってんだ?」

「あぁー。それに関しては、僕から説明するねー」

「あぁ。簡潔に頼む」


 オマケに何故か二人のテーブルには、ピンク色をした、どキツイスープらしき物が置かれているのが、とてつもなく気になるが。


「そうだね。まず、あの目の前のおっさんは鰒川 (ヒジリ)という、鰒川家の頭領みたいでね」

「そうらしいな。まさか、ナイトを口契約でこき使っていたとはな」

「あ。あの人、ナイトさんって言うんだー。見た目がリルドにすっごい似てるなぁ~。て思っていたけど、僕と同じ『血を纏った匂い』がしたからねぇ~」

「おいおい。ナイトはお前と違って、倫理観はあるぞ」

「何それ!? まるで僕が倫理観死んでるみたいな言い方じゃないか!」

「間違った事は一言も言ってねーぞ」

「はぁぁ!? 僕も『一応』、理性がある方だと思うんだけどなぁ~」

「嘘つけ」


 この悪逆非道のサイコパスが。

 彼はぶつくさ文句を言いながら、俺に不貞腐れた顔をしてきたが、間違った事は決して言っていない。


「で、その(ヒジリ)とお前が会話してる内容も、扉越しから聞かせてもらったが、『真生を返せ』と言っていたな」

「そうだね。実は朝から雨のような通知が来なかったから、僕は変だなぁ。て思っていたんだよね~」

「なるほどな」


 まさかの、恋人からの通知が無かったから、心配になって探したら、ここに来た。と言うことか。こいつらにとって、通知は『愛の鎖』みたいなものだろうしな。

 それが無くなっていたら、不自然に思うのも無理はないか。現に俺も、タミコがスマホを置きっぱなしにしていた時、かなり焦ったからな。


「……」


 しかし、ピンクのパーカーを着た人は、黙って座ったままだ。まぁ。黙るのも分からなくは無いか。

 部屋の雰囲気が、10年前とほぼ変わってないのもあるが、コンクリートの壁や床には『黒いシミ』が大量に付いているからな。


 でも不思議だ。みんながいるせいか、気味が悪い程に落ち着いている。


「ドケ」

「うがっ!」


 すると、ナイトは睨んだ目で胸ぐらを掴んできたヒジリの手首を、左手で強く握ると、軽く捻って右グーパンで相手を殴り飛ばしていたのだ。


 おいおい。素手も強いって、どんな修羅場をくぐってきたんだよ。

 

「コレ、俺ノ怒リ」

「ひひ……」


 しかも、次は二発目に向けて、ポキポキと指を鳴らしながら彼を威圧していたのだ。


 だけど、あんなに怒ったアイツ、初めて見るかもしれない。



――ドンッ!



「ぐはっ!」


 次は相手の頭を掴んだ挙句、コンクリートの壁に向かって力強くぶつけていたのだ。


「コレ、美々子ノ怒リ。ダ」


 美々子って。もしかして、メンコの事か?

 二発目の方が数倍怒りが入っていた気がしたのはそういう事か。アイツらしいな。


「うひゃぁー。やり方がエグいっていうか、彼、絶対『殺り慣れてる』よね。あれ」

「お前は少し黙ってろ。シイラ」

「えー。やだぁー。彼には色々と聞きたいことが山ほどあるのにぃー」

「おいおい。何を聞くつもりだ?」


 どうせ、こいつのことだ。初めて見る相手にも『採血していい?』みたいなノリで聞くつもりだろ。この、倫理観バグったクソ野郎が。


「んー? それは流石に言えないよぉ~」

「勿体ぶりやがって」

「ま。だけど、1個だけ言えることは、あの殴られている男が、悪質な闇サイトの『管理人』である事は間違いないかな」

「なるほど。ありがとな」

「うん。でも、大丈夫? 顔色悪いけど……」

「何とか。お前らの部下が作った薬のおかげで、正気は保っている」

「そっか。なら、後で褒美をやらなきゃねー。彼女達には真生の事も含めて、色々とお世話になりっぱなしだからさ」

「ほーん。お前も人間らしいこと、やるんだな」

「うん。仕事をきちんとする人には、それなりに良き報酬を与える。逆に報酬がクソだと、目の前の状況みたいに、やられる訳よ。それが今じゃなくても何れ。ね」

「ふーん……」


 まぁ、こいつの言う事は、時たま正論な事もあるから、俺もあまり無下にはしないんだよな。

 確かに、きっちり仕事をこなしていたのに、褒美が少ないと、やる気は削がれるのはどこの組織や会社だってそうだな。


「まぁ。カラマリアの『暗部責任者』としても、上司らしいことはしなきゃね」

「暗部……、は?」


 おいおい。冗談だろ。こいつ、本当に『上司』だったのかよ。

 呆れながらも、この混沌(カヲス)な状況を見ていたが、まさか、こんなイカれた奴が組織の偉い人だったとは思えないんだよな。


 だけど、今のナイトの怒りっぷりとヒジリのクズさの状況を見たら、納得。か。


「……あは、あひゃひゃ。アヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」

『!?』


 すると、ヒジリが突然、額に真っ赤なケチャップを垂らしながら、狂ったようにこちらを見て笑い始めたのだ。


 なな、何なんだこいつ!?

 まさか、薬で痛みが飛んでおかしくなっているのか!?


「そうか、ソウカ! 丁度良イ。コイツらさえ捧げば全てが解決だ。全て解決。全て解決、全て解決全て解決全て解決全て解決全て解決全て解決全て解決全て解決全て解決全て解決」

『……』

「そして俺は! 教祖様に褒められる! そう! 褒められる! 褒められて功徳を得られ、我は教祖の使いになれる! なれる! そう! なれるんだァァ! アヒャヒャヒャ! ハハハハ!」

「な、ななな、何なんすか!? 突然変な笑い方をしてはブツブツと気味悪い事を言い始めたっすよ!?」

「コイツ、薬ヤッテル」

「あぁ。気をつけろ」


 あまりの急展開に、頭が追いつけなくなった俺は静かに深呼吸をする。

 まるで、人の形をした化け物見たいなやつだ。


「あひゃひゃひゃ。まずは……」

「……」

「お前からだ! 裏切り者と全く同じ顔をしやがって!」

「ぁああ!? 俺!?」


 しかも、ヒジリは何故か目の焦点が合ってない、ラリった顔で、俺の方に向かって来たのだ。


 おいおい。冗談じゃねぇだろ!

 何で俺を狙うんだ! 


「ルーク! 逃ゲロ!」

「リルド!」

「リルドさん!」

「うわっ!」


 だけど、あまりにも突然過ぎたせいか、俺は咄嗟の対応ができず、イカれた奴に首を絞められた状態になってしまったのだ。しかも、コンクリートの壁に押さえつけられているため、逃げ場もない。


 最悪。これ、詰んだかもしれねぇ。


 オマケに襲われた勢いで、身につけていたワイヤレスイヤホンは、両耳共床に落ちてしまったのだ。


 くそ。折角落ち着いていたのに。


「……!」


 ピンクのパーカーの人は俺の状態を見て、かなり驚いていた様で、思わず椅子から立ち上がっていたのだ。


 ったく。ゴスロリ姿なんかしやがって。

 だけど、こんなみっともない姿で悪ぃな。


「……」

「えっ!? ちょっとシイラさん!」


 ふと、彼の背後には、フグトラの焦る声と、シイラがあの時の鬼の様な形相で、ヒジリの背後を狙おうとしていた。


 彼の右手に隠し持つバタフライナイフの刃が、怪しく光る。そういえば、あの時も標的に襲われそうになったんだ。俺。


 でも、あの時とはもう、違うんだ。

 こんなクソに首締められて、人生終わり。じゃねぇんだよ!


「安心……しろ……、シイラ!」

「……え!?」


 俺は絞り出すかの様な声で言うと、右手に隠し持っていた改造銃を取り出し……


「そう……、簡単に……、死なねぇ……、からよ……」

「なな、何してんだ!?」

「だから……、焦って……、殺すな……、ばーか」

「んなっ!?」



――バンッ!



 銃口をヒジリの顔面に向けて、発砲したのだ。


「ぁああああ! 目が! 目がぁぁぁ!」


 あいつは当たった片目を手で塞ぎながら叫んでいたが、中身は催涙弾だ。

 しかも、当たった勢いでテーブルに置かれたゾンビタバコを取りに行こうとしていた。


「ごほっ! ゴホッ! ゴホッ!」


 幸い、首を絞められてまだ数分しか経ってなかったためか、何とかむせ返る程度になっていた。


「大丈夫カ?」

「ありがとう。ナイト」

「ぇぇえ。折角僕が殺ろうとしてたのにぃ!」

「おい、クソシイラ。そんな事やったら、真生くんにも会えなくなるんだから、やめろ」

「あ。そう、だね。ありがとう」

「ていうか、リルドさん、その改造銃ってまさか……」

「あぁ。ヒガンさんから借りてきた奴さ」

「そうだったんすね! なら安心したっす!」

「改造銃……。カッコイイ。イイナ」

「おいおい……」


 今度、ヒガンさんに頼んでおくから頂戴とか、言うんじゃねーよ。バカナイト。

 

 それと、ここにいるかもしれねぇ、彼女を助けないとな。


「うぐぁぁ!」


 すると、ゾンビタバコを吸っていたはずのヒジリが突然、白目を向いて床にぶっ倒れてしまったのだ。


「なな、今度は何すか!?」

「ゾンビタバコの吸いすぎか?」

「いや。違うね。吸い過ぎても白目を向くだなんて有り得ないさ。まさか……」

「……」


 そして、ピンクのパーカーを着た人がヒジリの近くまで歩くと、一言、しかも聞き慣れた女の声で、こう吐き捨てていたのだ。


「Du-te dracului(ドゥーテ・ドラクルイ)

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